第二章
「…俺だって分ってますよ…っ!!俺は…どうしようもなく弱い奴だって…サンちゃんという幼なじみがいなくなっただけで…っこんなに、泣いちゃうぐらいに!!」
彼の顔は悲しみで歪みきっており、普段とはかけ離れた醜態を見せていた。
そしてその様子を見届けて、カナメはフンと鼻で笑う
「カナメ様は…っ俺ら一族の始祖だから……長い間。色んな人の記憶や、当主だってたくさん見てきているから…そうやって達観した考えや意見が言えるんですよ……。
俺みたいに中途半端な選択肢を与えられて、訳が分からないままに指輪を引き継いだ奴じゃ何百年も積み重ねて来られた知識や経験の足下にも及びませんよ。…だからきっと俺みたいな若造の気持ちなんて理解出来ないでしょうね……!」
マチルダは悔しさを滲ませながらカナメに向けて言葉をぶつけると、ミクリアは慌てて彼を静止させようと近づこうとするが、再び彼が口を開く。 だが今度は少し深呼吸をしてからだったので落ち着いたトーンで
「……っ、すみません……。こんな大事な場所なのに、感情的になりすぎました…。俺、先に帰ります」
それだけ告げると彼は逃げる様に足早に扉から飛び出してしまう
「ま、待つんだマチルダっ!」
ミクリアは慌てて追いかけようとしたが、カナメがそれを止める。
『放っとけ。あやつは自分で立ち直らねば意味がない』
「っ、お言葉ですが姐さん…我も姐さんも、既に慣れているだけで、彼はまだ…」
『ガキだから。そう言いたいのか?成人もしとるのに?』
「……」
カナメの返答にミクリアは言葉を詰まらせる。確かに彼は成人もしており年齢は20代半ばと言ったところだ。子供扱いするには少々難しい年齢ではあるのだが、自分とカナメにとって“死者を送る”と言うことは生業の都合上日常茶飯事故に、感覚がマヒしている面はあるだろう…だが、先代…マチルダの父親がまだ健在の頃から特別気に掛けていた事もあり、彼に対する思い入れは人一倍強いのだ。
だがカナメの言うとおり、一族の証を成り行きとはいえ継承したからには覚悟を決めねばならないというもの。ミクリアはこみ上げる感情を、拳を強く握って押し殺し、何とか抑え込むとまずは彼女の棺へ蓋をした。
「……ふん。所詮はガキじゃ。適当に帰って来るであろうて。それより…ワシはそろそろ“眠い”だから早く部屋を用意せい』
その言葉の意味を理解したミクリアは、戸惑った様子で狼狽えた。 肉体を持たない彼女には【睡眠】という概念は無いのだが、それでも彼女が眠りに付きたいということは【今まで引き継いだ記憶を一度リセットしたい】という意味だ。故に、彼女と魂で繋がっているマチルダも強制的な眠りに付くことになる。
今すぐにでもマチルダを探して保護してあげねば下手したらどこかで倒れてしまうかもしれない。
…だが、カナメの命令を無視など出来る筈も無く、ミクリアは歯痒い思いをしながら了解の意思を伝えた。
『さっさと案内せぃ。ワシはもう眠いんじゃ。
……あぁ、そういえば……あの童に伝えるのを忘れておったが…まぁ社会勉強と思えば良かろうて。ほれ、さっさと行け』
過去に何度も当時の当主達を介抱しながらカナメの眠りもサポートしていた身。今、真っ先に優先すべきなのは彼女の指示だという事は嫌という程に理解していたので、安置所を出て一階に戻ると簡素な部屋に彼女を通した。
『相変わらず貧相な部屋じゃのう。まあよい、寝具だけあれば十分じゃ』
カナメはそう言うとベッドに横になり、目を閉じると、あっという間に意識を手放すようにカナメは深い眠りへと落ちていった。
「……お休みなさいませ」
彼女が寝入ったのを目視で確認した後。部屋の照明を調整してから退出した。
