彼誰マジックアワー
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「はーい」
ピンポーン、とインターホンを鳴らすと家の奥から見知った奴の声が聞こえて。ガチャリ、と家の扉が開いて顔を覗かせた人物は俺達の顔を見てぱちくりと目を丸くした。
「松野くんに半田くん?」
俺達の名前を呼んで首を傾げる風隠によーっす、と片手をあげて笑えば、どうしたの?と疑問を投げ掛けられたので後ろで塀にもたれ掛かっているマックスと一度目を会わせ、そして風隠へと視線を戻してニッと笑う。
「ゲーセンいこうぜ!」
ーーそうしてやって来た商店街のゲームセンター。何時来てもガヤガヤと騒がしい機械音に耳が慣れてきた頃にツンツンと袖を引っ張られた。
「……で、何でゲーセンなの?」
「何でって、何となく?」
「私あまり来た事ないんだけど…」
「なら今日は思いっきり遊ぼうぜ!」
「今日は半田の奢りだしね」
「マックスも出すんだろ!」
「はいはい」
解せぬ、という言葉がぴったりな程眉間に皺を寄せた風隠の腕を引っ張ってずんずん進む。何して遊ぼうと物色していればフラッとマックスがとあるゲームに向かうのが見えて。その後ろを付いていけば長年愛される赤い帽子の配管工おじさんのカーレースのゲーム。
「これやろう」
「え、」
「おおいいな!やろうやろう!」
有無を言わせず風隠の背中を押して椅子に座らす。そのままマックスと各々100円玉を出しあって風隠の座った筐体に入れ、俺達も風隠の両隣の筐体に座り、お金を入れて準備はOK。
「負けたら飲み物奢りね」
「え、何それ!狡い!」
「ははは、負けなければいいんだよ風隠」
「ーーやー!楽しかった!ゲームセンターって面白いね!」
「お気に召した様で何より」
「風隠のカーレース、今思い出しても……ふっ…!」
「松野くん!」
「いや、俺もあれは面白かったな。本当に体動くやついるとはな~」
「ちょっと!」
そう言いながら先程のカーレースで最下位になった風隠に奢って貰ったコーラを飲む。シュワシュワと口の中で弾ける炭酸に口許が緩んだ。グイッと勢い良く飲み進めてチラリ、と隣を見る。そこにはまだ軽い口喧嘩をしているマックスと風隠がいて。
「……悪かった」
口に出すつもりのなかった言葉に俺自身驚く。恐る恐る二人を見れば、風隠は目を丸くしていて。マックスに至っては眉間にシワを寄せて、風隠の後ろから俺に向かってガン垂れているのにやっちまった、と深く反省。
「悪かった……って、何が……?」
そう聞いてくる風隠自身も、何について謝られているか検討はついているみたいで。先程まで明るかった表情が、今では陰りが見える。
「あの時、」
その表情をみて、どう返したら良いんだろう、と言いあぐねる俺を一瞥したマックスが口を開いた。
「……あの時、僕達が言った言葉は本心だと思う」
だから僕は、謝らないよ。そうはっきりと言ったマックスの言葉に、手元のペットボトルを弄りながら頷く風隠は俺達と顔を合わせない。
確かに、心の何処かではああいう風に思ってた自分がいたと思う。怪我して病院で寝ているしか出来なかった俺達の所へ毎日毎日自分の足で、元気な笑顔を見せにくる風隠に苛立ちもあった。けれど、エイリア石が砕けて正気に戻った時、泣き疲れて眠ってしまった風隠の横で聞いた彼女の話。
彼女の両親の話や、激しい運動を本当は避けなくてはいけないのに、走る事が好きだからと負担の少ない走り幅跳びをしていた事。俺達と戦う前に体を酷使しすぎて動くのもやっとだった事と、実はサッカーがとても上手い事。
知らなかった。気付かなかった。
だって風隠はいつも、俺達の話を聞いてくれて、ニコニコと笑っていたから。
それを聞いて、罪悪感に見舞われた。何て酷い事を俺は言ったのだろうと。それと同じ位、何で言ってくれないんだろうとムカついた。だから、
「……俺達の事、許さなくて良い。けれど、これだけは知っていて欲しいんだ」
もう一度風隠と、友達になりたいって事を。そう言って風隠を見ればポタポタと涙を流していて。その姿にぎょっと驚いて狼狽える俺達に慌てて涙を拭く風隠は「ごめっ…」と謝るばかり。
「……許さない、何て……私こそ……」
「違う。風隠はずっと、俺達の話を聞いてくれてた」
「無神経で、傷付けた……」
「それを言ったら俺達だって」
でも……、と終わりのない押し問答。それに苛立ち始めたのはマックスで。「ああもう!」と大声を出して怒り出すマックスに肩が揺れた。
「僕が言うのもあれだけどさぁ!風隠はどうしたい訳!?」
「………………私は、」
勢い任せにそう言ったマックスにどうどうと宥めれば下を向く風隠にそれが答えか…。と二人で顔を見合わせる。そりゃそうだよな、何て眉を下げればもう一度、「私ね、」と小さく、震える声が聞こえて。
「私ね……松野くんと半田くんと一緒にいるの、凄く楽しかった。居心地がよかった。………でも、」
そう続けて押し黙る。楽しかった、居心地がよかった。それは俺達も同じだよ。今日だってそうだ。気まずい、何て事はなく、ずっとずっと楽しかった。だから、
「……だったらさ。その……本当、俺が言うのもあれだけど、」
仲直り、で良いんじゃね?ポリポリと頬を掻きながら、反対の手をすっと風隠の前に差し出せば、両目に涙を溜めた風隠がキョトンとしていて。その姿を見たマックスが「ふはっ!」と笑い出した。
「確かに!半田の言う通りだ。喧嘩なんてするもんだよね。……友達なんだから」
仲直りしよう。それでお仕舞い。俺の横に立って俺と同じ様に手を差し伸べるマックスをじっと見つめた後、風隠へと目を向ければ。
「~~~~っば、ばかぁ~~!!!!」
そんな悪態をついて俺達の手を握る風隠は、先程よりも更に顔をグシャグシャにして泣いていて。
それにもう一度マックスと顔を合わせて、ふはっと笑った。
花冠をキミに
(「ほら詩音、泣き止めって」)
(「そうだよ、詩音の不細工な顔が更に不細工になるよ」)
(「!2人、とも……なまっ……!!」)
(「「あ~あ」」)
20210529