第四章

今までずっと友好的に共存していたのに…ある日を境に、一方的に彼らを異端として扱い迫害して来た側の相手…基。 人間が今更ながら自分勝手な理由でお願いをするのは無礼だと重々承知はしていたが、祖父の記憶を見てしまったからには、一族を背負う身として最後まで責任を持ちたかった。

(こんな話をしたって俺の身勝手なワガママだと分かってる。だけど…)

自分の意見を明確に言葉にして伝えると言う事に慣れていないのでうまく言葉にして伝えられたかいささか不安ではあったが。それでも彼らは茶化すこともせずに彼の話を聞いてくれていた。

『うっふふふ。ずいぶん高尚な意見を持ってるのね坊やは。けれど…』

『おっと撫子。もういいんじゃないかな?彼が嘘とかついてるようには思えないし何より…君の威圧にも負けず勇気ある発言をしてくれた彼に、僕らももっと真摯に対応すべきじゃないかな?別に減るモノじゃないんだしさ』
『あらあら、刹羅は呑気さんね。……でもそうねぇ。確かに彼の様子から嘘をつく余裕はなさそうだけど…
 さっきからずっとだんまりを決め込んでるカナメ、貴女としての意見はどうなのかしら?おおよそ貴女から誘った癖に、彼に任せて高みの見物でも気取っていたのでしょう?』

不意打ち的な一撃を入れられてしまい、びっくりして紅茶が器官に入ってしまいゲホゲホとむせていたが、しばらくして落ち着くと『はぁ?なんじゃワシは知らんぞ…』と不機嫌そうに知らぬ存ぜぬを通そうとしたが…撫子の無言の圧力の前では無駄な努力だったようで、何度か口ごもり視線をウロウロさせていたがやっと決心がついたのか、キリッと表情を引き締めた。

『ふ、ふむ…その件じゃが…。童が言った通り提案したのはワシじゃ。……まぁその……ワシとて歴代いろんな子孫を見てきたがな、その中でも色々あったんじゃ!!しんきょーの変化とかいうやつで、このままずっと生業を続けててもよいのかとか!!四季族が…皆から遠い存在になりつつあるのを思うと…ワシも…ワシだって悩んでおるのじゃ…』

最後の方は尻すぼみになり眼を泳がせているあたり、昨今の王都の状況を目の当たりにした結果。彼女なりに葛藤もあったのだろう…普段の様子からは全く想像できないが
カナメとマチルダの意見を一通り聞き終え、撫子が水晶の方へと視線を向ける。ここから先は長として意見を述べてほしいと促すと、それを察し彼女は小さくうなずきそして口を開く

『…そなた達の意見は理解した。
当時、あの水鏡による占いを作った先代の長は、その占いによって人の子らが皆幸せになれると確信を持っていた代物であったが…そなたたちの一族と同様に今では禁忌として忌み嫌われている代物になっておるが、それでもお主は…答えを求めるというのか?占った結末は決して変えられぬぞ』

水晶の言葉にマチルダは言葉を詰まらせる。
確かに自分の未来は知りたい。それのために自分たちはここまで苦労してたどり着いたといっても過言ではない。むしろそのためだけに来たのだが…彼女の言葉はこちらの覚悟を問うているだけあってなかなか重い言葉を投げかけてくる。 

ある意味でこれは彼女なりの最終警告でもあるのだろう…

 占うことは簡単だ。だがそれによって彼自身全く望まぬ結末だったり、実は残された時間が後僅かだったと言ったように知らない方が幸せだった結果だったとしても撤回するのは不可能だ。それでも覚悟はあるのか?と…。だがここまで来ておきながら今更逃げるわけにもいかない

「……それでも構いません。俺は例えどんな結末が結果として出ても全てを受け入れます。そのために俺はここに来たんです」
『あー…その、ワシからもよろしく頼む…。途中から森を飛び出していった奴が言える立場ではないのはわかっておるが…この童に関してはコイツの祖父からも色々言われておってな…。ワシもまぁ…このままで良いのか悩んでおるのじゃよ』

二人の言葉を聞いた水晶はしばらく静かに考えていたが、やがてフッと表情を緩めた

『ふっ…。そなた達は遊びや好奇心だけで森に足を運んだのではなく、ちゃんと確固たる信念を持ってここに来たのが理解できた。 ならば、我らとしては、彼らの覚悟に対し相応に応えるのが筋というもの

私は彼らの意見に敬意を表し、此度一度限り水鏡による占いを実施しようと思う。故に貴様らの意見が聞きたい』

水晶が長として彼らに呼び掛けると、全員が彼女の意見に同意するように首を縦に振って肯定の意を示す。
『皆、異論は無いようじゃな。…という訳だマチルダよ 我らはこれより、そなたの為に水鏡の占いを執り行うことにする。各自外に出て準備に取り掛かるぞ』
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