第三章
『お前には辛い思いや重い責務を背負わせてしまっているが故に…年相応に遊ぶことも、自由を与えず甘えさせることすら許さず…一族の次期当主として厳しく育ててしまったな…。そのせいで……お前はワシが思う以上に、心の底から笑う事も出来ず、己の心に蓋をするようにさせてしまい…すまなかった…』
映し出された映像は、完全に寝入っている幼いマチルダの頭を撫でながら、それを慈愛に満ちた表情で見つめる祖父の姿が映っていた。
普段あまり笑顔を見せない祖父が、こんな風に穏やかに微笑んでくれたことなどあっただろうか……と思わず考え込んでしまうほど、彼が浮かべていた笑顔はマチルダの記憶に残っているものとは大きく異なっていた。
正直言って記憶の中にあるアーネストは、常に自他共に厳しい人で、よく言えば一族の当主として威厳を持った人物なのだろうが…その高圧的な物言いは、幼い頃のマチルダにとって育ての親であると同時に恐怖の対象でもあった。
(じいさんがこんな顔してるの初めて見たな…)
マチルダはアーネストに対して畏怖の念を抱いていたのだが、こうして映像で見ると、自分の祖父もまだ人間らしい感情があったのは少し驚きだった
しばらくして彼が一階のリビングに戻ると、カナメがいつものソファーに寝そべって退屈そうに寝転んでいた。
(そう言えば小さい頃からソファーはあまり使わせて貰ったこと無かったけど…もしかして…。
ってかおばあちゃん…この頃から定位置だったんだなぁ…)
今でも似たような光景を何度も見ているので、何だか妙に納得してしまったマチルダだったが、彼は神妙な面持ちでカナメへと話しかけた。
『……カナメ様。少しお話がございます』
『……。何じゃ?』
いつになく真剣な声音で話すアーネストに、カナメも何かを察したのだが…あえて知らぬふりをしてそのままの姿勢で視線を向ける
『単刀直入に申し上げますが、マチルダの件です。 奴はワシの傍で御霊流しを見たり、練習も行いそれなりに経験はさせておりますが…ワシから見てもまだまだ幼子。故に、貴女様から受け継がれ続けてきたこの宿命。我が代で終わらせるべきではないかと考えております。』
アーネストの言葉に、カナメは眉一つ動かさなかったが、それでも視線だけはしっかりと向けたままだった しかし彼女の瞳が揺れた瞬間を、彼は見逃さなかった その瞳の揺らぎは一瞬で、すぐに平静を取り戻したカナメではあったが、アーネストからすればそれは明らかな動揺で、言葉では表せずとも内心は穏やかではなかった。
だが、彼女は直ぐに冷静さを取り戻し、ニヤリと口角を上げると、逆に挑発的な態度で彼に語りかける
『ふっ…はははっ!少し前まで鼻たれ小僧だった癖に、随分と大きく出たではないか。じゃが…その言葉が何を意味しておるのか分かっておるのか?吐いた唾は呑めぬぞ
ワシのみならず、貴様の言葉は先代達が築き上げてきた歴史を冒涜するのと同義…それを承知で発言しておるというのなら、尚更タチが悪い話じゃ』
『無論承知しております。…このままでは…あの子があまりにも可哀想ではありませぬか……!』
カナメの言葉を聞いたアーネストは怒りを露わにしたのだが、彼女は変わらず余裕の笑みを浮かべていた
『何を今更になって“人間らしい感情”を吐露しおって…。貴様のせがれが使命を放棄して自害したが故。引退した貴様がもう一度後継者育成に取りかかっておる時点で、一族の運命から逃れられてはおらん事も分からぬほどに老いたか?
