第四章
水晶の呼びかけで各々が椅子から立ち上がり、部屋から出ていく姿を呆然と眺めていたせいで行動が遅れてしまい、気づくと一人残されてしまったので慌てて向かおうとした時だった。先に外に出ていた巳虚がわざわざ戻って来た
『まちるだくん、いっしょに行こ?』
恥ずかしそうに小さな手を差し出してきた彼に、マチルダは一瞬目を丸くして理解するのに少し時間がかかったがそっと手を握り返してやると『えっへへへ~』と口元を嬉しそうに緩めながら出入り口まで引っ張って行ってくれた
今から自分が望んだと言え、自分自身の未来を占ってもらうのだ。それも…一度出た結末は決して取り消せないと改めて念押しされたら余計に憂うつではあったが…それでもこうやって巳虚が来てくれると何となくだが気分転換にはなった
外に出ると辰冥も待ってくれていたらしく、二人が出てきたのを目視で確認してから歩き出した
共に階段を降りて最初の広場に着くと、そのまま『こっちに来て』と手を引かれるがままに奥の方へと進んでいくと、再び開けた場所に到着した。
そこには古びた石造りの祭壇があり、それらを囲うように柱が建っているのだが一部風化したり折れたり苔が生えているあたりここにも歴史を感じる
祭壇の中央には浅くだが円状の形に水が溜まっており、おそらくだがこれが例の占いに使われる水鏡なのだろう。
巳虚に言われるがまま、マチルダは手前に座ると、カナメもその近くに控え彼らも定位置へと移動していく。彼の向かい側に立った水晶がみんなへ呼びかける
『これより水鏡による占いを行う 準備はよいな?』
彼女の言葉に全員が了解の意を返す。 いよいよ始まる…そう思うと自然と身体が緊張で固まっていると、まずは水晶が何かの呪文のような言葉を唱えはじめ、それに呼応するようにほかの者たちも順番に詠唱を行う
聞きなれない言葉なので意味は分からなかったが、例えるなら歌の旋律のようなものだろうか?不思議と心が落ち着くような優しい音があたりを包んでいた。
すると彼らの言葉に反応して水鏡が微かに光を放ち始める。
『……マチルダ。そなたの血を少量、この水鏡へ捧げよ。そして、自分が知りたい事に関して心の中で強く念じるのだ』
「は、はい…」
向かい側に立つ水晶に促され、マチルダは左手の指を嚙んで血を滲ませそして水鏡にむけゆっくりと数滴落とす
―ポチャンッ―と水面へ落された血液は波紋を伴って広がり、やがて静かに吸い込まれたかと思うと水鏡が先程よりも強い光を発しながら映像を映そうとした時だった。
美しい歌の旋律と木々の擦れあう穏やかな空間を切り裂くように、突如として大きな爆発のような轟音が森の入り口付近から聞こえ、その場にいた全員が動揺して動きを止めてしまった。
(今の音は一体…??)
『っ…今の音、入口の方から聞こえたね』
『入口から?それはおかしいわ。たとえ入り口付近であっても、木々に意思はあるから何かしら不審な動きを感知したらすぐ排除に掛かるでしょう?』
マチルダは『入り口の方から』と言われ一瞬フリージルの事が脳裏によぎったが、彼は王都の状況を知らせたいと言っていたのだ。もしかしてそれが間に合わず兵士によって攻め込まれたのか?嫌な予感を覚えつつ不安そうに水晶の方へ視線を向けると、彼女も急な出来事に動揺している様子だったが、直ぐに冷静さを取り戻すと
『儀式は一旦中止とする!先程の爆発に関してもだが、森全体の様子もおかしいから私が確認してくる。皆は引き続きここで待機し、客人の保護を最優先とせよ!』
と指示を下し移動をしようとした際に刹羅が彼女に呼びかけた
『待って長 僕も同行するよ。…さっきから僕も森に呼びかけてみても全く反応が無いのが気になりますが、長一人で行って何かあれば危険ですからね』
『貴様も心配性だな…まぁ良い。門の方まで急ぐぞ』
そう言って二人で祭壇を降りていこうとした時だった。
広場の方面から放たれた金色の矢が空を切り裂く音を纏いながら一直線に飛来し、寸分の狂い無く突然刹羅の胸部を射抜いた。
それと同時に傷口から飛び散る鮮血がまるで花びらのように周囲を赤く染めていく……。
