彼誰マジックアワー
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「詩音ちゃん」
「…あ、吹雪くん」
どうしたの?学校の校門を潜り、校舎へと向かう道すがら。後ろから優しく肩を叩かれ振り向けばそこにいたのはニコニコと愛嬌のある笑顔で私の名前を呼んだ吹雪くんがいて。首を傾げて聞けば、お願いがあるんだ。と言葉を綴られた。
「ーーーはい!ここが鉄塔広場です!」
「へぇ、ここが……」
吹雪くんのお願い。それは雷門周辺の道案内をして欲しい、との事で。私でよければ!と二つ返事で了承をした。
そこから雷々軒や河川敷等に行き、そして日が沈みかけた頃に訪れた鉄塔広場。
「あれ?これは、」
「ん?ああ、それはね、円堂くんの特訓アイテムだよ」
「これが?」
ポンポンと叩きながら興味深く眺める吹雪くんに思わず笑みが溢れた。ベンチ付近に植えてある木に吊るされている大きなタイヤ。これを思いっきり飛ばして、戻ってくる時にそのタイヤをセーブする特訓を毎日してたんだよ円堂くんは。何て自慢気に言えばそうなんだね。と言葉が返ってきて二人で笑う。
「……ここは、とても素敵な場所だね」
タイヤから視線を外し、小さくなった住宅街を見下ろす。時間も時間だからか、ポツリポツリと光る街の光が幻想的で。ふわりと風が吹き抜けて、吹雪くんが髪の毛を弄ったのを見ながら小さく、…そうだね。と同意をする。
「……あのね、詩音ちゃん」
それから数分、もしくは数十分だったかもしれない。お互い何も言わず、ただ街の風景を眺めていれば吹雪くんが口を開いたのに、ん?と返事をして顔を向ける。
「ありがとう。僕を、暗闇から引き上げてくれて」
肩を竦めてニコリと笑う吹雪くんに驚いて、そして目を伏せる。
「……ううん、私は何もしてないよ」
「そんな事ないよ。詩音ちゃんは僕の背中を押してくれたよ」
「吹雪くん…」
首を横に振って困った様に笑えば真剣な表情で首を振られた。
「…あの時、゛光を恐れるな゛って君が言ってくれた時……ううん、それだけじゃない。コートに入るのを恐れていた時も、アツヤとサヨナラした時も、君が背中を押してくれたから、僕は今ここにいる」
だから、ありがとう。そう言って優しく笑う吹雪くんの顔が霞んだ。思わず顔を背けて、何でもない、大丈夫!と誤魔化すも声は震えてるし溢れ出る涙は止まらないしで多分余計心配かけてるな、何て思ったのも束の間。
「!?」
「…君がそうやって、何時も誰かの為に涙を流すから、僕はその涙を止めたいんだ」
「え、ええーっと……?」
後ろからぎゅっと抱き締められ、お腹の辺りに吹雪くんの腕が回る。そのお陰か、さっきまで泣いてたのが嘘みたいに涙が止まった。
「ふ、吹雪くん……?」
「僕ね、」
吹雪くんの腕の中でもぞもぞと動いて顔を吹雪くんの方へ向こうとすれば、それを許さないと更に腕に力を入れられてしまい身動きがとれなくなった。突然の行動に驚いて顔に熱が集中して何だか熱い。そんな私を知ってか知らずか、追い討ちをかける様に息の含んだ色気のある優しい言葉をダイレクトに耳に受けて全身が粟立った。
「もう我慢はしないと決めたんだ。やりたい事、成すべき事をして更に上を目指すよ。……だから詩音ちゃん、」
覚悟しててね?ちゅっ、と耳に響く音に今自分は何をされたのかを理解した時には吹雪くんは私から離れていて。あまりの出来事に足の力が抜けてへにゃへにゃっとその場に座り込む。
「な……!な……!!」
繰り返す1音と金魚の様に口をパクパクしながらクスクス笑っている吹雪くんを見上げる。その時見た吹雪くんの表情は、獲物を狩る狼の様で。
インスティンクト・ウルフ
(「宣戦布告だよ」と)
(呟いた吹雪くんの声は)
(聞こえないフリをします…!)
20190627