本当に自分の代で終わらせたいと申すなら、後継者として育成する前に気付くべき事であろう?じゃが貴様がそれに気付いたのはつい最近……。つまりは貴様は、遅すぎる決断をしたと言う訳ではないか』
『………っ!!』
彼女の言葉にアーネストは言葉を詰まらせ視線を反らす。その様子にカナメは興味を無くしたのか、溜め息をつくとあくび混じりにごろ寝する姿勢を変えると、身体を伸ばす。
映し出された映像は、完全に寝入っている幼いマチルダの頭を撫でながら、それを慈愛に満ちた表情で見つめる祖父の姿が映っていた。
普段あまり笑顔を見せない祖父が、こんな風に穏やかに微笑んでくれたことなどあっただろうか……と思わず考え込んでしまうほど、彼が浮かべていた笑顔はマチルダの記憶に残っているものとは大きく異なっていた。
正直言って記憶の中にあるアーネストは、常に自他共に厳しい人で、よく言えば一族の当主として威厳を持った人物なのだろうが…その高圧的な物言いは、幼い頃のマチルダにとって育ての親であると同時に恐怖の対象でもあった。
(じいさんがこんな顔してるの初めて見たな…)
マチルダはアーネストに対して畏怖の念を抱いていたのだが、こうして映像で見ると、自分の祖父もまだ人間らしい感情があったのは少し驚きだった
しばらくして彼が一階のリビングに戻ると、カナメがいつものソファーに寝そべって退屈そうに寝転んでいた。
(そう言えば小さい頃からソファーはあまり使わせて貰ったこと無かったけど…もしかして…。
ってかおばあちゃん…この頃から定位置だったんだなぁ…)
今でも似たような光景を何度も見ているので、何だか妙に納得してしまったマチルダだったが、彼は神妙な面持ちでカナメへと話しかけた。
『……カナメ様。少しお話がございます』
『……。何じゃ?』
いつになく真剣な声音で話すアーネストに、カナメも何かを察したのだが…あえて知らぬふりをしてそのままの姿勢で視線を向ける
『単刀直入に申し上げますが、マチルダの件です。 奴はワシの傍で御霊流しを見たり、練習も行いそれなりに経験はさせておりますが…ワシから見てもまだまだ幼子。故に、貴女様から受け継がれ続けてきたこの宿命。我が代で終わらせるべきではないかと考えております。』
アーネストの言葉に、カナメは眉一つ動かさなかったが、それでも視線だけはしっかりと向けたままだった しかし彼女の瞳が揺れた瞬間を、彼は見逃さなかった その瞳の揺らぎは一瞬で、すぐに平静を取り戻したカナメではあったが、アーネストからすればそれは明らかな動揺で、言葉では表せずとも内心は穏やかではなかった。
だが、彼女は直ぐに冷静さを取り戻し、ニヤリと口角を上げると、逆に挑発的な態度で彼に語りかける
『ふっ…はははっ!少し前まで鼻たれ小僧だった癖に、随分と大きく出たではないか。じゃが…その言葉が何を意味しておるのか分かっておるのか?吐いた唾は呑めぬぞ
ワシのみならず、貴様の言葉は先代達が築き上げてきた歴史を冒涜するのと同義…それを承知で発言しておるというのなら、尚更タチが悪い話じゃ』
『無論承知しております。…このままでは…あの子があまりにも可哀想ではありませぬか……!』
カナメの言葉を聞いたアーネストは怒りを露わにしたのだが、彼女は変わらず余裕の笑みを浮かべていた
『何を今更になって“人間らしい感情”を吐露しおって…。貴様のせがれが使命を放棄して自害したが故。引退した貴様がもう一度後継者育成に取りかかっておる時点で、一族の運命から逃れられてはおらん事も分からぬほどに老いたか?
本当に自分の代で終わらせたいと申すなら、後継者として育成する前に気付くべき事であろう?じゃが貴様がそれに気付いたのはつい最近……。つまりは貴様は、遅すぎる決断をしたと言う訳ではないか』
『………っ!!』
彼女の言葉にアーネストは言葉を詰まらせ視線を反らす。その様子にカナメは興味を無くしたのか、溜め息をつくとあくび混じりにごろ寝する姿勢を変えると、身体を伸ばす。
