泡沫パレット
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「え?」
「だから、あそこの絵を描いたの、詩音ちゃんでしょ?」
今日は部活がないんだー!と美術室に入ってきた親友は他愛ない話を一つ二つしたと思ったら前触れもなくこの話を持ち出したのに、キャンバスに向かおうとした矢先だった私はピタリと止まってしまった。
「……あらあら木野さん。なぜ私だと思うのかしら?」
「あらあらご冗談を。あの絵にだってサイン入ってるじゃありませんか」
オホホホと悪ふざけに悪ふざけを被せる辺り流石は親友と言うべきか。お互い顔を見合わせてクスクスと笑う。
サイン。わかる人にはわかる私のサイン。誰が描いたかバレたくない私はそのサインをとても小さく描いたと言うのに。
「よく見つけられたね」
「見つけなくたってわかるよ。詩音ちゃんの絵は」
「わかるの?」
「わかるよー」
そんなに私の絵は分かりやすいのだろうか。今度から絵のタッチを変えるべきか…。と改めて筆を持ち、キャンバスに向かいながら考えていたら横からだってね、と優しい声が聞こえてきた。
「水彩でも油絵でも、どんなに絵のタッチや描き方が変わったとしても、詩音ちゃんの絵は優しいから」
「優しい?」
「そう、優しいの」
そう言って私の描く絵を目を細めて笑う秋ちゃんは言葉を続ける。
「人柄が出てるって云うのかな。詩音ちゃんの絵を見るとね、心がほっとするの」
それでね、明日も頑張ろうって思うんだ。ニコニコと笑う秋ちゃんに顔を向ける。優しい。安心する。そんな事初めて言われたので恥ずかしさと嬉しさが混ざり混ざってどうしていいか分からなくなったので、とりあえずその気持ちを紛らわす為にパステルを削る。
「…その、ありがとう。そんな事言われたの、初めてだからどう反応していいのかわからないや。でも、本当、ありがとう」
恥ずかしさで秋ちゃんの顔を見れずに感謝の言葉を発せば、それが伝わったのかううん。と笑っていた。
「私が思ってる事を口にしただけだよ。それに私ね、本当に詩音ちゃんの絵が好きなの。だから今、近くでみてられるのが凄く嬉しい!」
「こっちは恥ずかしいけどね…」
「恥ずかしがってる詩音ちゃんも見てたい」
「それはちょっと…」
どちらかともなく笑えば連鎖で笑いが起きる。その穏やかな雰囲気に身を任せながらキャンバスに削ったパステルを振りかける。淡い群青の上に色とりどりの振りかけたパステルを今度は手でぼかし、そうやってできた一枚の絵に、最後の仕上げと称してきめ細かい網と白の絵の具を持ってくる。
「……きれいね」
その言葉を聞き流しながら、失敗しない様にと集中してブラシに白の絵の具を少しとり、きめ細かい網からキャンバスに落とす。下の方は沢山。そして上にいくにつれて量を少なくする。グラデーションする様に、頭の中で思い描いている完成された絵になる様に。一つ一つ丁寧にしっかりと描いていく。
「ふぅ……できた」
「詩音ちゃんお疲れ様」
「ありがとう秋ちゃん」
最後にサインを書いて完成。完全に乾くまでは時間がかかるからこの絵はそのままにして使った道具の片付けを始める。水道に筆とパレットを洗いに向かう背中に声をかけられた。
「ねえ、詩音ちゃん」
「んー?」
「今、好きな人いる?」
ガッシャーン。手に持っていた道具を水道でぶちまけた。だ、大丈夫?と掛けられる声にだ、大丈夫。と笑えば秋ちゃんは何を思ったのかそれ以上聞いてくる事はなかった。
それから少ししてある程度の片付けが終わり、あとは明日にしようとエプロンとキャンバスをそのままにして通学鞄に手を触れる。
「…秋ちゃんお待たせ」
「いえいえ。今日も描いてるところを見せてくれてありがとね」
「秋ちゃんならいつでも歓迎」
「嬉しい」
なんていつもと変わらない他愛ない会話が出来て少し安心した。出入口付近に行き、パチンと部屋の電気を消す。そしてもう一度振り返って先程まで描いてた絵をみて優しく笑いかけた。
星空クラック
(弾き出したこの感情は)
