第四章

その一連の流れで全てを理解した彼女は、表情をパァァッと輝かせながら声高らかに喜びをあらわにすると、視界の端で安心感から脱力しているフリージルのもとへ駆け寄り、そのまま彼の手をつかんで引き立てせると歓喜の表情そのままに一緒にくるくると踊るように回り始めた。

だが突然のことで思考が全く追い付いていないフリージルは足がもつれたり転びそうになったりと無様な有様ではあったが、今回は気にならなかったようだ

『あは……あっははは!!ねぇねぇフリージル!この紙が返ってきたということは、上手く行っていると言う事よね!?夢なんかじゃないわよね! お利口さんの貴方は本当に私の期待を裏切らないわね!!』

『ちょ、ちょっとお待ちになってマスター!アタシ、こういう足には慣れてないのよぉぉぉっ!』

普段ならオウムの姿のままで振り回されることはあっても、人の姿でこんな機会はほとんど無かったので、誤って彼女の足を踏まないようにするのだけで精一杯だった…
 あまりのテンションの落差に困惑していると、ようやくダンスから解放されたので彼は眼を回しながらその場にへたり込んだ。

先程彼女からは釘を刺されたばかりではあったが、無様な醜態を晒してしまった事で不安になって彼女の方へ恐る恐る視線を向けると、機嫌を損ねるどころか『おしゃべりオウムには人の足はまだ早かったかしら?』と満面の笑みで手を叩いて喜んでいるではないか

(…あんまりよぉ…っ)

この自由すぎる主人の言動に、いつもながらの理不尽を感じるとともにそれでも彼女とは【主人と使い魔】の契約で結ばれている関係の為。逆らうことも出来ないので、こういう時は大人しく受け入れておこう…と堪えることにした

『さて…と。森が開けられたと言っても一時的だから急がなきゃ…。まずは正装して、到着と同時に森を眠らせて…あぁそうそう。近衛兵も少し連れて行かなきゃ』
『でもマスター…今から向かったところで門は大丈夫なの?意思があるのなら直ぐに閉じそうだけど…。それにマスター一人でどうにかなりそうなのに、どうして近衛兵まで…?』

フリージルの疑問はもっともだ。確かに合図を受け取ったと言え、森全体が意思を持つ存在ならば尚更、今向かったところで無駄足になる可能性しか見えない…。

喜ぶ彼女に横やりを入れるのは気が引けたがここまで計算高い事をしていてもいつどこで綻びが生じるか解らない…そう思って彼が疑問を口にすると魅禄はニコッと微笑む

『心配要らないわフリージル。門が開くと同時に必ず出迎えが来るでしょう?その時に少し森へ催眠が掛かるようにされているの。

でもそれはお姉様にバレないようにしなきゃならないから弱い魔法だけど。だからある程度の時間は稼げるものよ。それに…私達は森の加護で魔法が使えるけど、破壊してしまえば何にも出来ないのは知っているでしょう?だからこその近衛兵じゃない。戦闘に関しては随一なんだから』


珍しくフリージルの疑問には素直に答えてくれた魅禄は今からやるべきことを指折り考えつつ、彼女はずっとクローゼットの奥に仕舞っていた四季族時代の衣装を取り出した。

 こちらの城に身を寄せてからというもの、昔のことは出来るだけ思い出したくなかったのでずっとナイトに命令して自分に見合う豪奢なドレスを仕立てさせていたが…久しぶりの里帰りならこの方が良いだろうと彼女は着替えを始めていく


かつて自分が四季の森で暮らしていた頃の衣装…。
見習い時代は双子の姉と切磋琢磨しながらも長になることを夢見ていたが…自分だって相応に努力して才能だってあったにも関わらず、結局は長の座を水晶に奪われ地位を賭けて争った末に自分は追放された。 本来なら例え血の繋がった姉妹であっても、長に歯向かうものは処刑されてもおかしくないのだが…姉は追放の道を選んだ

自分に慈悲を与えたつもりだったのだろう…

『こうやって久しぶりに袖を通してみたけど、本当に懐かしいわね…。あの時から何も変わらない……
うっふふふ。でも今日でぜーんぶ終わるの…私を追放した姉も。姉よりも私の方が優秀だったのに、選ばなかった奴らも…森も、何もかも…っ!!』
 長い年月の間自分という身分を隠し続け、ずっと牙を研ぎ続けた。全てはこの時を迎えるためだけに様々に行動して時間を費やしていたが…今日で全て終わるのだ

魅禄は白を基調とした衣装に袖を通し、久しぶりに身にまとった正装姿を確認すべく鏡の前で自身の姿を確認する。

ずっとドレスを身に着けていたせいか、こうやって体に密着する衣装というのは少し違和感があったものの、同時に懐かしさもあった

『さぁいらっしゃいフリージル。王様に遊び道具を借りに行きましょう?』
彼に向けてフゥッと息を吹きかけてフリージルの姿を人からオウムの姿に戻すと、
立てかけていた両手杖を持つと地面をコツコツと鳴らして合図を送る。
『……ギャ…』
はいはい。と言わんばかりに小さく鳴くと、彼女の杖の上へ飛び移ってくれた。そして魅禄は満足気な表情を浮かべながら、玉座の間へと向かった。
12/26ページ