黎明ファンファーレ
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「っはぁ……っはぁ……!」
けたたましい音を響かせながらボールがゴールへ収まった。あの日、必殺技って憧れるよね!何て鬼道くんに笑って言っていた自分が懐かしい。肩で息をしながら今の感触を頭の中で復習する。幼い頃、たった数日しかいなかったお日さま園で晴矢達と笑いながら考えた必殺技を、今こうして形にするなんて誰も思わなかっただろうなぁ…と中々整わない息を落ち着かせながら空を仰ぐ。生憎の曇り空は、今の私の気持ちを表してるんじゃないか何て考えて空を睨んだ。
「…私の出来る事は、たったの2回か…」
その2回が、成功するとは限らないんだけどね…。やっと落ち着いてきた呼吸にふぅっと深く息を吐いたのと同時に呼び出しのアラームが鳴った。こんな朝早い時間に…?と不思議に思いながら確認すれば飛び込んできた名前に固まった。
「……失礼します」
お父さん、詩音です。襖越しに名前を言えば、入りなさい。と中から声が返ってきた。
「久しぶりですね、詩音」
「久しぶりです、お父さん…」
遠慮ぎみに近づき、テーブルを挟んでお父さん、星二郎さんの真正面へと座る。ヒロトくんにここへ連れられてきてから初めての対面で変に緊張する。
「そんなに畏まらないでいいですよ。少し話をしたいと思ってね」
「話…」
目の前に出されたお茶にありがとうございます。と受け取って一口飲めば、ほんのり苦いお茶に思わず顔を歪めた。
「ジェネシスはどうですか?」
「凄く、強いチームですね」
私がいるのが申し訳ないです。あはは。と笑って答えれば、穏やかな顔をしていた星二郎さんの顔から表情が消えた。
「なら詩音。ここからいなくなりますか」
疑問符のつかない言葉程怖いものはない。これは質問ではなく命令だと言わんばかりの台詞に負けじと言葉を返す。
「いなくなりませんよ、私は。グラン直々のスカウトですから。やる事はやりますよ」
ニコリと笑ってお茶、ありがとうございました。と一言付け加えて立ち上がる。襖に手をかけ、開けようとした所でああ、そうそう。と背中に声を投げられた。
「やる事をやってくれるのなら私はそれで構いませんが、徹底的にお願いしますね」
スピカ。エイリアネームを冷徹に言われたのを背中で聞きながら襖を開ける。出ていく前に振り返り、当たり前です。ともう一度笑って襖を閉めた。
「…やる事はやりますよ。私自身のやる事を」
襖を閉めたその場所で小さく呟く。その為にも、私はここで足掻くんだ。
改めて決意し来た道を戻る。板張りの廊下から無機質な廊下への変わり目に差し掛かった所で壁にもたれ掛かるヒロトくんを見つけた。
「どうしたの?」
「…父さんに呼ばれたって聞いたから」
「心配してくれたんだ」
ありがとう。大丈夫だよ。へらりと笑って言えば眉間に皺を寄せていたヒロトくんの眉間から皺が消え、そして言いづらそうに口を開いた。
「これから、最後の戦いが始まる。…俺達は雷門を相手に、勝てると思う?」
下を向いてそう呟いたヒロトくんの表情はわからないが、弱々しく吐かれた言葉に彼の本音が聞けた気がして少しだけ嬉しくなった。
「…私ね、今回の勝敗はどうでも良いと思うんだ。大切なのはこの戦いで、どんな結末になるか、だと思うんだよね」
そっとヒロトくんの手を掴めば、ゆっくりと顔が上がり、視線が交わったのに優しく笑いかける。
「私は私の出来る事しか出来ないけれど、やれる事はやるよ。…助けてと手を伸ばしてくれたこの手に、笑顔の未来を届ける為に」
だからヒロトくん。最後まで、私と足掻いてみよう?ギュッと握って、ね?と笑顔を向ければ一瞬驚いた顔をして、そして直ぐに敵わないなぁ。と泣きそうな笑顔を向けたヒロトくんに大丈ー夫。と続ける。
「きっと良い方向に向かってるよ。私の勘は当たるんだから!」
だから、絶対大丈夫!言葉をかけるのと同時に召集のアラームが鳴った。どうやら雷門の皆が来た様だ。二人でアラームの鳴る天を仰いで顔を見合わせ、こくりと頷いて一歩踏み出した。
終演クレアシオン
(グラウンドに現れた雷門の皆に)
(見えない様に隠された私は)
(ただ静かに、事の結末を傍観する)
20181009