第三章

彼女のその姿は、先程の物静かな雰囲気から打って変わって、まるで幼子のように無邪気な笑みを浮かべている。

『やっと……!これで私の願いもほとんど叶ったも同然だわ…っ!!私を認めず追放した奴ら全員を根絶やしに出来る機会がようやく巡ってきたのね!
 ねぇフリージル……私がこの時の為にどれだけ努力して機会を待っていたか分かるかしら!?双子の姉だった水晶に追放されたあの時から…私は屈辱と憎悪と怒りを糧に今まで耐えてきたのよ……!もうすぐでその全ての元凶に報復できるんだから……!!』

一人声高らかに笑う彼女の瞳には狂気が宿っていた。かつて自分を追放した姉への復讐の為だけに、何十年もの時間を掛けて準備してきた。それがもうすぐで実を結ぶと思うと笑いが止まらなかった。
 そんな彼女の様子を余所に、フリージルは羽を繕ったり前足で頭を掻いたりして興味がなさそうに話を聞き流している態度ではあったが、今の魅禄にとっては些細なことだったので、恍惚の表情を浮かべつつ話を続ける

『あぁ…!楽しみだわ…っ!!先代王のジークの前では私、とーーっても良い子にしてあげていたのよ?無駄にお人好しで優しかったから、簡単に騙されちゃって…!
姉とケンカしちゃって、私…家出して来ましたの。もう森には帰りたくありませんの。って言えば、ジークはどうしたと思う?……優しい彼はすぐに同情してくれて…私の身分を隠して、四季族とは違う賢者として私を迎え入れてくれたのよ! でも姿はバレちゃダメだからって息子の乳母として私を任命して…

あっははは!本当にバカみたぁい!!四季族だから。って私の言葉をぜーんぶ信じちゃって…』

魅禄は高らかに笑いながら、止まり木で休憩しているフリージルの頭を指先で撫でてやると、フリージルは気持ち良さそうに瞳を細め、クチバシを鳴らす

『だからね、私…先代が崩御したと同時にナイト坊ちゃんに言ったの『四季族を滅ぼしましょう?この国が貴方のために発展するためには、古い因習は断ち斬るべきです』って。そうしたら彼は私の言葉通りに動いてくれて…だってこの私を追放したのだから当然でしょう?
 さて、と…国王陛下に、おねだりして近衛兵を借りる準備でもしましょうか。戦力は多い方が良いもの』

 恍惚の表情で語る魅禄は、止まり木で休憩していたフリージルを不意に抱き上げると、そのまま腕の中へと愛おしそうに抱きしめながら、くるくるっとその場で回り始める。 その姿はまるで幼い少女がぬいぐるみを抱き締めながら嬉しさを全身で表現するかのような光景だったが、魅禄本人はその行為に酔っており、フリージルの方はいきなりの行為について行けずされるがままになっている

『ねぇフリージルもそう思うでしょう?森で野垂れ死にそうだった貴方を気まぐれに救ってあげただけなのに、まさかこんなに忠実に働いてくれるなんて思ってもいなかったから嬉しいわ』

 フリージルの羽毛に顔を埋めて満足げに頬擦りしながら語りかける魅禄に、彼は困ったように小さく首を傾げながらも甘んじて受け入れていたが… 流石にスキンシップとしてクチバシにキスをされたときは流石に嫌だったのか抗議するようにギャーギャー騒いで暴れ出すが、彼女はそれを面白がって一層強く抱きしめてやった。

『もう…そんなに警戒するなんて悪い子ね。大丈夫よ これが上手く行けば全てが終われるの…そうすれば、あなたの望通り、自由にしてあげることだって可能なのよ?』

 魅禄はフリージルを腕にしっかりと抱きしめたまま甘い言葉でそう囁くと、再びその場でくるっと回ったと同時にベッドの方に向けて彼を放り投げるようにして解放したのだが…当然ながら不意打ちのせいで、フリージルはそのまま羽ばたいて受け身を取ることも出来ないままに背中からシーツの上へとぼすっと落ちてしまう。

衝撃に目が回っていたが、『いきなり何するんだ』と抗議するように喚きだしたのだが、彼女は悪びれた様子も見せずクスクスと笑いながら『ごめんなさいね』と呟きつつも、今度はこちらに向かって手をかざすとクチバシを指先でなぞってきた。

完全に今は遊びモードに入っており、その表情は完全におもちゃで遊ぶ子供と同じなのだが……彼女の機嫌を損ねると、いくら使い魔として一定の信頼を得ている自分でも、何をされるか分かったものではない。

 そのため、仕方がなしに黙っていると……彼女は機嫌よく笑みを浮かべたまま、ゆっくりと彼の身体に触れていく。
その手つきは非常に繊細で……まるで繊細なガラス細工を扱うかのように丁寧に触れられ、思わず緊張して身体を強張らせてしまったが、魅禄はそれを気にせずしばらくはクチバシや羽を触っていた。

やがて満足した様子で彼から離れると、窓辺に立てかけていた両手杖を手に取る。

『さて…それじゃあ久しぶりに、本物の賢者様が国王陛下のご機嫌伺いでもしてこようかしら』

 そう言って両手杖で地面をコツコツと叩いて彼に合図を送る。すると怪訝そうに身体を起こしたフリージルは渋々と言った様子で両手杖の上に飛び移ってくれた。

『さぁ、行きましょうか』

そう言うと彼女は、国王陛下に会う為に部屋を後にしたのであった……
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