泡沫パレット
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「あの絵を描いた理由は?」
その日、僕は美術室に遊びに行った。それはよくある事で、その日も当たり前の様に美術室に入るなりあの独特の臭いに顔をしかめ、当たり前の様にキャンバスに下書きをしている風隠の横に座って窓の外を眺めた。そんな時だった。
「あの絵?」
「そう、あの絵。廊下に飾ってある河川敷の絵のさ、」
描いた理由。そう聞けば目を丸くしたかと思えば僕から目をそらす風隠にあの絵に描かれている人物は見間違いではないと確信した。
あの絵が飾られたのは先日。偶々暇だしどこかでサボろうかなと思って歩いていた所に先生方が飾っているのが視界に見えて。いなくなった所を見計らって見に来れば、それは誰の絵かなんて長年の付き合いだからこそ分かる風隠の絵。今回は水彩画か、なんて考えたのも束の間。申し訳程度に描かれていた青髪に連想される人物はただ一人で。この二人に接点なんてないだろうし、きっとこの学校の生徒だとも思わずに描いたんだろうと思ったら気になった。何で描いたのかと。
「あの青髪くんが蹴ってるのってサッカーボールでしょ」
「ああ、うん。……いや、そのね」
キャンバスに向かっていた筆を止め、僕の方を見る風隠の視線に気づき、僕も窓から視線を離して風隠を見る。ほんの少しだけあった沈黙を風隠自身が破った。
「…サッカーボールを追いかけてるあの人がね、羨ましくて、眩しくて。それで苦しそうだった。…見てて思ったんだけどね、あの人凄く足が早かったの。陸上部の方があの人にはお似合いなんじゃないかって思うくらい。でも、それでもあの人はサッカーボールをひたすら追いかけてた。何でそんなに頑張るんだろうって。思ってすぐその理由がわかったの」
そこまで真剣に風丸の事を話す風隠にワンテンポ遅れて…なんだったの?と聞き返せば風隠は眉をハの字にして笑った。
「誰かの為に、ううん。同じチームの人達の為に頑張ってるんだって分かったの。じゃなきゃ、あんな風に頑張れないよ。…そう思ったら胸が苦しくなって泣きそうになった」
だから私は、あの人の頑張りを知ってますよ、応援してますよって意味を込めて。照れ臭そうに頬を掻きながら笑う風隠にふーん。と色々な意味を込めてそう反応すれば、別にマックスが一生懸命じゃないなんて思ってないからね。とフォローされた。
「大丈夫だよ。それは一番僕がわかってるから」
笑いながら伝えれば少し表情が暗くなる風隠にそんな顔しないのと笑う。
「なんだかんだ言ってさ、僕も今が楽しいんだ。サッカーは奥が深いよ」
今度見に来れば?と自然に誘ってみる。あの青髪くんが見れるよ。と続けたい言葉をグッと堪えて。ここで僕がそれを伝えたら、なんだかつまらない様な気がしたから。
「うーん……用事がなければ」
そう言って笑った風隠はまた、キャンバスへと向き合った。それから丁度一ヶ月。風隠が遂に練習試合を見に来た。何でも僕の他に、マネージャーが誘っていたらしく朝家まで迎えにいけば、現れた風隠は行きたいけど行きたくない、みたいな表情をしていたのを見て、やっと気づいたのかと理解した。
ふと横の風丸を見ればいつにも増して気合いが入ってる様子。こっちもこっちで何かを感じたのかな。楽しくなりそうだな。と緩む口を慌てて隠した。
そして、試合終了のホイッスルが鳴る。結果は僕たち雷門の勝利。息を整えながら大木の影に隠れる様にして見ていた風隠が誰かを見ていた。その視線の先を見るまでもなくて。
近づいても反応がない放心状態の風隠の頬をつねってみたらやっと現実に戻ってきたらしく、言葉にならない言葉を発した。そこから会話を続ければマネージャーが来て、そして風丸も来て。
「初めまして、」
自己紹介をした風丸に対して風隠は今にもここから逃げ出したいと背中が語っていて。でもきっと、逃げたくないとも思っているのか、足が動かず、何も喋らず、棒の様に立っていた。
本当に世話の焼ける…。溜息一つ吐き出して、そっと風隠の背中を押してあげる。ほら、頑張りなよ。そんな意味を込めて。
「…松野くん、よかったの?」
「ん?何が?」
「本当はわかってる癖に」
困った様に笑うマネージャーに、いいんだよ。と伝えて二人を見る。溢れ出す涙を止め様として笑う風隠と優しくその涙を拭う風丸に、答えなんて明白で。これで僕の役目もおしまいか、と空を仰いで心の中でそう呟いた。
サンセットクリエイト
(さようなら)
(気づかないふりした恋心)
20140815 → 20180727 加筆、修正
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あの絵を見た時から、マックスは全てわかっていたんだと思います。自分が抱いていた感情も、主人公が抱いていた感情も。それでも、気持ちにまで器用に気づかないふりをして背中を押してくれました。私の中のマックスはこんな風ないいやつ止まりです。でも好きです。
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