本当ならこのまま彼女が目覚めるまでは別室で待機するのだが、ミクリアはどうしてもマチルダが心配だったので彼は周囲を探し回ることにした。
彼の顔は悲しみで歪みきっており、普段とはかけ離れた醜態を見せていた。
そしてその様子を見届けて、カナメはフンと鼻で笑う
「カナメ様は…っ俺ら一族の始祖だから……長い間。色んな人の記憶や、当主だってたくさん見てきているから…そうやって達観した考えや意見が言えるんですよ……。
俺みたいに中途半端な選択肢を与えられて、訳が分からないままに指輪を引き継いだ奴じゃ何百年も積み重ねて来られた知識や経験の足下にも及びませんよ。…だからきっと俺みたいな若造の気持ちなんて理解出来ないでしょうね……!」
マチルダは悔しさを滲ませながらカナメに向けて言葉をぶつけると、ミクリアは慌てて彼を静止させようと近づこうとするが、再び彼が口を開く。 だが今度は少し深呼吸をしてからだったので落ち着いたトーンで
「……っ、すみません……。こんな大事な場所なのに、感情的になりすぎました…。俺、先に帰ります」
それだけ告げると彼は逃げる様に足早に扉から飛び出してしまう
「ま、待つんだマチルダっ!」
ミクリアは慌てて追いかけようとしたが、カナメがそれを止める。
『放っとけ。あやつは自分で立ち直らねば意味がない』
「っ、お言葉ですが姐さん…我も姐さんも、既に慣れているだけで、彼はまだ…」
『ガキだから。そう言いたいのか?成人もしとるのに?』
「……」
カナメの返答にミクリアは言葉を詰まらせる。確かに彼は成人もしており年齢は20代半ばと言ったところだ。子供扱いするには少々難しい年齢ではあるのだが、自分とカナメにとって“死者を送る”と言うことは生業の都合上日常茶飯事故に、感覚がマヒしている面はあるだろう…だが、先代…マチルダの父親がまだ健在の頃から特別気に掛けていた事もあり、彼に対する思い入れは人一倍強いのだ。
だがカナメの言うとおり、一族の証を成り行きとはいえ継承したからには覚悟を決めねばならないというもの。ミクリアはこみ上げる感情を、拳を強く握って押し殺し、何とか抑え込むとまずは彼女の棺へ蓋をした。
「……ふん。所詮はガキじゃ。適当に帰って来るであろうて。それより…ワシはそろそろ“眠い”だから早く部屋を用意せい』
その言葉の意味を理解したミクリアは、戸惑った様子で狼狽えた。 肉体を持たない彼女には【睡眠】という概念は無いのだが、それでも彼女が眠りに付きたいということは【今まで引き継いだ記憶を一度リセットしたい】という意味だ。故に、彼女と魂で繋がっているマチルダも強制的な眠りに付くことになる。
今すぐにでもマチルダを探して保護してあげねば下手したらどこかで倒れてしまうかもしれない。
…だが、カナメの命令を無視など出来る筈も無く、ミクリアは歯痒い思いをしながら了解の意思を伝えた。
『さっさと案内せぃ。ワシはもう眠いんじゃ。
……あぁ、そういえば……あの童に伝えるのを忘れておったが…まぁ社会勉強と思えば良かろうて。ほれ、さっさと行け』
過去に何度も当時の当主達を介抱しながらカナメの眠りもサポートしていた身。今、真っ先に優先すべきなのは彼女の指示だという事は嫌という程に理解していたので、安置所を出て一階に戻ると簡素な部屋に彼女を通した。
『相変わらず貧相な部屋じゃのう。まあよい、寝具だけあれば十分じゃ』
カナメはそう言うとベッドに横になり、目を閉じると、あっという間に意識を手放すようにカナメは深い眠りへと落ちていった。
「……お休みなさいませ」
彼女が寝入ったのを目視で確認した後。部屋の照明を調整してから退出した。
本当ならこのまま彼女が目覚めるまでは別室で待機するのだが、ミクリアはどうしてもマチルダが心配だったので彼は周囲を探し回ることにした。
