黎明ファンファーレ
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「おー風隠」
「来たよー」
豪炎寺くんと会ったあの日から数週間が経った。
我が雷門中サッカー部が日本を巡って各所に現れるエイリア学園と戦う姿をテレビ中継で観て、私も何か出来ないかと考えるも、雷門に残っていればする事もなく、勝手に落ち込んでいた所に舞い降りた入院中のサッカー部員への書類渡し。雑用を押し付けられた。と一度は思ったが、特にやる事もないし、何ならじっとしてるとまた勝手に落ち込んでしまいそうだったので快く引き受け、それから毎日の様にこの病室へと足を運んでいる。
「…というか、何してるの?」
「見てわかりませんか!自主練ですよ!」
「ベッドの上で?」
「僕ら動けないので!」
ハッ!ホッ!と言葉を発しながら上半身のみで腕立てやら何やら行っている少林寺くんに顔をしかめる。
「風隠、顔歪んでるぞ」
「残念に磨きかかってるよ」
「よーし!半田くんに松野くんそこに座れー!」
「何で俺もなんだよ!」
拳を握って言えば突っ込みを入れる半田くんに冗談冗談。と笑い返す。ったく。と息を吐いた半田くんを横目に松野くんが先程の事を気にしてない素振りのまま何か思う事でも?と口を開いた。
「あー…まあ、うん、そうだね」
「何?歯切れ悪いな。ちゃんと言いなよ」
ズバッと言ってくる辺り松野くんだな。て思うが上手い言葉が出てこず頬を掻く。その姿に半田くんがよし!と声をあげた。
「悪いけど少林。俺とマックスと風隠、少し外すな」
「はい!わかりました!」
「じゃあ行こうー」
なっ?ニカッと笑った半田くんとやれやれと肩を竦めた松野くんに部屋を出た廊下でありがとう。と伝えれば風隠ってバカだね。と松野くんに笑われた。
「で?」
「……はっきり言わせていただきますが、」
「おう」
病室を出て中庭に向かう。丁度良く大きい木の下のベンチが空いていてそこへ座れば続きをどうぞと言わんばかりの松野くんの言葉に少し力んでしまった。
「今の君達の体で自主練はやめた方がいい」
ああいうのは逆効果だよ。先程の少林寺くんを思い出して顔を歪ませる。
最前線を行く風丸達がどんどん上へいってしまっていて、それでいて新しい仲間が増えていく。その状況をテレビで観て、何も出来ない自分にイラつきと焦りが出るのもわかる。でも今は、怪我を直す事が先決だ。二兎を追う者は一兎をも得ず、何て言う言葉があるくらいだ。今のままでは何も得られないし、それどころかこのまま皆の元へ戻る事が出来なくなるかもしれない。
「…辛い事だってわかってる。でも、2度とサッカー出来なくなる方がもっと辛い事だよ?」
眉を下げて笑う。違う形だとしても、私はもう飛べない。飛び方を忘れてしまったから。怪我した訳じゃないんだからまた飛べるよ、と思うかもしれないが、本当にもう、飛べないんだ。その悔しさを知ってか知らずか、おどけた声で二人が言った。
「風隠に言われたらなー」
「余り無理は出来ないね」
自分の言葉で俯きかけた顔を上げれば木漏れ日に照らされる二人の顔に思わず目を細める。眩しいなぁ、何て。色々と込み上げてくるものがあって、思わず泣きそうになった。
「…皆が、笑ってまたサッカー出来るといいね」
そう言って空を見上げれば、当たり前でしょ。という声と同時に横から頭をコツンと叩かれた。
「だから、風隠は笑っていなよ。元気が取り柄でしょ」
「…松野くん辛辣だなー」
「まあまあ。俺も、風隠は笑ってた方がいいと思うよ」
元気だせってな!バシンと背中を叩かれて背筋が延びる。痛みに目を潤めながら二人をみれば笑っていて。
「…そうだね!笑顔でいるよ!」
「おお、その調子!」
「アホっぽくていいよ」
何だとー!何時もの様に三人ではしゃいでいれば、鳴り響いた夕焼けチャイムに現実に引き戻された。
「それじゃ、今日は帰るね」
「ああ、今日もありがとうな」
「毎日来なくていいからね」
「来ますー!そういわれたら毎日来ますー!」
べー!っと舌を出して言えば可笑しそうに笑う二人にこっちまで嬉しくなって笑う。
「じゃあね!」
帰路を振り返って手を振れば、二人はやっぱり笑いながら振り返してくれた。
落陽トロイメライ
(詩音、)
(帰り道の河川敷)
(歩いていれば聞こえた声に)
(思わず振り返って立ち止まった)
20180814