第四章

外に出ると快晴で雲一つ無い青空が広がっていた。昨日まであんな大雨だったというのに…
ミクリアと会話したことで少し気分も解れたこともあり、王都を出て自宅への道を歩いていた。 宿泊所ではフリージルからヒミツの共有としてとんでもないことを告白されたのを聞かされ結局眠った気がしなかったが…ミクリアとの会話でだいぶ気が楽になったのは大きかった。

(俺ってこんな単純だったっけ…?)

 正直に言えばこの数日は目紛しく色々な事が有ったがために、自分でも気付かないうちに心労が貯まっていたという自覚があったのかもしれない……

 ミクリアに背中を押された事もあり、最初は足取り軽く歩いていたのだが…冷静に考えてみると、彼女と話したのは夢の中であり直接顔を合わせて会話した訳ではない。 一応は彼女と和解してはいるのだが…改めて顔を合わせるのはやはり気が重かった

いっそこのまま「調子が悪いからー…」等と適当な理由を付けてミクリアに元に戻ろうかと思ったが、これ以上カナメとのわだかまりを先延ばしにするのは良くないと必死に気持ちを奮い立たせながら歩いていると、マチルダがいつも利用していた花屋【シェリル】の前を通りかかったが…店は早朝に関わらずシャッターが閉められており、張り紙が一枚貼られてあった。

『突然ですが、諸事情により無期限で休業します。ご迷惑をお掛けしますが、どうかご了承ください』

「…………」
今までならこの近くを通るだけで花の香りがして、色とりどりの花が店前に並び…必ずサンが元気に接客してて…シーラとレーンも時々一緒に店番をしていた。 そして自分が近くを通ると必ず声をかけてくれて…いつも優しい笑顔を見せてくれた。

それがついこの間までの光景だったので、みんなの笑顔と活気に溢れた声が脳裏に呼び起こされたが…今はその温かさは無く、ひどく寂しい光景になっている


そんな変わり果てた様を見ていると、胸の奥がギュッと締め付けられる感覚とともに数日前の出来事を思い出してまた涙が出そうになったが、何とか深呼吸して堪えて再び歩き出すこと数分。ようやく自宅に到着してしまった。

「……」
 まずはもう一度深呼吸をして気持ちを整える。そして次はもしもの状況を考える。…扉を開けたと同時に彼女が扉の前に立っているかもしれないので…驚いて逃げないように…そしてちゃんと謝罪できるように入念に気持ちを整えてからドアノブに手を伸ばす。

……いや、そもそも一応ここは自分の家なので何を迷う必要が……と自分でも思うが、やはりいざ開けるとなると緊張するもので、ドアノブを掴んでも中々開けることができない。そんな風に少しの間躊躇っていたが、いつまでもこうしている訳にもいかないと思い切って扉を開く。

玄関に入ると中は静まり返っていた。まずは玄関に仁王立ちされていなかっただけでも本当に良かったと思いながらリビングへ向かうと…彼女はソファーの上で寝そべりながら本を読んでいた。

もはや定位置化しつつあるいつもと変わらない光景で待っているとは思わず、拍子抜けしてしまい一気に肩の力が抜けるのを感じた
「…ただいま…戻りました」
少し声が震えてしまったが、彼の呼びかけにカナメは読んでいた本を閉じて視線だけをマチルダの方へと向けると、いつものようにニヤッと口角を上げた

『ワシに断りもなく朝帰りとはのぉ?ん?少し見ぬ間に生意気になったのぅ?』

 開口一番怒号が飛んでくると思っていたが、からかう口調で話しかけられ少しビクッとはしたが今なら先日の一件を謝罪できると思い勢いに任せて口を開く

「す、すみません!おれ…俺っ!……あ、…その…っ」
深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にしようとしたものの……いざ本人を前にしてみると、緊張と恐怖から焦って言葉が詰まってしまい、肝心なところで上手く発音が出来ず、言い淀んでしまう。
 その様子をしばらく観察していたカナメはやれやれ…と起き上がると、まるで何事も無かったかのように、普段と変わらない傲慢……始祖としての強気な調子でまずはソファーを叩きながら命令を下す

『それよりも童!昨日ワシが所望したモノを早う作らぬか!!“ほっとみるく”じゃぞ!はちみつが入った【ほっとみるく】!あの甘美でふわーっ温まる美味しい飲み物を作るのじゃ!』
「えっ?!あ……はい!」

 説教も無くに急にいつもの調子でまくし立てる様に命令されたので、ポカンと呆気に取られて固まっていたが、我に返り慌ててキッチンへと向かうと、冷蔵庫から牛乳を取り出して鍋に入れて火をかける。

(…一応気を遣ってくれてる…のかな…?)

帰宅と同時に絶対お説教の続きを言われるとばかり思っていたので、肩透かしを食らった気分になったが…昨日でお説教はもう終わりと言うことなのだろう。 そう考えると自然と頬が緩みかけたのだが、指摘するときっと顔を赤くして怒鳴ってくる気がするので黙々と作業をこなし、ホットミルクを完成させる。
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