第四章
『えぇいまどろっこしいわ!そんな堅苦しい挨拶など良いからまずはどこか座れるところに案内せい!ワシの住んでる場所からこの森までは意外と距離があって、足とかくたくたなんじゃ 後ついでに茶も出さぬか』
(どちらかというとおばあちゃん宙に浮いて移動してから何一つ疲れてないと思うんだけど…)
静かに心の中でツッコミを入れていると、カナメの厚かましい態度に水晶はやれやれ…と言いたげに口を開く
『……全くそなたは…。どれほど時が経ったとて口の悪さは相変わらずのようじゃな…子孫の彼がそなたに似なくて御の字じゃな』
『刹羅といい貴様と言い失礼極まりない奴らじゃな!ワシを何だと思っておる!!』
『先程言ったとおりではないか。大体…そなたの今の格好はなんだ?仮にも誇り高き四季族の一人でもある奴が、そのように粗雑で露出の多い服に変更しおって……。昔はもう少し品があった筈だが……?』
『ふんっ!この格好はワシが長年の歳月で編み出した結果なんじゃ!貴様こそずーーっとこの森で籠もって外を知らぬから。それだけ凝り固まったガッチガチな思考しか出来ぬようになってしもうたんではないか?』
先程までは神秘的であり威圧感も感じていた水晶だったが、カナメと改めて喋り始めたのだが…気付くとめのまえでは親戚のおば……お姉さんが数十年ぶりに再会した年下の姪や従妹相手に昔の流れで絡んでじゃれるけど、相手も成長しているからそれに呆れて逆に相手から説教されているかのような身内同士のノリが繰り広げられる光景にオロオロするしか出来ない
いつの間にか背後に回っていた刹羅が二人のやり取りを肩を震わせ笑いながらそっと耳打ちしてきた
『長って普段は常に気を張ってさっきみたいに凜としているんだけど、カナメの前ではなんだか子供っぽいだろう? 長が次期後継者として英才教育を受けていた幼少期に彼女と出会ってね。最初はからかってくる彼女によく反発していたんだ
だけど、カナメが外に出るって言ったとき一番反対してたのは実は長だったんだよ?ふふふっ。あんなに言ってるけど本当は帰ってきてくれて嬉しいんだろうね。面白いから少しこのまま見ていようか』
「あ…はい。カナメ様があんな風に楽しそうにしているのも意外ですが…長も、先程までは怖く感じていましたが…なんだか印象が変わるというか…意外でした」
巻き込まれると厄介なので刹羅と少し離れた場所から眺めていたが、このまま放置するのも何だか気が引けるので刹羅に「そろそろ…」と促して彼に間に入って貰い場を収めて貰った
それからは彼らが住んでいるという神殿の方へ案内された。木造の広々とした室内に通され、そこには簡素な作りながらも大きな木のテーブルや椅子が置いてありそれぞれ腰掛けると同時にカナメは早速『散々喋って疲れたから茶を寄越せ』と催促すると、水晶はやれやれ……といった仕草を見せるが何も言わずに刹羅と席を外すこと数分。
戻って来た彼の手には盆がありその上には人数分のティーカップが乗せられており、慣れた手つきでお茶の準備をしてくれた。
紅茶のような香りがする琥珀色の液体が注がれ、各自の前に置かれる 見た目こそ普通のストレートっぽいのだが、嗅いだことの無い独特な甘い香りを不思議に思っていると刹羅はそれを察して解説してくれた。
この紅茶は森で自生果実から抽出したものであり、この辺りに自生する薬草と合わせて調合したものらしく、一口飲むとほのかに甘く飲みやすい味わいか口に広がり徐々に身体が温かくなっていくのを感じ自然と口角がゆるむ
「!…」
『どうじゃ童、なかなか乙な味じゃろう?ワシも久しぶりに飲むから懐かしい味じゃ…。ま、ワシはこの茶よりも童の作った【ほっとみるく】の方が格別なんじゃがな!特に夜に飲む背徳感は最高じゃからのぅ♪』
ゲラゲラと笑いながらとんでもない事を言い出すカナメに少し焦りつつも、何とか動揺を抑えながら「でもこちらのお茶も…美味しいですよ」と答えるとカナメはニンマリとした表情を浮かべ満足気にうんうんとうなずく。その一方で水晶は呆れた顔をしていたが…
『そう言えばじゃ水晶。刹羅が相変わらずなのはわかったが、他の者はどうしておる?姿が見えぬぞ』
『…あぁ、そなたとの再会ですっかり忘れておったな…。刹羅からの報告があってから既に準備させておったが……丁度良い頃合いか……入れ。』
水晶が視線を横に動かし部屋の扉に向けて呼びかけると、それに応えるかのようにゆっくりと開いた扉の奥から三人の男女が姿を現し横一列に整列した
一人は白い肌に新緑を思わせる長い髪をした青年。頭からは鹿のように立派な角が生えており、瞳の色は髪と同じく若々しい緑色をしている。中性的で整った顔立ちをしており優しそうな雰囲気を纏っており、穏やかな笑みでマチルダに一礼してくれた。 彼は【春】を司る賢者「
もう一人は辰冥の背後に隠れるようにしながらチラチラと顔を覗かせマチルダを見つめている小柄な少年。新雪を思わせるほどに真っ白な肌に肩に掛かるほどの黒い髪。顔は白い布で隠しているので口元だけしか見えないのだが、その口元は緊張からなのかぎゅっと引き締まっていたので、軽く会釈したのだが…逃げられてしまった…。 彼は【冬】を司る賢者「
最後の一人は黄金色の髪に琥珀色の瞳をした女性。この中では最年長ということもあり、長としてはまだ未熟な水晶の教育係を務めているらしい。 カナメと正反対で静かで優美な落ち着きのある雰囲気の女性なのだが、水晶の時とは違う威厳のようなものを感じた。 彼女は【秋】を司る賢者「撫子」
水晶からの各自の紹介を終え、カナメは全員の顔を見ると懐かしさと喜びで各々に声をかけていた。だが唯一巳虚はカナメが森を出て行ってから代替わりした為。 顔を合わせるのは初めてではあったが…そんなことはお構いなしと言った様子でカナメが積極的に喋るせいで巳虚が驚いて余計に辰冥の背後に隠れてしまった。
…何だか凄く申し訳ない…
