第四章
二人分のコップをトレーに乗せてリビングに戻ると、キッチンから流れてくる甘い匂いに気付いたのかカナメは嬉しそうにソワソワしており、眼を輝かせながら早く渡せと催促してくる
『やっと出来たのじゃな!ほれ早く寄越さぬか!さぁさぁ!はよ!はーやーくー!』
「っ…ふふふっ。はい、熱いですから気をつけて下さいね」
普段は『ワシは貴様らの始祖じゃ』と傲慢で面倒な印象の方が強いのだが、こうやって好きなモノを前にした途端。まるで子供のように無邪気にはしゃぐ姿を見ると、不覚にも可愛いと一瞬思ってしまった
出来上がったホットミルクを受け取った彼女は、嬉しそうにそれを両手で抱えると、火傷しないようにゆっくりと息を吹きかけて冷ましそのまま一口、口に含む
『ん~……っ。やっぱりうまいのう!!』
温かい牛乳とハチミツの甘い風味が口内広がり、幸せそうな表情を浮かべる彼女の様子に安堵しつつ自分も飲みながら休憩していると、不意にカナメが『昨日の話だが…』と先に切り出してきた。
『…ワシと指輪で繋がっておるから、昨日喋った一件は覚えておると思うが…。童は…アーネストの記憶を見てどう思った?率直な意見が知りたいのじゃ』
真剣な眼差しでじっと見つめながら問いかけてきたので、マチルダは少しだけ考えてから素直な感想を伝える
「……。俺は…じいさんがどんな思いでこの指輪を、ミクリアさんに託したのか…そんな事も考えず、安易な気持ちで継承してしまった事を今更ながらに反省しました
カナメ様の一件がなければ俺は…きっとこの先も覚悟も責任感も足りない中途半端者のままだったと思っています…。常に厳しくて、怖い印象しか無かったじいさんの事も…結局はちゃんと見てなくて…自分の親父のことさえも、本当に何も知らなかったんだって……
生業だから。って勝手に言い訳を作って、自分で考えたり疑問に思うことさえもしないで、ずっと逃げてたんだなって……」
『………』
カナメは珍しく彼の言葉を黙ったまま聞いていた。いつもなら遮ったり口を挟んだりしてくることの方が多いのだが…続きを促す訳でもなく、ただ静かにマチルダの事を静かに見守ってくれているのが伝わってきたので、本当は自分の意見や心情を吐露するのは苦手なのだが、今ならば素直になれる気がして……話を続ける
「サンちゃんが亡くなった時…。頭では分かってるのに、現実が受け入れられなくて何度も感情が制御できなくなって、泣いて……喚いて……その時おばあちゃんが叱責した理由が今になってやっと理解できた気がします。もう何年も御霊流しやってるのに…今更気付くなんて。って話ですが」
マチルダは顔を俯かせマグカップを握ったまま弱々しく呟く。今更過ちに気づいて後悔したところで遅いのは分かっているのだが…それでも、今は一族の当主として彼女にだけは知って欲しいと……今まで目を背けていた現実に向き合おうと懸命に絞り出した答えを口にした。
彼の言葉を最後まで聞き終えると、しばらく無言の時間が流れた。時計の秒針がコチコチと時を刻む音すらも大きく感じるほどの静寂…それを破ったのは無論カナメだった。カナメは何も言わずに立ち上がったかと思うと、彼の前まで歩み寄りそして突然ガシッと頭掴みそしてぐしゃぐしゃと両手で撫で回し始めた。
「えっ?!え?ちょっ!!?」
『やーっと己の愚かさに気付いたか!全く…手のかかる子孫じゃの!』
「うわわわわっ?!」
乱暴に頭を掻き乱されて視界がボサボサになった状態でカナメを見上げると、彼女は満面の笑みで満足そうに見下ろしている。 彼女の行動の意味がわからず困惑していたが、彼女は声を上げケラケラと笑っている
『くっくっくっく……。まぁ何せよ、ちゃんと気づけたのなら良い。 ま、貴様はワシの子孫じゃから…その程度の過ちで挫けぬ事ぐらいは分かっておったがの!それに……貴様は、まだ若い。これから学んでいけばよいのじゃ』
カナメはそう言ってからマチルダの頭から手を離すと、『ふんっ!』と鼻を鳴らして偉そうに腕を組みつつ高らかに宣言する
『いいか!ワシは寛大なのじゃ!!童が今後ワシの為に誠心誠意働くと言うのであれば、許してやらんでもない! それと!今後も精進せい!貴様はまだまだ半人前じゃからの!』
