アフターグロウ
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「そちらでも、頑張って下さい!」
応援してます!夕陽に照らされた横顔にそう伝えれば、ああ。と今まで見た中で一番綺麗に風丸さんは笑っていた。
先日、グラウンドで久々に会った憧れの風丸さんはすっかりサッカー部の一員で、俺はその事に受け入れられず思わず口走った。陸上部に帰ってきてください!と。それに対して風丸さんは困った様に笑うだけで、その姿に何ですぐに戻ると言ってくれないんだろうと腹が立った。風丸さんは陸上部の一員でレギュラーの人。憧れの先輩がいる部活に入って一緒に練習して。それが凄く楽しくて嬉しくて。なのに前触れもなく風丸さんは助っ人としてサッカー部に入り、一週間で戻ってくると思っていたのにそのままサッカー部員になってしまった。何で、どうして。八つ当たり染みたその言葉の矛先は詩音さんで。一週間で戻ってくるって言ったじゃないですか!と言葉で問い詰めれば、詩音さんは眉を下げてそうだったね、ごめんね。と貴女の所為じゃないのに俺に謝った。きっとその時から、否、風丸さんが助っ人すると知った時から、詩音さんはこうなる事がわかっていたのかもしれない。風丸さんが陸上から離れるだろうと。だって、あの人は他の誰よりも風丸さんの良き理解者だから。だから、止められなかったのかもしれない。誰よりも優しい人だから。そして、あの日風丸さんとグラウンドで会った時、戻ってきてほしいと切に願い、想いをぶつけた。口からでかかった言葉を飲み込んで、簡潔に戻ってきて下さいと。これが最後のチャンスなんだと自分に言い聞かせて。
「…俺じゃ、無理なんですよ」
スタジアムを離れ、帰路を歩く道すがらでポツリと呟く。風丸さんから、今日の試合を観に来てくれ。と頼まれてスタジアムまで足を運んだ。この試合に負けて、風丸さんが戻ってきてくれればと始まる前に神頼みしていた俺は凄く後悔したんだ。あの場の熱量と、風丸さんの本気に。説得するつもりが説得されてしまった、滑稽な話だ。
「言えなかったなぁ…」
俺の言葉だけでなく、詩音さんの事を言ったら何か変わっていただろうか。なんて、
「後悔はしていないのに、思ってしまうな…」
後悔はしてない。それは本当。風丸さんの本気を見て応援したくなったのも本当。でも、それでも。
「あの人を助けられるのは、貴方だけなんですよ」
あの日、美しく空を舞っていた人が地に落ちた。大丈夫だと笑った顔は今にも泣きそうで、でも俺達に弱音は見せてくれなくて。それでも、わかってしまったんだ。きっと、傍に風丸さんがいないからだと。そして何故俺には、飛べなくなった詩音さんに何一つかける言葉が見つからないんだと悔しくなった。
「詩音さん、お願いです。辞めないで下さい…!」
もう一度、貴女が空を舞う姿を見たいんです。夕焼けに染まる河川敷は眩しくて悲しくて、思わず目を背けた。
泣顔シューティングスター
(それから数日後)
(詩音さんは部を辞めた)
20180726