第三章
マチルダとの会話を終えたフリージルは、足早に城内の廊下を歩いていた。
幸いこの時間は使用人達も勤務時間外のため、怪しまれることなく行動できるのは好都合だった。
彼の目的地はこの城にある塔の最上階。そこは元々王族達だけが立ち入りを許される専用のプライベートルーム。 そこの存在を知っているのはごく少数の人物のみといえ…簡単には見つからないように入り口が細工されているので、出入りできるのは人気が少ない時間帯に限られてしまう。
彼は周囲を警戒しつつも廊下の最奥に到着した。 そこは一見すると壁一面に巨大な絵画が飾ってあるだけにしか見えないのだが、実はこの壁には特殊な仕掛けが施されているので、よく見るとそこに小さなくぼみがある
そこに手を当てて押し込むと、僅かな駆動音と共に隠し通路が開いた。
薄暗い石造りの階段を上がり、やがてフリージルが辿り着いたのは……彼女の為に用意された豪奢な一室。
白を基調としたシンプルな内装ではあるが室内は充分な広さがあり、調度品も家具も全て一流のものばかり。
カーテンで仕切られている区画には簡易的ではあるがワインセラーも備え付けられており、生活するには充分すぎるほどの設備は揃っているので移動面を除けば不便さは無い
するとバルコニーの方から室内へ戻ってきた女性と鉢合わせになったが、彼女はフリージルに向けてニコリと微笑む
『あら、お帰りなさい。フリージル』
そう呼びかけたのはこの部屋の主人。赤く長い髪にレースやフリルがふんだんにあしらわれたドレスに身を包み、神秘的な可憐さを感じさせる容貌の女性で、長いまつげに縁取られた銀色の瞳は宝石のような美しさがありながらもどこか異質な空気を感じさせる。
フリージルの目の前に現れた人物こそ……本当の元、四季族であり現在の国王陛下の賢者を務めている人物
彼女の名前は【魅禄】
かつて、四季族の一人として森に住んでいたが…長の座を巡って双子の姉に敗北の末に追放された過去を持つ。追放された後は四季族という肩書きを使って先代王に取り入り、そして乳母として息子のナイトには英才教育を施し、それと同時に裏では彼を利用し、四季族は国にとって害悪となる存在と断じた張本人。
彼女はこちらに深く頭を下げて挨拶するフリージルに向けて、指先に魔力を込めてからふぅ…っと息を吹きかけた。すると、彼の姿はみるみるうちに赤紫色の鮮やかな羽毛をした大きなオウムへと変化すると、翼を大きく広げて飛び上がると彼女の近くにあった止まり木へと止まった
『うっふふふ。私の代わりに賢者という地位でおままごとするのは退屈だったでしょう? ほら今日のお話を聞かせて頂戴?』
魅禄が本来のオウム姿に戻ったフリージルへ話しかけると、彼は翼を広げたり止まり木の上で大げさに動いたりしながらクチバシをカチカチ鳴らして報告を始める。 しばらくは最近の王都の様子や魅禄へのご機嫌伺いの話が続くので、彼女は聞き流しつつワインセラーから一本選び、栓を抜きグラスに注ぐと芳しい香りを楽しんだ。
(今のところは特に目新しい情報はナシ…)
自分が表舞台で行動する方が手っ取り早いのだが…自分はあくまでも四季族から追放された身。ここまで折角裏に潜んで舞台を整えたというのに、下手に動いて過去の自分の正体がバレるリスクを冒す訳にはいかない。 自分の手足として使い魔の彼には表舞台で動いて貰っているのだが……知能は高い割にどうにもお喋りが過ぎるところがある。
だが、それはそれでいい。今の自分はあくまで裏方として動くのが一番都合が良いのだ。
しばらくはぼんやりと椅子に腰掛けて過ごしていると、ようやく彼の報告は四季族の系譜であるマチルダと接触したこと。そして彼に、1つのきっかけをプレゼントしておいた事などを報告すると、途端に彼女は嬉しそうにその表情を輝かせた
『そう…うっふふふ……あっははは!!あぁ……あぁ良かった。四季族の系譜を持つ連中はまだ途絶えていなかったのね…っ!!それにしても…っくくく。お喋りオウムの戯れ言を信じてくれるなんて、なぁんて愚かで可愛らしいのかしら!ようやく…ようやくこれで私は四季族に…長になったお姉様に会えるのね…!』
フリージルの報告を聞き終えてから、彼女は大きく歓喜の声を上げながら手にしていたグラスのワインを一気に飲み干した。
