第一章
二人だけの世界に浸る様を見て、周囲からは次々と感嘆の溜息が聞こえてきた。
一定の信者からすればこのやり取りはご褒美なのかもしれないが…度々ちょっかいをかけてきたり、目の前でイチャついたりする姿しか見てないので苦手意識しかなかった。 何より生憎とそっち方面の趣味は持ち合わせてない…
『ねぇマチルダ君。アンタお祈り終わったのなら後でお茶でも飲みながらお話しましょ?愚痴ぐらいなら聞いてあげるわよ?あ、それとも年頃だからそっちの方がご所望?』
「…いえ、まだ行くところがありますので…」
『私たちも仕事が残っているから浮気はほどほどになさいな。マザーに怒られてしまうわ』
『はいはぁ~い。じゃあまたね~。今度来たらサービスしてあげるわよ♡』
「……では」
マチルダが会釈をして足早にその場から離れると背後から『あーぁ…もう少しぐらい相手してくれたっていいのにぃ』や『仕方ないわ。あの子にはあの子の事情があるのだから』と二人が自分のことを話している会話が微かに聞こえたが、余計な時間が掛かってしまい疲労感もあったので無視して教会を後にした。
(お祈りは終わったし…あとは…)
教会を出た時には既に陽が傾き始めており、空は茜色に染まっていた。
(もうすぐ夜になる…急がないと)
夜になれば王都の出入りが禁止されてしまう。そうなるとどこかで野宿する羽目になってしまうので、マチルダは駆け足気味に王都の端まで移動をした。中央の通りから離れていくにつれて徐々に人通りは減っていき、入り組んだ路地裏を使ってショートカットしながら辿り着いた先にあった建物の前で足を止めた。
華やかな表通りから離れたこの末端の一区画は、元々あまり注目もされない寂れた場所ではあったのだが……。新しい文明の恩恵を受けることが出来なかったせいで、今では王都に見捨てられた土地と呼ばれている。
王都の兵士ですら必要以上に関りを避けている事もあり治安も悪く辺り一帯は荒廃ているせいで一層に不気味な雰囲気を放つ場所ではあるのだが、そこにある建物が目的地だった。
一見すると廃墟の屋敷のような外観をした建物だが、上のほうを見ると看板が設置してありそこには【ミクリア=エイヴィンの笑顔の葬儀屋】と書かれている。
…だが長く手入れしていないのか文字は一部擦れておりやや風化している…
カギは掛かっていないので門扉を開けてそのまま軽くノックしてから屋敷に入ると、室内は外観の荒廃具合と裏腹に、細部に至るまできっちりと清掃が行き届いているのだが…
「…は?」
廊下の壁にはカボチャやコウモリのガーランドや黒猫の人形など…ファンシーな小物がおしゃれに飾り付けられてあり、特に応接室は最早隠れ家的な喫茶店のような光景になっている。
(今回も随分凝ってるな…)
カーテンやテーブルクロス、椅子など…全てにおいてこだわり抜かれた品々でハロウィン仕様になっている事に逆に感心しながら細長い廊下を奥に進むと、工房に着いた。
そこでは一人の青年が棺桶を整理しているところで、それぞれに薔薇や蝶などをモチーフにした装飾が丁寧に施されておりパッと見ただけでも彼の腕前の良さが伝わってくる。
「…ミクリアさん…」
ボソッとだが青年の背後で呼びかけると、彼は作業の手を止めて振り返った。
「ん?やぁやぁマチボーイ!いらっしゃい」
気さくな口調で応対してくれた彼はミクリア=エイヴィン。この葬儀屋の店主であり、マチルダの一族とは縁が深く彼も幼いころからずっと知っている仲ではあるのだが…年齢は不明。ポニーテールに結んだ黒髪に、青い眼をした中性的な容姿をしているハズだったのだが…振り返った彼は何故か黒いカラスマスクを着けて素顔を隠していた。
一体どこから話を進めるべきか。いやもう寧ろこれはツッコミ待ちなのか?と考えあぐねいていると「まぁ座りなよ」と促されたので、素直に案内された応接室に戻り椅子に腰かけた。 しばらくして渡されたコップも、カボチャが模された可愛らしいデザインで中には紅茶が注がれていた。
「そのデザイン可愛いだろう?この間、改装工事をしてたついでに立ち寄った店で見つけてね~。ミクリアお兄さんの心の幼女が荒ぶってさ。つい買っちゃったんだよね~」
「…相変わらずよく分かりません…」
「ははっ!まぁマチボーイにはまだ早かったかな?お兄さんのように心に幼女を住まわせるぐらいの余裕を持てば、たちまちミクリアお兄さんのように……って痛い!痛いよマチボーイ!!マスク引っ張らないで!」
マスク越しで見えないはずだが、何故か彼がドヤ顔で理解不明な事を言っているのが見えた気がしたので、終始イラっとしていたマチルダはツッコミ代わりにカラスマスクを引っ張ってやった。
花屋をしているサンたちとは違う信頼関係故の行動なので、素が出たというか…普段と違う自分が出てしまうのは許してほしい。
