泡沫パレット
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「な、頼むよ!」
「はぁ…まあ、いいですけど」
悪いな!そう言って画材を渡してきた美術教師は他にも仕事が残っているらしく、来た道を颯爽と走って戻っていった。腕の中にある画材に視線を落として溜息一つ。これから部活があるにも関わらず、面倒なことを押し付けられたものだ。そうぶつぶつ言いながら階段を上っていく。
そして、あと数歩のところで立ち止まる。何度来ても何度見ても、この絵を見れば自然と肩の力が抜けて自分でもわからない感情に飲み込まれる。けれどそれは嫌な感情ではないからもどかしい。
「でもきっと、捨てちゃいけない感情の様な気がするんだ」
なんでだろうな。儚く笑って絵の中の自分に問いかける。そんな事をしたって答えは見つからないのに。
「…おっとそうだった。早くこれをおいて行かなくちゃな」
ハッと我に返り、美術室へ向かう。ドアを開ければ、部屋中に広まる絵の具の匂い。やっぱり慣れないな…。そう思いながら教卓に持ってきた画材を置く。そしてぐるりと眺めて見つけた。使い古されたエプロンとその横にある一枚の絵に。
ただ単に興味本意だった。見つけたから見てみたい。そういう人間の本能が働いただけ。
「あ……この絵」
見てから気付く。この絵はあの絵を描いた『誰かさん』の絵だと。直感的に感じた。2枚しかまだ見た事がないのに、そう感じたのはきっと、絵から滲み出る優しさの所為なのかもしれない。
「…なんだ。意外と近くにいるんだな」
呟いて静かに笑う。こんなに近くにいるのなら、もしかしたら出会っているのかもしれないな。なんて少し期待を持って。
「あ、そうだ」
そこら辺にあった要らなそうな紙と鉛筆を拝借して、ガリガリと言葉を綴る。届けばいい、届いてほしい。そう思いながら、一文字一文字丁寧に思いを綴った。
幻月パステル
(ありがとう。)
(今度試合があるんだ)
(君に見てほしい)
20140303 → 20180703 加筆、修正