黎明ファンファーレ
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「行ってきます」
玄関から誰もいない家へ声をかける。私を養子にしてくれたお義母さんとお義父さんは大変忙しい人で、家にいる日が殆どないが、帰ってくる時は我が子の様に愛を注いでくれるとても優しい人達だ。毎日メールや電話もしているし、寂しくないと言えば嘘になるが、今の生活が嫌いな訳ではないし、何なら側にいて?と我儘吐いた日には一緒に海外へ何て事になりかねないと口を噤んでいる。なーんて、私の情報はいらないか。
「…よう、」
家の扉を閉め、鍵をかけて学校へ向かおうと歩き出す為振り返ってみれば、私の名前を呼ぶ声と久し振りの青髪がそこにいて。
「風丸?何で?」
「何でって、別に良いだろ」
「まあ、そうだけど」
「…ちょっと話さないか」
有無を言わせず腕を捕まれ引っ張られる様に歩き出す風丸にああこれは学校遅刻か、又は休むパターンだろうな。と捕まれた腕を見ながら思った。
「風丸、痛い」
「…悪い」
直ぐに離された手を自分の方へ引き、捕まれていた腕を擦る。少しだけ赤くなった腕に何故か悲しくなった。
「…何か、あった?」
「……」
恐る恐る聞くが、何も言わない風丸にどうしたものかと考え直す。ここまで私を連れてきたという事は、何かしら聞いて欲しい事があるという事で、それを促してもきっと口を噤むばかりだろうから、ここは心を鬼にして、君が口を開くのを待とうじゃないか。
「……」
「……」
さて、硬直状態になってからどれくらい時間がたったでしょうか。何て頭の中でクイズ番組が始まりそうなくらい無言。流石にこの空気に苦しくなってきた、と痺れを切らして口を開こうとしたら風丸が重々しく、……あのな、と喋りだした。
「俺、サッカー部やめた」
「へぇ……はぁ!?」
え、ちょ、は?動揺しすぎて言葉にならない。ちょっと待ってどういう意味?何てやっと言葉になったと思ったら馬鹿な事を聞くものだから、風丸自身もバカだと思ったのかそのままの意味だけど。と眉間に皺を寄せた。
「なんで、」
「俺さ、最初はサッカー楽しかったんだよ」
「…うん、知ってる」
苦しそうに笑いながら、だよな。と返事を返す風丸を見て、拳に力が入る。それを誤魔化す様に言葉を促せば静かに、でもな。と発せられた。
「最近、分からないんだ。何でサッカーやってるのか」
「……」
「色んな所に行って、エイリア学園と闘って、新しい仲間を増やして。その度に俺の力の無さを痛感する。…吹雪は凄いんだ。DFもFWもこなせる奴でさ。財前と浦部は元気でさ。あいつらがいるだけで士気が高まる気がするし、立向居は努力家で負けず嫌いで。木暮なんて、」
「待って!風丸待って!」
ぎゅっと風丸の両手を掴む。そうすれば一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに目を反らし、俺は何も出来ないんだよ。と笑ったのに目が潤んだ。
「俺が彼処に居ても足手まといなんだよ。現に抜かれまくってたしな。…円堂みたいに、強敵を前に笑ってられなかった」
「そんなの当たり前!自分より強い人がいたら怖いの当たり前!それが普通!…風丸、サッカー始める時言ったよね?円堂くんはサッカーバカなんだって。円堂くんと風丸は違うでしょ?風丸は風丸だよ?その気持ちは風丸自身の気持ち!強い奴が怖い!当たり前!当たり前なんだよ!」
「それでも!」
俺は、逃げたんだよ。そう言って振り払われた手に、もう何を言っても伝わらないと気づかされた。
「…風丸、逃げたって良いんだよ。大事なのはその後、自分がどうするかだから。…私は見つけたよ。飛べなくなった先で、何が出来るかを」
だから風丸、そっちにだけは行かないで。走り去る後ろ姿に頑張って塞き止めていた涙が溢れだした。遠くなる背中は苦しそうで。また私は風丸を救えなかったんだと止まらない涙に怒りを覚えた。
秋風セレナーデ
(今思えば、)
(この時私が君を救えてたら)
(未来は変わっていたんじゃないかと)
(思わずにはいられない)
20180824