あまりに突然の出来事に誰一人声を出す事も動くこともできずにいた。一瞬の出来事だったはずなのに…まるで時間が止まったかのような静寂に誰もが息を飲む中。 自身の身に何が起こったのかと理解するまもなく彼は力なくガクッと地面に膝をつくと、口からごぼっと多量の血液を吐き出しながら、その身体を支えることが出来なくなり前のめりに倒れた。
『な……っ?!刹羅…っ?!!』
『え……え?刹……羅……さん……?』
一体何が起きた?!とその場にいた皆に混乱と動揺が広がる中。目の前で起きた惨状にパニックを起こしかけていた巳虚とマチルダの手を引いて、辰冥は自分の背後に下がらせ撫子は水晶の近くで警戒態勢を敷く
『刹羅……っ。こんな……どうして……』
水晶も予期せぬ事態に動揺を隠しきれなかったが、何よりも森全体がまるで眠っているかのように静かだったこともあり、こちらに情報が何も入ってこなかった為に初動の反応が遅れてしまったことが悔やまれる…
『…口は悪い奴じゃったが憎めぬ奴じゃ。せめてワシがこの手で送ってやろう…』
彼の状況を見る限り、矢の一撃は誰の目から見ても命に届く致命傷である事は明らかだった。
故にもう彼が助かる術は無く、死は最早免れない事実であった為。カナメはせめても…と彼の身体に触れて魂だけでも回収しようとしたが…刹羅の身体に触れる寸前だった。
再び先程の金色の矢が放たれたので、咄嗟に水晶と撫子がそれを防御魔法で防いだお陰で事なきを得たが、攻撃してきた相手に怒りをぶつけるように睨みつける
『一体何者だっ!! これ以上私の部下や客人に手出しをするなら、この私直々に相手になろうっ!』
水晶が珍しく怒気を含んだ声で相手を威嚇するように叫ぶと、森の奥から姿を現したのは肩に赤紫色の大きなオウムを乗せた魅禄が軽い足取りで現れた。その手には先程刹羅を射抜きカナメも始末しようとしてきた金色の弓と矢が握られていた。
『まちるだくん、いっしょに行こ?』
恥ずかしそうに小さな手を差し出してきた彼に、マチルダは一瞬目を丸くして理解するのに少し時間がかかったがそっと手を握り返してやると『えっへへへ~』と口元を嬉しそうに緩めながら出入り口まで引っ張って行ってくれた
今から自分が望んだと言え、自分自身の未来を占ってもらうのだ。それも…一度出た結末は決して取り消せないと改めて念押しされたら余計に憂うつではあったが…それでもこうやって巳虚が来てくれると何となくだが気分転換にはなった
外に出ると辰冥も待ってくれていたらしく、二人が出てきたのを目視で確認してから歩き出した
共に階段を降りて最初の広場に着くと、そのまま『こっちに来て』と手を引かれるがままに奥の方へと進んでいくと、再び開けた場所に到着した。
そこには古びた石造りの祭壇があり、それらを囲うように柱が建っているのだが一部風化したり折れたり苔が生えているあたりここにも歴史を感じる
祭壇の中央には浅くだが円状の形に水が溜まっており、おそらくだがこれが例の占いに使われる水鏡なのだろう。
巳虚に言われるがまま、マチルダは手前に座ると、カナメもその近くに控え彼らも定位置へと移動していく。彼の向かい側に立った水晶がみんなへ呼びかける
『これより水鏡による占いを行う 準備はよいな?』
彼女の言葉に全員が了解の意を返す。 いよいよ始まる…そう思うと自然と身体が緊張で固まっていると、まずは水晶が何かの呪文のような言葉を唱えはじめ、それに呼応するようにほかの者たちも順番に詠唱を行う
聞きなれない言葉なので意味は分からなかったが、例えるなら歌の旋律のようなものだろうか?不思議と心が落ち着くような優しい音があたりを包んでいた。
すると彼らの言葉に反応して水鏡が微かに光を放ち始める。
『……マチルダ。そなたの血を少量、この水鏡へ捧げよ。そして、自分が知りたい事に関して心の中で強く念じるのだ』
「は、はい…」
向かい側に立つ水晶に促され、マチルダは左手の指を嚙んで血を滲ませそして水鏡にむけゆっくりと数滴落とす
―ポチャンッ―と水面へ落された血液は波紋を伴って広がり、やがて静かに吸い込まれたかと思うと水鏡が先程よりも強い光を発しながら映像を映そうとした時だった。
美しい歌の旋律と木々の擦れあう穏やかな空間を切り裂くように、突如として大きな爆発のような轟音が森の入り口付近から聞こえ、その場にいた全員が動揺して動きを止めてしまった。
(今の音は一体…??)
