第四章

正直なところ、カナメと過ごすことになって一応はある程度の月日は経っているのだが…それでも日々扱いには困る面がまだまだあるというのに…目の前の彼は、『何世紀ぶりかな?』とか言っている割には上手く扱っているというか…手綱をしっかり握っている印象を受けた

 それからは刹羅に案内されながら森の奥にある彼らの住処に向かうことになったのだが、カナメは久々の故郷に気分が上がっているのか、先程からずっとウキウキとした様子で辺りを眺めたり、時々道を外れては植物を観察したりして楽しんでいた。

(変なところで子供っぽい人だなぁ…)

彼女の様子に呆れつつも、いつも以上に楽しそうにしていると思っていると、刹羅が『良かったら外の世界のこと教えてくれないかな?』と希望もあったので、歩きながらこれまでの事を話し始めた。

とはいえ…自分の生業上。あまり面白い内容ではない気がするのだが…それでも刹羅はどんな些細な話であっても興味深そうに聞いてくれていた

『王都から追放されて以降。僕らはこの森に潜みながらひっそりと暮らしているから外の世界のことは全く入らなくなったから、外から来た君の話題はとても新鮮だよ』
「そんな…俺の話せることなんてほとんど無いですよ カナメ様みたいに経験豊富じゃないですし…」
『僕にとってはそれだけでも十分すぎるくらい楽しい話さ。きっと他の皆も喜ぶと思うな~』

 そんな話をしている内に、ようやく木々に囲まれた空間から抜けだして開けた場所に辿り着くとそこは森の中心部に位置する場所らしく、彼らにとって魔力の源である大樹を中心に様々な木造の小屋が建てられており、さながら小さな集落がそこには広がっていた。

(森の奥にこんな場所が…!すごいけど…あまりに静かすぎる気がする……)

ツリーハウスのような建物がいくつも存在しているにも関わらず、いくら見渡したり少し中を覗いてみても人の気配が全くしない…それが不気味に感じて思わず立ち止まっていると、刹羅はマチルダの考えを悟ったかのように口を開いた

『…昔はここで人の子達と交流があったんだ。店をする者や旅をして立ち寄る者…あるいは住む者もいて賑やかな場所だったけれど……王都の政権で…ね?お陰で今は見る影も無いほど寂しい場所だよ』
『ワシの幼い頃はここも遊び場じゃったなぁ…外観こそ何も変わっておらぬが、寂しい限りじゃ』
 二人は在りし日の事を懐かしむように周囲を見回していたが、すぐに刹羅は表情を切り替えマチルダの方を見ると、にっこりと微笑んだ

『何も無い場所でこんな話されてもつまらないだけだね。折角の客人なんだ そろそろ長にも会って貰わないと…。ここは交流の場だったけど、僕らの住処はこっちだよ』

彼に手招きされるがままに集落を通り抜け、木の根で閉ざされた一本道を突き進むと……やがて視界が開けて広場へと出た。 先程まで見た景色と違い、そこだけは何も建っておらず木に囲まれてはいるが開放感のある場所となっていた。奥の方を見上げると木の根で編まれた階段があり、頂上付近には古びているが立派な建造物が見えた。

『あの上に見える建物は一応僕らの家みたいなモノなんだ。 基本的にここは人の子は立ち入れない場所だけど…君はトクベツ。
さて…長!カナメとその末裔君をお連れいたしました』

刹羅が神殿に向けて呼びかけると、建造物の扉が開かれ中から薄紫色にウェーブがかった長い髪に桜色の瞳。そして切長の目つきをした女性が現れた。 
彼女も同様に民族衣装を着用しているが刹羅やカナメとは違い、淡く光る美しい石を使った首飾りや指輪を身につけている。また彼女は、額に琥珀を思わせる綺麗な菱形型の宝石がついたティアラを身に付けていた。
遠くから見ていても目を引く姿をしているのだが、衣装だけでは無く容姿も整っているので妖艶な雰囲気を感じさせると同時に、神秘的な美しさを兼ね備えていた

(美人さんだけど…俺は少し怖いな…)

 階段を降り、目の前に現れた女性を見てマチルダは直感的に思った。
一見すると優しそうに見えるが……その身に纏う雰囲気は明らかに他者を拒絶しているかのように冷たいものを感じる。その証拠にこちらを警戒しているような……
 それでいて観察するような鋭い眼差しを向けられているような気がして、その威圧感から思わず数歩後ずさりしてしまったが…相変わらずカナメはそんな空気も気にせず堂々と彼女の前に出た。

『久しぶりじゃのぅ水晶!ワシがこの森を出ていく頃はまだこーんなにもチビじゃったのに今では長になっておったとはな!!』
『ふっ。その口調…そなたは相変わらずと言ったところだな。再びこうして相まみえるとは思ってもいなかったが……息災で何よりだ。積もる話もあるがまずは…』

 水晶と呼ばれた女性は一旦そこで言葉を切ると、改めてマチルダの方へと向き直りそして優雅な所作で片足を斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足の膝を軽く曲げながら服の裾をつまんで一礼してみせる

『ようこそ我ら四季族の森へ。私は四季族の現当主、水晶。カナメの血統を継ぎし人の子よ 私はそなたの訪問を歓迎します』

「!!……え、あ……その…」
あまりに美しく、気品に溢れた振る舞いに気圧されたマチルダは言葉を失い呆然とした様子だったが、それを見ていたカナメが苦笑しつつ彼の前に入ってくれた
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