いつもの尊大な態度で上から目線で物を言う彼女だったが、この時になって初めて…何処となくだが、彼女の優しさと温かさを感得することができたような気がした。
『やっと出来たのじゃな!ほれ早く寄越さぬか!さぁさぁ!はよ!はーやーくー!』
「っ…ふふふっ。はい、熱いですから気をつけて下さいね」
普段は『ワシは貴様らの始祖じゃ』と傲慢で面倒な印象の方が強いのだが、こうやって好きなモノを前にした途端。まるで子供のように無邪気にはしゃぐ姿を見ると、不覚にも可愛いと一瞬思ってしまった
出来上がったホットミルクを受け取った彼女は、嬉しそうにそれを両手で抱えると、火傷しないようにゆっくりと息を吹きかけて冷ましそのまま一口、口に含む
『ん~……っ。やっぱりうまいのう!!』
温かい牛乳とハチミツの甘い風味が口内広がり、幸せそうな表情を浮かべる彼女の様子に安堵しつつ自分も飲みながら休憩していると、不意にカナメが『昨日の話だが…』と先に切り出してきた。
『…ワシと指輪で繋がっておるから、昨日喋った一件は覚えておると思うが…。童は…アーネストの記憶を見てどう思った?率直な意見が知りたいのじゃ』
真剣な眼差しでじっと見つめながら問いかけてきたので、マチルダは少しだけ考えてから素直な感想を伝える
「……。俺は…じいさんがどんな思いでこの指輪を、ミクリアさんに託したのか…そんな事も考えず、安易な気持ちで継承してしまった事を今更ながらに反省しました
カナメ様の一件がなければ俺は…きっとこの先も覚悟も責任感も足りない中途半端者のままだったと思っています…。常に厳しくて、怖い印象しか無かったじいさんの事も…結局はちゃんと見てなくて…自分の親父のことさえも、本当に何も知らなかったんだって……
生業だから。って勝手に言い訳を作って、自分で考えたり疑問に思うことさえもしないで、ずっと逃げてたんだなって……」
『………』
カナメは珍しく彼の言葉を黙ったまま聞いていた。いつもなら遮ったり口を挟んだりしてくることの方が多いのだが…続きを促す訳でもなく、ただ静かにマチルダの事を静かに見守ってくれているのが伝わってきたので、本当は自分の意見や心情を吐露するのは苦手なのだが、今ならば素直になれる気がして……話を続ける
「サンちゃんが亡くなった時…。頭では分かってるのに、現実が受け入れられなくて何度も感情が制御できなくなって、泣いて……喚いて……その時おばあちゃんが叱責した理由が今になってやっと理解できた気がします。もう何年も御霊流しやってるのに…今更気付くなんて。って話ですが」
マチルダは顔を俯かせマグカップを握ったまま弱々しく呟く。今更過ちに気づいて後悔したところで遅いのは分かっているのだが…それでも、今は一族の当主として彼女にだけは知って欲しいと……今まで目を背けていた現実に向き合おうと懸命に絞り出した答えを口にした。
彼の言葉を最後まで聞き終えると、しばらく無言の時間が流れた。時計の秒針がコチコチと時を刻む音すらも大きく感じるほどの静寂…それを破ったのは無論カナメだった。カナメは何も言わずに立ち上がったかと思うと、彼の前まで歩み寄りそして突然ガシッと頭掴みそしてぐしゃぐしゃと両手で撫で回し始めた。
「えっ?!え?ちょっ!!?」
『やーっと己の愚かさに気付いたか!全く…手のかかる子孫じゃの!』
「うわわわわっ?!」
乱暴に頭を掻き乱されて視界がボサボサになった状態でカナメを見上げると、彼女は満面の笑みで満足そうに見下ろしている。 彼女の行動の意味がわからず困惑していたが、彼女は声を上げケラケラと笑っている
『くっくっくっく……。まぁ何せよ、ちゃんと気づけたのなら良い。 ま、貴様はワシの子孫じゃから…その程度の過ちで挫けぬ事ぐらいは分かっておったがの!それに……貴様は、まだ若い。これから学んでいけばよいのじゃ』
カナメはそう言ってからマチルダの頭から手を離すと、『ふんっ!』と鼻を鳴らして偉そうに腕を組みつつ高らかに宣言する
『いいか!ワシは寛大なのじゃ!!童が今後ワシの為に誠心誠意働くと言うのであれば、許してやらんでもない! それと!今後も精進せい!貴様はまだまだ半人前じゃからの!』
いつもの尊大な態度で上から目線で物を言う彼女だったが、この時になって初めて…何処となくだが、彼女の優しさと温かさを感得することができたような気がした。