『っ…今の音、入口の方から聞こえたね』
『入口から?それはおかしいわ。たとえ入り口付近であっても、木々に意思はあるから何かしら不審な動きを感知したらすぐ排除に掛かるでしょう?』
マチルダは『入り口の方から』と言われ一瞬フリージルの事が脳裏によぎったが、彼は王都の状況を知らせたいと言っていたのだ。もしかしてそれが間に合わず兵士によって攻め込まれたのか?嫌な予感を覚えつつ不安そうに水晶の方へ視線を向けると、彼女も急な出来事に動揺している様子だったが、直ぐに冷静さを取り戻すと
『儀式は一旦中止とする!先程の爆発に関してもだが、森全体の様子もおかしいから私が確認してくる。皆は引き続きここで待機し、客人の保護を最優先とせよ!』
と指示を下し移動をしようとした際に刹羅が彼女に呼びかけた
『待って長 僕も同行するよ。…さっきから僕も森に呼びかけてみても全く反応が無いのが気になりますが、長一人で行って何かあれば危険ですからね』
『貴様も心配性だな…まぁ良い。門の方まで急ぐぞ』
そう言って二人で祭壇を降りていこうとした時だった。
広場の方面から放たれた金色の矢が空を切り裂く音を纏いながら一直線に飛来し、寸分の狂い無く突然刹羅の胸部を射抜いた。
それと同時に傷口から飛び散る鮮血がまるで花びらのように周囲を赤く染めていく……。
あまりに突然の出来事に誰一人声を出す事も動くこともできずにいた。一瞬の出来事だったはずなのに…まるで時間が止まったかのような静寂に誰もが息を飲む中。 自身の身に何が起こったのかと理解するまもなく彼は力なくガクッと地面に膝をつくと、口からごぼっと多量の血液を吐き出しながら、その身体を支えることが出来なくなり前のめりに倒れた。
『な……っ?!刹羅…っ?!!』
『え……え?刹……羅……さん……?』
一体何が起きた?!とその場にいた皆に混乱と動揺が広がる中。目の前で起きた惨状にパニックを起こしかけていた巳虚とマチルダの手を引いて、辰冥は自分の背後に下がらせ撫子は水晶の近くで警戒態勢を敷く
『刹羅……っ。こんな……どうして……』
水晶も予期せぬ事態に動揺を隠しきれなかったが、何よりも森全体がまるで眠っているかのように静かだったこともあり、こちらに情報が何も入ってこなかった為に初動の反応が遅れてしまったことが悔やまれる…
『…口は悪い奴じゃったが憎めぬ奴じゃ。せめてワシがこの手で送ってやろう…』
彼の状況を見る限り、矢の一撃は誰の目から見ても命に届く致命傷である事は明らかだった。
故にもう彼が助かる術は無く、死は最早免れない事実であった為。カナメはせめても…と彼の身体に触れて魂だけでも回収しようとしたが…刹羅の身体に触れる寸前だった。
再び先程の金色の矢が放たれたので、咄嗟に水晶と撫子がそれを防御魔法で防いだお陰で事なきを得たが、攻撃してきた相手に怒りをぶつけるように睨みつける
『一体何者だっ!! これ以上私の部下や客人に手出しをするなら、この私直々に相手になろうっ!』
水晶が珍しく怒気を含んだ声で相手を威嚇するように叫ぶと、森の奥から姿を現したのは肩に赤紫色の大きなオウムを乗せた魅禄が軽い足取りで現れた。その手には先程刹羅を射抜きカナメも始末しようとしてきた金色の弓と矢が握られていた。
