彼誰マジックアワー
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「あれ、綱にぃと立向居くん」
「お、詩音!」
「こ、今日は!」
今日は。商店街の入り口付近で見覚えのある顔の人が居るな、と見ていれば綱にぃ達で。どうしたの?と聞けば徐にポンッと手を打った綱にぃに立向居くんと一緒に首を傾げる。そんな私達にお構い無く、ニンマリと笑った綱にぃは私の肩を叩いて言った。
「よし!詩音も来い!」
「へっ?……え、どこに?」
「ら、雷雷軒です」
「雷雷軒?」
何故…?何て更によくわからず首を傾げていれば、飯食いに行こうぜ!と言われたのにああ、成程。と今度は私が手を打った。
「監督ー!ラーメン三つ!」
餃子もつけて!あ、炒飯は二つな!お店の扉を開けると同時に大きい声で注文を伝えた綱にぃに、響木さんはそんなに大声で喋らんでも聞こえるぞ。と軽く叱り、次に座ってろ。と席を顎で指したので丁度空いていた四人がけのテーブル席へ腰を下ろす。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
「サンキュー詩音!」
響木さんから受け取ったコップにテーブルに備え付けてあるピッチャーを持って水を入れ、綱にぃと立向居くんに渡せば感謝の言葉を言われて、思わず笑みが溢れた。それから他愛ない話をしていればあっという間にラーメンや餃子がテーブルの上に並べられて。
「それじゃあ、」
「「「いたたきます!」」」
小皿に入れた醤油へ焼きたての餃子を通す。それを口に含めば程よい肉汁が溢れた。
「ん~!美味しい~!!」
頬を緩ませてそう言えば、響木さんは満足そうにそうか。と笑い、綱にぃはニッと笑った。
「詩音は幸せそうに食べるな!」
「だって美味しいんですもん!」
「詩音さん見てたら俺、すっごくお腹すいてきました…!」
立向居くん!?顔を赤らめながら立向居くんを見れば、彼はニコリと優しく笑っていただきます。と手を合わせた。
「…何だか、不思議だね」
ラーメンを啜り、美味しい!と喜びながらモグモグする立向居くんとその横で本当の兄の様に世話を焼く綱にぃを交互に見て思わず言葉が溢れた。そんな私に二人は顔を見合わせ、そして私の方を見てキョトンとした。
「あんな事がなければ私達、出会ってなかったんだなぁって思って」
クスリと笑ってそんな事を呟く。経緯はどうであれ、各々違う場所に住んでいて、普通なら出会わなかったのにこうして出会えた事に自然と嬉しくなった。そんな私を知ってか知らずか、綱にぃがニカッと太陽にも負けない笑顔を溢した。
「俺も嬉しいよ。円堂やサッカーに出会えた。世界は海だけじゃないって知れた。それに詩音、お前に出会えたしな!」
「綱にぃ…」
可愛い可愛い妹分だな!何て豪快に笑いながらテーブル越しに頭を優しく撫でられる。それに照れ臭く、でも嬉しくて思わず頬が緩んだ。
「お、俺も!嬉しいです!」
そんな私達に緊張した様に言葉を発したのは立向居くんで。二人同時に立向居くんを見れば、少し恥ずかしいのか、両方の人差し指をくっつけながらモゾモゾとあの…、と声を溢した。
「…俺、元はMFなんです。でもあの日、フットボールフロンティアでの雷門の、円堂さんのプレイを見て、心が揺さぶられて…!だから、そんな人達と一緒のチームになれたって事だけでも奇跡で…!それでいて円堂さんにキーパー任されて…!」
それなのに…!少しずつ尻窄みになる立向居くんの言葉を綱にぃと黙って聞く。立向居くんの悔しさ。エイリア学園との試合で沢山、ゴールを許してしまった事。それが彼の中で悔しさと後悔を心に沈ませていて。そんな彼に私が言える事はただ一つ。
「…立向居くんは凄いね」
「え、」
少しだけ俯きかけていた立向居くんが、私の言葉を聞いて目を丸くして顔をあげた。その横で、綱にぃは優しく笑っていて。
「あの時の事を素直に悔しいって言える事はね、凄い事なんだよ。だからね、立向居くんはもっともっと強くなれるよ」
だから、大丈夫。自分の可能性を信じてあげて?そう言って笑えば、不安そうに眉を下げて、今にも泣きそうだった立向居くんが静かに目を伏せた。
「……やっぱり、円堂さん達の言う通りですね」
「?」
「貴方に大丈夫って言われると、本当に大丈夫な気がします」
伏せた目を開け、ニコッと笑う立向居くんに今度は私が目を見開く。そんな私に綱にぃが首を傾げて名前を呼んだ。
「詩音?」
「あ…いや、その…」
上手い言葉が出てこない私に綱にぃが優しく笑って頭を撫でた。
「どうした?」
ん?と優しく笑う綱にぃに思わずほっ…と息を吐いた。
「…少しだけ、自信がなくなっちゃって」
「…彼奴等に言われた事か?」
「でもあれは!本心では…!」
私の言いたい事が伝わったのか、二人がそれを否定してくれる。それに塔子とリカにも同じ事言われたよ。と眉を下げて笑った。
「頭では分かってるの。でも、そう思っていたって事も事実。だから少しだけ、どうしたいのか分からなくなっちゃって」
肩を竦めれば立向居くんがそんな…!と呟いた。それに申し訳なくなっていれば立向居くんの隣から聞こえた、難しく考えすぎなんだって!という明るい声。
「迷うって事は詩音、お前の中で大切な事だって事だろ?だったらそれを他人に言われたからって止められるのか?」
「そ、れは…」
「出来ないだろ?だったらそう言う事なんだよ!」
なっ?と乱暴に私の頭を掻き乱す綱にぃは、人の悩みってのは海の広さに比べたらちっぽけな事だしよ!と言ってニカッと笑う。その様子に何だか毒気を抜かれてしまった私はそれもそうか。と笑みを溢した。
太陽に包まれる
(「ラーメン伸びるぞ」)
(響木さんの言葉に慌ててラーメンを啜る姿が可笑しくて)
(そして誰かと食べるご飯は暖かくて)
(緩む頬をそのままに顔をあげれば二人と目が合った)
20190803