第一章
他の侵入を拒むような石造りの城壁は、遠目から見ても圧巻の光景だ。
出入り口の門の前には当然のように門番が立っているのだが、マチルダの姿を見ると、彼らは警戒と嘲笑を混ぜたような口調で話しかけてきた
「おいおい、こんな真昼間から死神サマのお出ましとはな!!」
「あーっはっはっはっは!!さすが先輩!ジョークも輝いているっスね!」
「………」
二人の軽口に対しマチルダは視線を伏せ、嘲笑がやむのを待つ。下手にここで口を挟んだり逆上した所で余計に時間が掛かり、かえって面倒事になるのは大体予想がつく
「…王都で事故があり、自分の出番だと依頼を頂きました。通して下さい」
「おぉっと!これは失礼致しましたぁ。ささっ、どうぞお通りくださいませ~」
含み笑いのまま門番は手に持っていた槍で地面を叩いて合図を送りながら「開門!」と声を張り上げると、歯車が稼働する鈍い音ともにゆっくりと城門の扉が開かれていき、ようやく入城できた。 たまにこうやってわざわざ城門を開けて貰う時は必要以上に絡まれるので余計な疲労が溜まってしまう…
王都は中心に大きな城があり、そこから四方に大通りが伸びており、大通りに沿って並ぶ建物はどれも背が高く迷路のような構造になっているのだが…こちらも先代王のジークから、御子息のナイトへ政権交代の際に一気に雰囲気が変わったこともあり何度訪れてもこの雰囲気は慣れる気がしない。
普段はどこの場所でも活気に溢れ、賑わった声や笑い声で満ちているのだが…今は王都の兵があわただしく走り回っており、あちこちで怒号のようなものも飛び交っていた。
そんな喧騒の中を通り抜けながら、マチルダが現場に向かうと…そこには石畳の地面に傷跡が残るほど馬車の車輪がスリップした跡があり、その先には横転した馬車が近くの店に突っ込んで停車したようで、周囲には馬車の破片や建物の瓦礫が多々転がっていた。 派遣された兵士たちが慌ただしく救助活動を行う中。マチルダは冷静に周囲を見回す
(俺の担当する奴はどこだ…?)
周囲を見回すが、怒号を上げる者。二人の幼い子を抱きしめながら泣く母親。呆然と立ち尽くす老夫婦など、誰もが今回の事故で混乱しているので、離れたところから探そうと移動したときだった。 救助活動に参観していた兵士の一人がマチルダの存在に気づき、彼のところへ駆け寄ってきた。
「あ、あの!!御霊流しを生業にされているマチルダさんですね!お待ちしていました!!」
本人に悪気はないのだろうが…こんな場所で、ましてや大声で肩書きを言われたせいで、周囲の人々からの視線が一気に集中してしまいマチルダは彼に対し若干の苛立ちを覚えたが今は仕事が最優先なのでグッと堪え現場へともに向かった。
案内された現場は周囲の視線から隠すようにシートで覆われた場所で、瓦礫の隙間から見つかったという青年が寝かされていた。
「横転した馬車から息子を庇って跳ねられたらしい。その拍子にそこの店まで叩き付けられたんだが、運悪くそのまま馬車が店にぶつかったせいで同時に上から瓦礫が落ちて…って訳だ
これだけの事故で幸いなのかどうなのか、犠牲者は彼一人だ。んで、あっちのご夫人が関係者だ」
兵士に言われ視線を向けた先には、青い髪をした女性が兵士の一人と喋っている姿と、小さい少年二人が彼女にしがみついているのが見えた。遠目でも彼女達が震えているのが伝わってくる
「……」
「あの二人もまだ幼いってのになぁ…それで?どーすんだい?処理は」
無言で遺体を確認すると、馬車に跳ねられた時に数メートルは地面を引き摺られた形跡もあり、服や背中、腕が特に損傷がひどく文字通りボロ雑巾のようにズタズタだった。 彼に近寄ると、特に血液特有の鉄っぽい臭いに顔をしかめそうになる。
しかし幸いなことに顔は比較的キレイだったのでそれだけは幸いだ…とそう思いながら、マチルダは無言のまま遺体の前で片膝をついたまま両手を組んで目を瞑りまずは黙祷を始める。
それから数十秒後。マチルダがそっと遺体に触れると、彼の身体から青白い一羽の蝶が現れた。
「今から空間を閉じ、貴方をあるべき場所へ案内します」
その言葉が終わると同時に両手を勢いよくパァンッ!と叩くと、マチルダと青白い蝶は瞬時に姿を消した。
出入り口の門の前には当然のように門番が立っているのだが、マチルダの姿を見ると、彼らは警戒と嘲笑を混ぜたような口調で話しかけてきた
「おいおい、こんな真昼間から死神サマのお出ましとはな!!」
「あーっはっはっはっは!!さすが先輩!ジョークも輝いているっスね!」
「………」
二人の軽口に対しマチルダは視線を伏せ、嘲笑がやむのを待つ。下手にここで口を挟んだり逆上した所で余計に時間が掛かり、かえって面倒事になるのは大体予想がつく
「…王都で事故があり、自分の出番だと依頼を頂きました。通して下さい」
「おