エピローグ

 最初は各々かけっこを楽しんでいたが、途中から徒歩に切り替えた三人は他愛ない話で盛り上がり(主にエクとシェリルが)幸せそうに笑いあいながら慣れた道を進んだ。
やがて城下町に辿り着くと、祭り前ということもあり一層の活気であふれる城下町の中。高い建物の屋根に腰かけながら、彼らの様子を観察する姿があった。 そのものは彼らの姿を…エクの姿を視認すると、静かに微笑んだ。

『フンッ。楽しくやっておるようじゃのぅ…』

そう呟いたのはカナメ。彼女は以前、マチルダの魂と共に小舟に乗り込み、そしてそのまま在るべき場所へと向かったはずだったが…?

『何だかんだ言って、結構過保護なのね』
いつの間にかカナメの横に、和服姿の女性が立っていた。髪で右目を隠し、服装こそ違うのだがそこにいたのは撫子だった。
彼女の声に気付き、視線だけを向けたカナメは口角を上げてニヤッと笑う。

『フンッ…懐かしい顔が来おったわ。貴様だけがずいぶんとしぶとく生き残っておったとはな』
『えぇ おかげさまで』
カナメの言葉に対し、撫子は涼しい表情で微笑むと、彼女の隣に腰かけそして独り言のように喋り始めた。

『…四季の森が襲撃された後…。結局私だけが一人生き残ってしまった事には、いろいろ思うことはあったけど…何も無くなった私は、その後様々な国の歴史を見届けることにしたわ…。名を変え姿を変え…悠久の時を生きる退屈しのぎとしては悪くないわよ?』
『くっくっく。ワシが童と長い舟旅に興じておった間。貴様は新しい楽しみを見つけたのじゃな』
『あら以外ね。もっと何か言ってくると思ったけど』

意外そうな表情でこちらを見る撫子に、カナメは『それよりも』と話題を変えながら肩を揺らし笑う

『前はしみったれた顔で常に生きることすらも諦めておった童が、今はあぁやって無邪気に笑って生きておる姿を見れば、貴様への小言も忘れてしまうというものよ。再会するまではあれやこれやと考えておったというのにな』
 相変わらずの憎まれ口で言い訳するのだが、カナメの瞳はいつになく優しい色を見せていた。
『水晶に占いを任せた時は、奴に自分の“結末”を見せる予定じゃったが…ワシが水鏡に触れた時、“未来”を映すように命じたのじゃが…
 まさか【転生後の姿】を映すとは思わなかったわい…あの時焦っておったから少ししか見ずに読み解く暇も余裕もなかったが…。今では奴が成長するまではこうやって陰ながら見届けられて光栄に思っておる

…その代わりワシの魔力は残りカスじゃがな』

ケラケラと声を上げて笑っていたが、不意に身体に違和感を感じて立ち上がった途端。彼女の足元が透け始め…徐々に光の粒となってサラサラと空に昇り始めてしまった。

『…なんじゃ全く…積もる話もあるというのに時間切れか…。まったく、もう少しぐらいは魔力が残っておると思っておったが』
『ふふっ…。貴女は本当に変わらないわね…。……心配しなくても、彼なら私がちゃんと見守ってあげるから』


カナメの心中を見透かしたかのように撫子がエクのことを引き合いに出すと、彼女は顔を赤くして『余計な世話じゃっ!!』と吠えたのだが、最期に改めてシェリルとじゃれあっているエクの姿を視界に入れながらフッと笑い、呼びかけた


―さらばじゃマチルダ。新しい人生を悔いなく 精一杯生きよ―

その言葉を最後に、カナメの姿は光の粒となって空へと消えていった。


「ん?」
目的地であった城の近くに辿り着いた三人だったが、シェリルとじゃれている時に、ふと自分へ呼びかける声が聞こえた気がしたのできょろきょろと周囲を見回した。
「どうかしたの?何かあった?」
「んー…何かさ、今。懐かしい声で呼ばれた気がするんだ。“まちるだ”って…」
「??気のせいじゃないかな?エックーはマチルダじゃなくて“エク”だもん」
首をかしげながら不思議そうな表情をするシェリルに、エクもそうかなぁ…とまだ納得がいかない表情をしていたが、やがて「まぁいいか!」とすぐに切り替えたエクは、二人の手を繋いだまま元気よく走り出した。

今度こそは…絶対に離さないように。
この幸せを。そして大切なものを二度と失わない為に…。
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