黎明ファンファーレ
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試合開始早々ボールを風丸がとった。そこから駆け上がる風丸を鬼道くんや一之瀬くんが止めようと行く手を阻むも止められず、易々とゴール付近まで進まれてしまった。
「……酷い」
誰かの絶句する声が聞こえた。それが誰かなんて今はどうでも良くて。目の前で次々と雷門メンバーが傷付き倒れていく姿を見ても何とも思っていない風丸達に怒りが込み上げてきた。その怒りをぶつける様に、私は徐に駆け上がる。
「ねぇ!君達のやりたかったサッカーってこれなの!?そうだって心から言えるの!?」
「うるさい!!」
「っ!」
風丸と相対しながら怒りを言葉にして訴えれば、お腹へボールを思いっきり蹴られた。あまりの痛さにお腹を抱えて踞る。そんな私をみて、剣崎さんはふふふっと笑った。
「苦戦しているようですね。…しかし残念です。貴方の力はこの程度ではない筈でしょう!出し惜しみなんてしている暇なんてありませんよ。彼らは貴方達を完膚なきまでに叩きのめしますので!」
「……い…」
「彼らが貴方に抱いていた感情を知っていますか?知らないでしょうね!彼らの思いなんて!」
「……さい…」
次々と罵声を浴びせる剣崎さんは至極楽しそうに声を弾ませていて。その声に私が絶望していると思っているのか、更に声を上げた。
「彼らは口を揃えて言いましたよ。貴方は、」
「うるさぁああああい!!!!!!!!!!!」
プツンと私の中で何かが切れた。それを体現したかの様な言葉は剣崎さんの言葉を遮って。シーンと静まる空気を感じながら俯いていた顔を上げてキッ!と剣崎さんを睨む。
「貴方の言葉は信じない!例えそれが真実だとしても!私は!彼らの言葉でちゃんと聞きたい!」
だから外野は黙ってて!!!!叫びともとれる言葉はフィールドに響く。先程よりも鋭く剣崎さんを睨めば、剣崎さんはフッと笑って目を伏せた。その行為と同時に横から聞こえてきた声に意識を戻す。
「よそに意識飛ばすなんて余裕そうだね」
「松野、くん…!」
聞こえた声の主は松野くんで。いつの間にかボールは松野くんへ渡っていて。片足でボールをキープする松野くんは冷めた目で私を見て、静かに口を開く。
「僕らの言葉で聞きたいんだよね?…なら教えてあげる。僕さ、君の事最初から嫌いだったんだよね。なのに毎日毎日顔出しに来るし。本当お気楽だよね。仲良くなったと思った?残念でした、そう思ってるのは君だけだよ。本当風隠ってバカだよね!」
「!くっ…」
喋り終わると同時にボールをぶつけられた。コロコロと転がるボールをセーブする力もなく、ただ転がるのを薄れる視界の端で捉える。
「…無邪気に笑ってたけどさ、それがどれだけ俺達にダメージ与えてたか知ってるか?知らないだろうな。お前が、人の気持ちを全くわからないお前が人の助けなんて出きる訳ないだろ!」
「半田、くん…」
転がるボールを止めたのは半田くんは、先程の松野くんの様に本音とボールを私に浴びせる。
「……」
「……風、丸……」
「……ずっと」
流石にヒロトくん達と一緒に戦った時のダメージがまだ残っている所為か、何時も以上に体力のない体がもう無理だと悲鳴をあげている。このまま倒れ込めたらどれだけ良いだろうか。でも、それを風丸は許してくれなくて。霞む視界の中、ユラリと風丸が動くのを感じた。
「…ずっと思ってた事がある。お前、本当は俺より足早いだろ。なのに種目が違くてさ。俺の惨めさ、知らないだろ。…なあ、何でお前は同じ土俵にたってくれなかったんだよ。そうすれば俺は、ちゃんと向き合えたのに…!なのにお前は、大丈夫って…!!その言葉がどれだけ!どれだけ俺を!!…なあ!分かるか!?分からないだろ!!!!」
「!く、はっ……!」
「詩音!」
集中砲火を受ける私に近寄ろうと声をかける塔子に手で制止をする。そのまま塔子の方を向いて大丈夫だと意思表明の為、にこりと笑えば眉間に皺が寄った塔子がいて。そんな私に苛立ちが頂点に達したのか、風丸が声を荒げた。
「っ!そういうのが!嫌いなんだよ!!!!」
「風隠ッ!」
ああヤバイ。そう思った時には既に遅く。蹴られたボールの威力を受け流せず、体が宙を舞った。一瞬の出来事だったのに時が長く感じられて。背中からドサリと地面に倒れた私の名前を叫んだのは誰だろう。
「…おい。寝転がってないで起きろよ。サッカーやろうぜ」
「風丸!いい加減にしろ!風隠は、」
「円堂、くん……大丈夫。大丈夫、だから」
「風隠…」
コロコロ…と転がっていったボールを風丸が足で止め、蔑むような声で私に向けられた言葉。それに反応した円堂くんが怒ってくれたけれど、それを止めて円堂くんに平気だと笑いかけるも、眉を下げて心配そうに名前を呼ばれてしまった。
「ははっ…みんな、心配性だなぁ…」
