彼誰マジックアワー
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「……ふぅ…」
人様の家の前で彼是何回深呼吸を繰り返しただろうか。踏み出そうと足を地面から離してみても、そこから一歩が踏み出せず、もうずっとこの場所で足踏みしてる。
「……大丈夫、大丈夫だよ。何の為にここまで来たの、私。みんなに、姉さんとヒロトくんに、会う為でしょ……?」
大丈夫、大丈夫!パンパンッと頬を叩いて活を入れる。そしてもう一度深く息を吸って吐き、よし!と意気込んでインターホンを鳴らそうと踏み出せばガラッと玄関が開いた。
「詩音…?そこで何をしているの?」
「あ……ははは……」
開いた扉から顔を覗かせて首を傾げる瞳子姉さんに思わず笑う。改めてこほん、と一つ咳払いをして姉さんと向き合った。
「……姉さん、元気にしてた?」
「ええ。詩音も元気かしら?」
ニコリと笑うにはまだ不格好な笑みを向ければ、姉さんは肩を竦め、腕を組んで困った様に笑う。その仕草を見ながら元気だったよ。と返事を返していればひょこっとヒロトくんが顔を覗かせた。
「詩音、待ってたよ」
「ヒロトくん……」
優しく笑うヒロトくんに込み上げてくるものがあって。名前を呼べば、色々なものが吹っ切れているのか、心からの笑顔でどうしたの?と笑うのに瞳が潤む。
「ッ!ヒロトくん!」
「ん?……うわ!」
猪の様なタックルをかましながらヒロトくんに抱きつけば、最初こそ驚いてよろけていたが尻餅をつかず、私をちゃんと支えて抱き締め返してくれた。それにまた嬉しくなって瞳が更に潤んだのに気付かない様、ぎゅっと更に強く抱き締める。そんな私に気づいてか、ヒロトくんが優しく背中を撫でてくれた。
「ーー懐かしいね。この部屋、今も晴矢と風介が使ってるの?」
あの後、久々にもう1つの我が家の扉を潜った。あんなに緊張して右往左往していたのに踏み出すのは簡単で呆気なくて。立ち止まっていた自分に可笑しくなって小さく笑ったらヒロトくんが首を傾げたのに何でもないよ、と言葉を返してお家の中を散策し今に至る。
あの頃、私がここで皆と過ごしていた時と何一つ変わらない。部屋割りも木造なお家の雰囲気も。全てが懐かしくて自然と笑みが溢れた。
「あ……ここ、」
一つ一つを噛み締めながら指の腹でそっと壁を撫でる。そうやって歩いていれば目に留まったとある部屋。ピタリ、と足を止めればヒロトくんがニコリと優しく笑った。
「そうだよ。……ここはね、詩音。君の部屋だよ」
カチャリ。そっと開けられた扉の先にあったのは、あの頃私が使っていたままの部屋があって。
「…驚いた?詩音、下の子達にって言って殆どここに置いていったでしょ?何だか勿体なくてね。またいつか、貴方が遊びに来た時にと思って残しておいたら」
「…ここに来るまでに結構時間たっちゃったね…」
「そうね」
フフッと笑った姉さんにごめんね。と謝れば違うんだよ、とヒロトくんからの助け船。
「姉さん、詩音がいなくなったのが寂しくて、片付けるに片付けられなくてこのままなんだよ」
「ヒロト!」
「本当の事だよ?」
「もうっ!」
「……プッ、」
あはは!と二人の掛け合いを見て思わず笑えば、二人は顔を見合わせてふふっと小さく笑った。
「……時間がかかっちゃったけど、よければ私が、片付けしてもいい?」
三人で一通り笑いあって、落ち着いてから静かに言えば、目を伏せた姉さんが…ええ。と返事をした。
「俺も手伝うよ」
「ありがとう、ヒロトくん」
「それじゃあごみ袋持ってくるわね」
「お願い、姉さん」
そうと決まればと行動を起こす。こういう時、三人してぱっと動けるのは家族だからかな、何て思ったり。
「…ヒロトくん、」
「ん?」
どうしたの?部屋から遠ざかる姉さんの足音をBGMに、取捨選択しながらヒロトくんに声をかければ、同じ様に手を動かしながら返事をしたヒロトくんにあのね、と言葉を続ける。
「ありがとう。…この部屋の事もそうだけど、あの戦いの事も含めて」
それから、ごめんね。何も出来なくて。ガサガサと動かす手を止めず、ヒロトくんに背を向けて言いたかった事を告げる。面と向かって言えないのは、ヒロトくんの反応が怖いから。
そんな私に気づいているのか、突然背中に温もりと人の重さが伝わって。
「…それを言うなら、俺の方こそ。手を貸してくれてありがとう。何も言えなくてごめん。君を巻き込んだ癖に、傷付くのを見たくなかったんだ」
「…うん」
「詩音の事だから、助けてくれるって分かってた。傍にいてくれるとも。…君の優しさに付け込んで…」
「…それでも、良かったんだよ」
ヒロトくんから伝わる温もりに安心していれば、今度はヒロトくんが震えていて。お互い、同じ気持ちだったんだなって思ったら何だかほっとして、今度は私がヒロトくんの背中に寄り掛かった。
「手を伸ばすよって言ったのは私だし。血は繋がってなくても、たった数日過ごしただけでも、家族だって言ってくれたヒロトくんだったから。だから私は、ヒロトくんの力になりたかったんだ」
まあ、いた意味あったのかはわからないけどね!何て笑えば背中を預けていた温もりが消えて。思わず後ろによろければ冷たい床ではなく、柔らかい何かに頭を助けられた。
「!?……ヒ、ロト、くん……???」
「……」
私を助けてくれたのはヒロトくんでした。柔らかい何か、はヒロトくんの太腿らしい。お互いの鼻がくっつきそうな位近いヒロトくんの顔に動揺する。きっと今、私の顔は真っ赤だな…。何て思いながらどうしたの…?と聞けば、そっと頬に添えられる手。
「……ねえ、詩音」
「な、に……」
「……もう一度、俺達とさ、家族になってくれる…?」
至近距離で呟かれた言葉は震えていて。尻窄みな台詞と泣きそうなヒロトくんに思わず両手を伸ばす。
「何ならずっと家族だよ!」
ヒロトくんにやられてる様に、伸ばした手をヒロトくんの両頬に添える。そのままふへっと笑って当たり前!と返事をすれば、泣きそうな表情が困った様に笑う表情に変わって。
「……やっぱり詩音には敵わないなぁ…!」
そう言って額を合わせたヒロトくんは嬉しそうに笑った。
陽だまりにキスを
(「ごみ袋持ってきたわよ」)
(と現れた姉さんに二人で笑う)
(その後姉さんはヒロトくんへと近づいた)
(「ねえヒロト、家族でいいの?」)
(「今はね」)
20191110