第四章

一見すると只の森林地帯のように思えるが、数歩中に進んでみると、森の中は木々によって太陽の光が遮られているのでやや薄暗さを感じるが…空気は澄んでいて風が吹くと頭上の葉っぱ同士がサワサワと擦れ合ってまるで音楽のようにも感じる。 木漏れ日の光も相まってとても幻想的で美しい景色が広がっていた

「キレイなところですね…ここは」
『うむ。そうじゃろう? この森自身が魔力を持っておってな。その魔力の加護を授かり独自のコミュニティを形成したのが、四季族の始まりなのじゃ。今でも魔法が使えるのはこの森のお陰でな
 
あぁちなみに入り口前にあった石碑は…人々との交流があった名残じゃな…後世にワシらのことを伝える石碑の他に、豊穣のお礼として供物を捧げる祭壇もあったが…世代が変わるともの悲しいものじゃな』

「…何だかもったいないですね…折角の交流の場だったのに……」
『そうじゃの……。今まで懇意にしておった奴らから急に迫害された事実には、ワシも未だに怒りが沸くわい……。じゃが、こうやって思うと…ワシも受け入れて貰えるのか少し不安になってきたのぉ…』

「えっ?あの…俺も不安になること言わないで下さいよ…」
『くっくっく。そう不安がるでない たかが数千年ほど前の話なだけではないか!その程度のことで怖気づくなどと……まだまだ若いのう童!ワッハッハ!!!』

 いきなり元気が出たかのように背中をバシっと叩かれたせいで危うくコケそうになったのは言うまでも無かったが…。

(カナメ様にとったら俺らの時間なんて瞬きほどの時間なんだろうな…。それでも、カナメ様からしたらその一瞬で子孫が何回も交代して…それで今は俺の番って訳か……)

改めて考えると途方もない話ではあったが、カナメにとって時間の感覚は大したことではないのだろう……。
自分もいずれは、カナメにとってただの子孫の一人の扱いになるのだろうと思ったが、それにしては随分と気にかけてくれている気がする

 祖父の意見もあったお陰もあるのだろうが…カナメからすると、自分の子孫でありながら自分の事を全く知らず恐れることなく接する者は珍しかったとかだろうか?


『さて、ここから先は迷いやすいからの しっかりついてくるのじゃぞ』

カナメに先導して貰いながら先に進んでいくにつれて木々がどんどん深くなり、気付くと太陽の光さえも遮られた場所へと来てしまい、周囲は明かりも無いので一層薄暗く、更に追い打ちをかけるように霧まで発生してしまい視界が狭くなったため、かなり不気味さを漂わせる光景へと変貌を遂げていく。

 足元には苔や植物の根などが絡みついてきて、歩きづらいうえに滑りやすくなってしまったため余計に動きづらくなっていたが、カナメの歩みは止まることはないので息を切らしながら休むことなく進み続けた。

気を抜けば木々の根っこで足を引っ掛けそうになったり、霧のせいで方向感覚さえも狂わされる状態が続き、もし此処で遭難してしまったらと恐ろしさを感じていたが……。


 不意にカナメが足を止めたので背中にぶつかってしまったが、息を切らしながら改めて前を見ると、目の前には巨大な木の根同士が幾重にも絡み合っている壁のようなものが立ち塞がっていた

その根が絡み合っている壁の中央には入口のような古びた石造りのアーチ状の門が確認できた

「!おばあちゃん…ここは…」
『誰がおばあちゃんじゃ。全く…最近わざと言っておらんか?あー…それより!ここが四季族の森へ入るための門じゃ、今はこうやって閉じておるが…ワシが覚えておる当時は出入りももう少し簡単じゃったがなぁ…。さて、呼びかけてみるとするかの』

「…本当に大丈夫なんですか…?」

『知らん。里帰りはこれが初めてじゃからな もし一度外に出たらもう帰ってくるなとかそう言う掟が後から作られていれば終わりじゃがな』
「えぇぇぇ…っ」

 あっさりとそう言い切るカナメに驚きを隠せなかったが、『モノは試しじゃ』と言って木の根が閉ざしている門に向けて両手を伸ばす。 ひやっとした木の根の冷たく硬い感触が伝わってきたが、それと同時に懐かしさも込み上げる中。彼女は呼びかけた

『………我が名はカナメ。我が同胞にして偉大なる四季族の民よ。ワシの声が聞こえたならばどうか応えてほしい…!どうかワシを招き入れてはくれないだろうか?』

カナメが門に向けて語りかけてからしばらくすると、どこからともなく吹いてきた風によって頭上の木々がサワサワ揺れ、先程感じた時とは違う音を鳴らし風が吹くヒューヒューとした音に混じって微かに笛のような音が聞こえた

「?笛の音……?」

木の葉が擦れる音
風の吹く音
そしてどこからか聞こえる笛の音が合わさり、まるで森全体で音楽を奏でるかのように不思議な音色がこだますると、目の前を閉ざしていた木の根が音を立てて解かれていき、奥へ続く扉が開かれた。
6/26ページ