(何と呼ぶのだろう)
20140303 → 20180702 加筆、修正
「だから、あそこの絵を描いたの、詩音ちゃんでしょ?」
今日は部活がないんだー!と美術室に入ってきた親友は他愛ない話を一つ二つしたと思ったら前触れもなくこの話を持ち出したのに、キャンバスに向かおうとした矢先だった私はピタリと止まってしまった。
「……あらあら木野さん。なぜ私だと思うのかしら?」
「あらあらご冗談を。あの絵にだってサイン入ってるじゃありませんか」
オホホホと悪ふざけに悪ふざけを被せる辺り流石は親友と言うべきか。お互い顔を見合わせてクスクスと笑う。
サイン。わかる人にはわかる私のサイン。誰が描いたかバレたくない私はそのサインをとても小さく描いたと言うのに。
「よく見つけられたね」
「見つけなくたってわかるよ。詩音ちゃんの絵は」
「わかるの?」
「わかるよー」
そんなに私の絵は分かりやすいのだろうか。今度から絵のタッチを変えるべきか…。と改めて筆を持ち、キャンバスに向かいながら考えていたら横からだってね、と優しい声が聞こえてきた。
「水彩でも油絵でも、どんなに絵のタッチや描き方が変わったとしても、詩音ちゃんの絵は優しいから」
「優しい?」
「そう、優しいの」
そう言って私の描く絵を目を細めて笑う秋ちゃんは言葉を続ける。
「人柄が出てるって云うのかな。詩音ちゃんの絵を見るとね、心がほっとするの」
それでね、明日も頑張ろうって思うんだ。ニコニコと笑う秋ちゃんに顔を向ける。優しい。安心する。そんな事初めて言われたので恥ずかしさと嬉しさが混ざり混ざってどうしていいか分からなくなったので、とりあえずその気持ちを紛らわす為にパステルを削る。
「…その、ありがとう。そんな事言われたの、初めてだからどう反応していいのかわからないや。でも、本当、ありがとう」
恥ずかしさで秋ちゃんの顔を見れずに感謝の言葉を発せば、それが伝わったのかううん。と笑っていた。
「私が思ってる事を口にしただけだよ。それに私ね、本当に詩音ちゃんの絵が好きなの。だから今、近くでみてられるのが凄く嬉しい!」
「こっちは恥ずかしいけどね…」
「恥ずかしがってる詩音ちゃんも見てたい」
「それはちょっと…」
どちらかともなく笑えば連鎖で笑いが起きる。その穏やかな雰囲気に身を任せながらキャンバスに削ったパステルを振りかける。淡い群青の上に色とりどりの振りかけたパステルを今度は手でぼかし、そうやってできた一枚の絵に、最後の仕上げと称してきめ細かい網と白の絵の具を持ってくる。
「……きれいね」
その言葉を聞き流しながら、失敗しない様にと集中してブラシに白の絵の具を少しとり、きめ細かい網からキャンバスに落とす。下の方は沢山。そして上にいくにつれて量を少なくする。グラデーションする様に、頭の中で思い描いている完成された絵になる様に。一つ一つ丁寧にしっかりと描いていく。
「ふぅ……できた」
「詩音ちゃんお疲れ様」
「ありがとう秋ちゃん」
最後にサインを書いて完成。完全に乾くまでは時間がかかるからこの絵はそのままにして使った道具の片付けを始める。水道に筆とパレットを洗いに向かう背中に声をかけられた。
「ねえ、詩音ちゃん」
「んー?」
「今、好きな人いる?」
ガッシャーン。手に持っていた道具を水道でぶちまけた。だ、大丈夫?と掛けられる声にだ、大丈夫。と笑えば秋ちゃんは何を思ったのかそれ以上聞いてくる事はなかった。
それから少ししてある程度の片付けが終わり、あとは明日にしようとエプロンとキャンバスをそのままにして通学鞄に手を触れる。
「…秋ちゃんお待たせ」
「いえいえ。今日も描いてるところを見せてくれてありがとね」
「秋ちゃんならいつでも歓迎」
「嬉しい」
なんていつもと変わらない他愛ない会話が出来て少し安心した。出入口付近に行き、パチンと部屋の電気を消す。そしてもう一度振り返って先程まで描いてた絵をみて優しく笑いかけた。
星空クラック
(弾き出したこの感情は)
(何と呼ぶのだろう)
20140303 → 20180702 加筆、修正