幸いこの時間は使用人達も勤務時間外のため、怪しまれることなく行動できるのは好都合だった。
彼の目的地はこの城にある塔の最上階。そこは元々王族達だけが立ち入りを許される専用のプライベートルーム。 そこの存在を知っているのはごく少数の人物のみといえ…簡単には見つからないように入り口が細工されているので、出入りできるのは人気が少ない時間帯に限られてしまう。
彼は周囲を警戒しつつも廊下の最奥に到着した。 そこは一見すると壁一面に巨大な絵画が飾ってあるだけにしか見えないのだが、実はこの壁には特殊な仕掛けが施されているので、よく見るとそこに小さなくぼみがある
そこに手を当てて押し込むと、僅かな駆動音と共に隠し通路が開いた。
薄暗い石造りの階段を上がり、やがてフリージルが辿り着いたのは……彼女の為に用意された豪奢な一室。
白を基調としたシンプルな内装ではあるが室内は充分な広さがあり、調度品も家具も全て一流のものばかり。
カーテンで仕切られている区画には簡易的ではあるがワインセラーも備え付けられており、生活するには充分すぎるほどの設備は揃っているので移動面を除けば不便さは無い
するとバルコニーの方から室内へ戻ってきた女性と鉢合わせになったが、彼女はフリージルに向けてニコリと微笑む
『あら、お帰りなさい。フリージル』
そう呼びかけたのはこの部屋の主人。赤く長い髪にレースやフリルがふんだんにあしらわれたドレスに身を包み、神秘的な可憐さを感じさせる容貌の女性で、長いまつげに縁取られた銀色の瞳は宝石のような美しさがありながらもどこか異質な空気を感じさせる。
フリージルの目の前に現れた人物こそ……本当の元、四季族であり現在の国王陛下の賢者を務めている人物
彼女の名前は【魅禄】
かつて、四季族の一人として森に住んでいたが…長の座を巡って双子の姉に敗北の末に追放された過去を持つ。追放された後は四季族という肩書きを使って先代王に取り入り、そして乳母として息子のナイトには英才教育を施し、それと同時に裏では彼を利用し、四季族は国にとって害悪となる存在と断じた張本人。
彼女はこちらに深く頭を下げて挨拶するフリージルに向けて、指先に魔力を込めてからふぅ…っと息を吹きかけた。すると、彼の姿はみるみるうちに赤紫色の鮮やかな羽毛をした大きなオウムへと変化すると、翼を大きく広げて飛び上がると彼女の近くにあった止まり木へと止まった
『うっふふふ。私の代わりに賢者という地位でおままごとするのは退屈だったでしょう? ほら今日のお話を聞かせて頂戴?』
魅禄が本来のオウム姿に戻ったフリージルへ話しかけると、彼は翼を広げたり止まり木の上で大げさに動いたりしながらクチバシをカチカチ鳴らして報告を始める。 しばらくは最近の王都の様子や魅禄へのご機嫌伺いの話が続くので、彼女は聞き流しつつワインセラーから一本選び、栓を抜きグラスに注ぐと芳しい香りを楽しんだ。
(今のところは特に目新しい情報はナシ…)
自分が表舞台で行動する方が手っ取り早いのだが…自分はあくまでも四季族から追放された身。ここまで折角裏に潜んで舞台を整えたというのに、下手に動いて過去の自分の正体がバレるリスクを冒す訳にはいかない。 自分の手足として使い魔の彼には表舞台で動いて貰っているのだが……知能は高い割にどうにもお喋りが過ぎるところがある。
だが、それはそれでいい。今の自分はあくまで裏方として動くのが一番都合が良いのだ。
しばらくはぼんやりと椅子に腰掛けて過ごしていると、ようやく彼の報告は四季族の系譜であるマチルダと接触したこと。そして彼に、1つのきっかけをプレゼントしておいた事などを報告すると、途端に彼女は嬉しそうにその表情を輝かせた
『そう…うっふふふ……あっははは!!あぁ……あぁ良かった。四季族の系譜を持つ連中はまだ途絶えていなかったのね…っ!!それにしても…っくくく。お喋りオウムの戯れ言を信じてくれるなんて、なぁんて愚かで可愛らしいのかしら!ようやく…ようやくこれで私は四季族に…長になったお姉様に会えるのね…!』
フリージルの報告を聞き終えてから、彼女は大きく歓喜の声を上げながら手にしていたグラスのワインを一気に飲み干した。
