第三章

 足取り軽やかに玉座の間へ到着したので、軽いノックの後に扉を開けると、そこには玉座に腰掛ける青年とその彼へと報告をしている数名の兵士の姿があった。

三つ編みに結ばれた青い髪に、丸い眼鏡をかけた切れの長い黄金の瞳をした青年は、王家を象徴する青色の外套を羽織っており、胸元には王族である証の勲章がいくつも付けられている。彼の名は、【ナイト】この王都の若き国王陛下だ。
 どうやら今宵は夜会に出席していたのか、いつもの軍服とは違い正装姿をしていたのだが…どうにも今日は機嫌が悪いのか、毎日聞いている兵士の定例報告を退屈そうに肩肘をついて聞いていた…だが突然の魅禄の訪問により、兵士達は報告を中断して警戒態勢に入る。

「何者だ貴様っ!!ここは王の御前であり、お前のような部外者が来る場所ではないぞ!」

槍を構えながら敵意を剥き出しにして兵士達は瞬く間に彼女を包囲する。 正直この程度、魅禄にとっては全く脅威にすらならないが…イタズラ心と言うべきか、少し遊んでみたい気分になっていたので彼女はわざとらしく怖がる素振りを見せる

『きゃあっ!そんな怖い顔しないでぇ…』
口元に手を当てて上目遣いに怖がる姿に、こちらを馬鹿にしているとでも思ったのだろう。ますます怒りを露にした兵士達は今にも襲いかかってきそうな勢いではあったが、その中の一人が怒声を上げる

「~~っ!!ふざけているのか貴様っ!!今ならまだ見逃してやる!だがこれが最後の警告だ!ここから立ち去れ!!」

「陛下!!勝手な行動をお許し下さい!このような不審者、今すぐに始末いたします!!」

 これ以上このような得体の知れない人物を陛下の側に居させてはいけないと判断したのだろう。兵士の一人がナイトに向けて進言し、彼女の喉元めがけて構えていた槍を突こうとしたが…両手杖の上で傍観していたフリージルが突然威嚇するように翼を広げてけたたましい鳴き声を上げる。

『ギィーッ!!』
「ひっ……!?」

今まで聞いたこともない程の甲高い鳴き声に兵士達は思わず怯んでしまう

「っ!こ、この…っ!!なんなんだこの鳥はっ!」
「怯むな!たかがオウム風情に我々が怯む必要はない!」

彼らがフリージルに気をとられている間に、魅禄はこちらの様子をずっと見つめているナイトの方へ視線を向けると困ったように眉根を下げながら微笑んだ

『いつまでそうやって傍観していらっしゃるの?もぅ…悪い子。そろそろお遊びは終わりにしましょう?』

彼女がそう呼びかけると、今まで終始無言を貫いていたナイトはようやく重い腰を上げて立ち上がると、口角を上げてフッと笑うと、兵士達に告げた。

「いい。下がれ」

 それを合図に、彼らは構えていた槍を渋々下ろしたが…そう簡単に納得などいくはずも無い。兵士の一人が、彼女は得体の知れぬ奴。今すぐにでも始末するか、牢に閉じ込めるべきだと訴えたのだが……ナイトは彼らの言葉など完全に無視して、まるでイタズラが見つかった子供のように肩を竦めた。

「……僕にとっては余興のつもりで放っておいたんだけど、お気に召さなかったかい? まぁいいや。君たちは下がって良い」
「!?な、何を仰るのですか陛下っ!このような不届き者を残したまま我々が下がるわけには…っ」

ナイトの突然の命令に思わず、それは出来ない。と反論したのだが…ナイトはその言葉に対し、不快げに眉根を寄せそして鋭い眼光で睨み付けながら低いトーンで「へぇ…僕に口答えかい?」と問いかけた。 その圧に兵士達は一瞬怯んだが、それでも国王陛下にもしもの事があれば…という使命感から、彼らは意地でも食い下がろうとする。

「い、いえ。ですが……いくら陛下のお言葉とはいえ、そのようなことは出来かねます。我らはこの王都の治安を守る者として……決して退くわけにはいきません」
彼等なりに、国の秩序を守りたいという気持ちが強いのだろう。だがその言葉を、ナイトはとても冷たく突き放す


「黙れ。君たちのせいで彼女の美しい声が聞き取れなくなるじゃないか あぁ久しぶりだね…僕の愛しい人…」

彼はそう言って魅禄の元へ歩み寄るとその場で片膝をつき、まるで王子が姫の手の甲にキスをするように優雅な所作で指先に触れるだけの優しい口づけを落とした。
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