一定の信者からすればこのやり取りはご褒美なのかもしれないが…度々ちょっかいをかけてきたり、目の前でイチャついたりする姿しか見てないので苦手意識しかなかった。 何より生憎とそっち方面の趣味は持ち合わせてない…
『ねぇマチルダ君。アンタお祈り終わったのなら後でお茶でも飲みながらお話しましょ?愚痴ぐらいなら聞いてあげるわよ?あ、それとも年頃だからそっちの方がご所望?』
「…いえ、まだ行くところがありますので…」
『私たちも仕事が残っているから浮気はほどほどになさいな。マザーに怒られてしまうわ』
『はいはぁ~い。じゃあまたね~。今度来たらサービスしてあげるわよ♡』
「……では」
マチルダが会釈をして足早にその場から離れると背後から『あーぁ…もう少しぐらい相手してくれたっていいのにぃ』や『仕方ないわ。あの子にはあの子の事情があるのだから』と二人が自分のことを話している会話が微かに聞こえたが、余計な時間が掛かってしまい疲労感もあったので無視して教会を後にした。
(お祈りは終わったし…あとは…)
教会を出た時には既に陽が傾き始めており、空は茜色に染まっていた。
(もうすぐ夜になる…急がないと)
夜になれば王都の出入りが禁止されてしまう。そうなるとどこかで野宿する羽目になってしまうので、マチルダは駆け足気味に王都の端まで移動をした。中央の通りから離れていくにつれて徐々に人通りは減っていき、入り組んだ路地裏を使ってショートカットしながら辿り着いた先にあった建物の前で足を止めた。
華やかな表通りから離れたこの末端の一区画は、元々あまり注目もされない寂れた場所ではあったのだが……。新しい文明の恩恵を受けることが出来なかったせいで、今では王都に見捨てられた土地と呼ばれている。
王都の兵士ですら必要以上に関りを避けている事もあり治安も悪く辺り一帯は荒廃ているせいで一層に不気味な雰囲気を放つ場所ではあるのだが、そこにある建物が目的地だった。
一見すると廃墟の屋敷のような外観をした建物だが、上のほうを見ると看板が設置してありそこには【ミクリア=エイヴィンの笑顔の葬儀屋】と書かれている。
…だが長く手入れしていないのか文字は一部擦れておりやや風化している…
カギは掛かっていないので門扉を開けてそのまま軽くノックしてから屋敷に入ると、室内は外観の荒廃具合と裏腹に、細部に至るまできっちりと清掃が行き届いているのだが…
「…は?」
廊下の壁にはカボチャやコウモリのガーランドや黒猫の人形など…ファンシーな小物がおしゃれに飾り付けられてあり、特に応接室は最早隠れ家的な喫茶店のような光景になっている。
(今回も随分凝ってるな…)
カーテンやテーブルクロス、椅子など…全てにおいてこだわり抜かれた品々でハロウィン仕様になっている事に逆に感心しながら細長い廊下を奥に進むと、工房に着いた。
そこでは一人の青年が棺桶を整理しているところで、それぞれに薔薇や蝶などをモチーフにした装飾が丁寧に施されておりパッと見ただけでも彼の腕前の良さが伝わってくる。
「…ミクリアさん…」
ボソッとだが青年の背後で呼びかけると、彼は作業の手を止めて振り返った。
「ん?やぁやぁマチボーイ!いらっしゃい」
気さくな口調で応対してくれた彼はミクリア=エイヴィン。この葬儀屋の店主であり、マチルダの一族とは縁が深く彼も幼いころからずっと知っている仲ではあるのだが…年齢は不明。ポニーテールに結んだ黒髪に、青い眼をした中性的な容姿をしているハズだったのだが…振り返った彼は何故か黒いカラスマスクを着けて素顔を隠していた。
一体どこから話を進めるべきか。いやもう寧ろこれはツッコミ待ちなのか?と考えあぐねいていると「まぁ座りなよ」と促されたので、素直に案内された応接室に戻り椅子に腰かけた。 しばらくして渡されたコップも、カボチャが模された可愛らしいデザインで中には紅茶が注がれていた。
「そのデザイン可愛いだろう?この間、改装工事をしてたついでに立ち寄った店で見つけてね~。ミクリアお兄さんの心の幼女が荒ぶってさ。つい買っちゃったんだよね~」
「…相変わらずよく分かりません…」
「ははっ!まぁマチボーイにはまだ早かったかな?お兄さんのように心に幼女を住まわせるぐらいの余裕を持てば、たちまちミクリアお兄さんのように……って痛い!痛いよマチボーイ!!マスク引っ張らないで!」
マスク越しで見えないはずだが、何故か彼がドヤ顔で理解不明な事を言っているのが見えた気がしたので、終始イラっとしていたマチルダはツッコミ代わりにカラスマスクを引っ張ってやった。
花屋をしているサンたちとは違う信頼関係故の行動なので、素が出たというか…普段と違う自分が出てしまうのは許してほしい。
