第三章

その内容の殆どが自分の知らない時代の内容であり、決まって四季族に関する内容が記載されていた。

(どの人の記憶にも四季族と共存していた事に関する記憶が書いてあるな…。その時代のことは知らないし、残っている資料もこの記憶だけしか無いけど…少なくとも悪い人達では無かったのか……?)

 四季族の悪評の書かれた記述は一切見当たらないので、そう考えるのが妥当だろう。

なんなら今までに目にした複数の記憶の内容から察するにかなり温厚的で長寿な種族であり、争いも好まない性質であったと…賢者として国王陛下を常に傍で支え続けていただけあって、優れた知恵と魔法術に長けていた彼らは自分たちの力を惜しみなく民に分け与えていたという。

そして四季族はある時人々へ水鏡を使った占いをするようになった。

 占う内容は様々で、明日の天気や恋の悩みなど多岐に渡ったのだが、ある日を境に彼らは自分の死期を占うことを望んだというのが、いくつかの本に記されていた。

最初は興味深く読んでいたが、マチルダは一度本を閉じると思考を巡らせてみた。

 自分の知らない四季族との交流の記憶…。それだけ彼らの恩恵が後世にも伝わっていたという証拠でもある。つまりそれだけ長い年月をかけて彼らとの交流から得たモノは大きいはずなのに…何故今のような状況に陥っているのだろうか?先代までの陛下は四季族との共存を望んでいたのは事実。

だが、結局のところ……それが叶わなかったのも事実である。

(……俺なんかには想像つかないような事情があったのかもしれない。もしくは人間側が一方的に四季族を恐れるようになったとか……)
 
 どちらにせよ今となってはそれを知るすべは無いし、真実を知っているであろうカナメですらその件については口を開こうともしないので、マチルダとしてもこれ以上この件に関して追及するつもりも無い。


そこで一旦思考を変えて、当時の人々がこぞって水鏡の占いで自分たちの運命を知りたがったのか…という疑問が浮かんできたので、記憶からは読み取れないので仮説を立ててみることにした。

(未練無く過ごしたいから…?いや、似てるけど少し違う気もするな……じゃあもし俺が同じ立場だったら…)

 もし自分が同じ立場だったら…一体どんな理由で水鏡を求めるだろうか?

自分自身の死期が分かったとして…それは変えられない決定した未来。ならばその日。その時を迎えるときまでに何かやりたい事があるとすれば…自分なら?

そう考えを巡らせると、一つの答えに行き着いた。

それは【大切な人と過ごす時間】だ。
例え占った結果。それが明日、明後日といった短い期間しか残りが無いと結果が出たとしても…それまでの時間、瞬間だけは後悔をしないように生きたいと考えたからこそ、当時の人々はあえて未来のことを知りたいと願ったのだろう…

その答えに行き着いた時、彼の脳裏にサンの事がよぎった。

 もし自分が彼女の未来を知ることが出来ていれば?結末が分かっているとしても、期日を迎えるまでに自分が思いを伝えていれば…もしかしたら彼女は残りの時間を笑って過ごしてくれるのではないだろうか……?と

そこまで思考を巡らせたところで、彼はあまりの自分勝手な思考回路だと我に返り、思わず苦笑を漏らしてしまった

(ははっ……俺にこんな妄想をする資格なんて無いんだけどな……)

 今更あの時のことを悔やんだところで、過去に戻れる訳でもないし何かが変わるわけでも無いというのに…再び未練がましく考えてしまったせいで余計に虚しくなってきた…。だがこうたって自分自身に置き換えてみたお陰で、先人達が水鏡の占いを求めた理由にも納得がいく


「……俺の結末はどうなるんだろうな…」

生業と言え自分も人々の死に対して関わりすぎている。それ故に周囲から忌み嫌われ…“死神”と揶揄されることも多々あった。

 その事について全く気にしていないと言ったら嘘になるし、多少は傷ついたこともあるが…仕事だから。と理由をつけて徐々に周囲へ無関心になり、それに併せて感情を表に出す事も苦手になって…欠落した存在にまで成り下がっている自覚もある

 そんな自分が、穏やかな結末を迎えられるとは到底思えない。
だがそれでも…こうやって先人達の記憶を読んでいると【自分の結末】とは一体どうなるのか…という疑問が芽生えてくるのもまた事実だった。

過ぎた願いであることは百も承知だが、“笑顔”という感情が自分の中で一番欠落している中、せめて最期の時ぐらいは笑って迎えたい。と

(……何考えてんだ…俺)

我ながら馬鹿らしい。と思う。……この先自分の人生が幸せに満ちたものにならないと分かり切っているのに、何を夢みたいな事を考えているんだろうかと。そう自分に言い聞かせる。どうも様々な先人の記憶の本を読んだり継承した記憶に引っ張られているせいか、女々しい思考回路になる…。
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