天翔音姫
夢小説設定
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ピチョン。何処かで何かが溢れ落ち、音を立てたのに目を覚ます。ゆっくりと目を開けて周りを見渡しても暗闇ばかりで、目を開けているのか閉じているのか、段々あやふやになってきた所でああ成程、と現状を理解する。
「……これ、きっと、夢だ」
静かに言葉を溢せば、それを正解だと空間が教えてくれてるのか、少しだけ歪んだのに見覚えがあって。
「…また誰かと、共鳴してる…」
そう呟いて眉間に皺を寄せる。小さい頃は毎日の様に共鳴してた。それはまあ、あの施設にいたからっていう理由もあるんだけれど。毎日毎日溢れ流れてくる負の感情が怖くて眠れない日が良く続いていた私を救ってくれたのがウェンで、あの日ウェンと出逢い、施設を抜け出してから見る頻度が少しずつ減っていたんだけどなぁ…。
「きっと近くに、助けを求めてる子がいるんだね…」
この世界は真っ暗だ。何の音も聞こえないし、誰もいない。独りぼっちの寂しい世界。そんな場所に独りでいるのは寂しくて悲しいから。
「……君の声を、聞かせてほしいな!」
誰に言った訳でもなく、この真っ暗な世界に響き渡る様に声を張り上げる。木霊した声が消え、少ししたら遠くから何かを喋る声が聞こえて。
「…うん、いい子。そのまま、全部吐き出して」
その声の方へ走って向かう。段々と声が耳に届く様になると聞こえてきた、もう嫌だ!の声に眉間に皺が寄った。
『俺が嫌だって言っても誰も助けてくれない!』
『お前らなんか大っ嫌いだ!』
『もう誰の力も頼らない!』
『嫌いだ、大っ嫌いだ!』
『お前ら、』
人間なんか大っ嫌いだ!!劈く悲鳴の様な声は今にも泣きそうで。感情に共鳴したのか私もつられて泣きそうになる。だって、この子の置かれていた過去は私と同じ様な境遇で、安易に想像できてしまったから。
「っまだ…!まだ諦めないで!確かに悪い人間もいる!それは確か!でも!全員がそういう人間ばかりじゃない!君の事!大切にしてくれる人間だってきっといる!!」
だから!そこまで言って、世界が光に覆われた。最後に伝えたかった事は伝えられず、光に包まれて。
「……っ、ハッ!」
伸ばした手は空を切り、視界は夜空を写した。ハァッ…ハァッ…!と落ち着かない呼吸を繰り返していれば横から伝わる温もりにそちらを向く。
「ブライト…」
『シエルっ……!!』
わー!と抱きつくブライトを落とさない様に抱き締め返す。心配したんだよ!と泣きながら訴えるブライトをごめんね。と優しく撫でていれば私の頭を撫で回す優しい手。
「ウェン…」
『…また何処かに、行っちゃうのかと思ったよ』
「ごめん」
いいよ、ちゃんと戻ってきてくれたから。そう言って微笑むウェンに涙が溢れる。ボロボロと溢れる涙をそのままに、ブライトを抱えたままウェンに抱きつけばよしよし、と背中を撫でてくれる。
「ふたりとも、私の我儘、聞いてくれる…?」
嗚咽混じりに発した言葉は果たしてちゃんと届いたのだろうか。ギュッとウェンを抱き締めれば私とウェンの空間からひょこっと顔を覗かせたブライトが当たり前!と笑った。
『シエルが行く所に僕らは行くよ。だってそこが、僕らの道だから!』
『俺達に気を使わなくて良いんだよ。俺達は、シエルがやりたい事を手伝う為に傍にいるっていうのも理由の1つだからね』
だからシエル、君は何がしたい?2つの視線が私を捉える。その瞳には強い光が灯っていて。
「…私は、あの子を…闇に囚われてしまっているあの子を助けたい」
『よーしっ!』
『なら決まりだね』
強い眼差しに感化されて自分の拳に力を入れる。助けられないかもしれない。どうする事も出来ないかもしれない。それでも、私があの子のSOSを受け取ったんだ。だから、
「行こう。手を伸ばしに」
溢れ落ちていた涙を乱暴に拭い、ブライトを腕に抱え、私が乗りやすい様に屈んだウェンの背中に乗る。それを合図にウェンが羽根を羽ばたかせ、空へと舞う。
『それで、どこへ向かう?』
『その子はどこにいるの?』
「うん。それについてはもう見当がついてる。…目指すはこの先にある街、コガネシティ!」
ウェンとブライトの質問に頷き、そして少し先に見える人工的な光を見据える。その光は苦しくなる程目映くて。止まった涙がまた溢れそうになるのを踏ん張って堪えた。
20191015