プルプルと震える腕に力を込めて踏ん張る。起き上がる力も、立ち上がったところで走り出す力ももう残っていない。それなのに起き上がらなきゃ、と自分を鼓舞する理由はきっと。
「…風、丸」
ヨロヨロと立ち上がり、私を冷めた目で見る風丸と相対する。優しく名前を呼べば、ほんの一瞬風丸の瞳が揺らいだ。
「風丸、松野くん、半田くん…。私の事、そんな風に思っていたんだね。…ごめんね、私、全然気づかなかった」
眉を下げてくしゃりと笑って一歩距離を詰める。そうすれば同じ様に一歩後ろへ下がると思っていたのに、風丸はその場から動かなくて。
「私、みんなに甘えてた。…松野くんも半田くんも、一緒にいると本当に居心地がよくて楽しくて。…私にとって、本当に大切な友達だから、二人には何時までも笑っていてほしかった」
それなのにそんな思いをさせてたんだね、ごめんね…。そう言って風丸越しに二人を見れば顔を背けられてしまった。そのまままた一歩、風丸と距離を詰める。先程よりも近くなった距離に風丸の表情から滲み出る、これ以上近づくなという拒絶。だけどごめんね、それには応じれない。
「風丸。…私ね、走る事が好き。それは本当。あの日風丸に陸上部来ないか?って勧誘された時は凄く嬉しかった。私にも走る場所があるって。…でもね、心の奥底で気づいてた。私は皆みたいには走れないって。でも走りたかった」
だって風丸、君が誘ってくれたから。フワリと笑って静かに言葉を吐く。その際、もう一歩距離を詰めれば風丸との距離は残り半歩分となった。
「…私ね、気づいてたよ。君が重圧に苦しんでる事。走る事に迷ってる事。今にも壊れそうな心をずっと、頑張って支えてた事。……だけど何時も、それに気づかないフリをしてた」
だから、ごめん。手を伸ばせば届く距離。詰めたのは私だ。けれど、この距離に少し、ほんの少しだけ怖くなって顔が俯いた。ぽつりと吐き出した言葉は弱々しくて。ああ、ダメだ。ここで私が弱気になってどうする。そう自分を奮い立て、顔を上げる。
「正直言うとね……サッカー部に、行ってほしくなかった。私を陸上部に勧誘した君が、陸上部を離れるのが嫌だった。そう思ってしまう自分が嫌だった。…でもね、助っ人で試合に出てる風丸を見て、引き留めちゃダメだって、応援しなくちゃって」
「……」
「あの日、仕方ないと楽しそうに笑っていた風丸は、ちゃんと前を向いていたよ。…相手が誰であっても、自分より強くても、みんなちゃんとそれを受け入れて上を目指してたよ。…ねぇ。今の自分は、自分自身にどう映ってる?」
本当にそれで胸張れる?苦しそうに顔を歪ませた風丸に手を伸ばす。あと少し、あと少しで手が届く。その矢先にカッと目を見開いた風丸が動き出そうとしてるのが分かった。コンマ数秒の判断。動かなきゃ、そう思うよりも先に、体が動いた。
「うるさい!!!!!!!」
切なく絞り出す様な言葉と同時に力いっぱいボールを蹴る風丸の反対から同じ様に力いっぱいボールを蹴る。そうすればボールは私と風丸の間で動かなくなった。
「っそうやって!何時までも逃げるのなら!怒るよ!!」
逃げないでよ!うるさい!言い合いながらもボールに意識を向ける。このまま睨み合っていれば、何れは私が押し負ける。そろそろ足に力が入らなくなってきたから。なら、最後の力を振り絞って…!
「っ!」
一瞬ボールから足を離す。そうすれば風丸は今までの押し返す力がなくなった所為で少しよろけた。その瞬間を見逃さず、ダンッと足に力を入れて間髪入れずに叫ぶ。
「なに!?」
「゛ルーメン・ステラ゛!!」
ピカッ!と突然の光に風丸が顔を腕で覆い、後ろに後退る。その一瞬を見逃さず、ボールを奪い取る。
「ナントォー!!!ここに来て風隠、新必殺技で防いだァ!!!」
「はぁっ……はぁっ……!」
「くそっ!」
角間くんの実況が木霊する。それを遠くに感じながら、苦虫を噛み潰した様な表情で睨む風丸から目を反らさず対峙する。上がった息を整えようと深く息を吸うも意味もなく、視界がチカチカとしてきた。そろそろ本当に、私の限界だ。
「くっ……!円堂、くん……!!」
最後の力を振り絞って円堂くんへボールをパスする。踏ん張る力も残っていなかった私は、蹴った足の遠心力でそのままドサリと地面に倒れてしまった。
「風隠!」
「っ円堂!」
「風丸……うおぉおおお!!!」
私から受け取ったボールを天高く掲げ、円堂くんが雄叫びをあげた時、円堂くんから青白い、温かい光が溢れ、風丸達を覆っていく。
「円、堂……」
「っ…戻って、こい!!!!!!」
バ風丸!!!!!光に包まれ、風丸達の胸元で光輝くエイリア石にヒビが入ったのを見逃さない。間髪入れずに叫べば、目を伏せた風丸がふわりと、笑った気がした。
ツァールトハイトの輝き
(砕け散ったエイリア石と)
(気絶し倒れた風丸達に)
(駆け寄る力も残っていない私は)
(一人蚊帳の外)
20190613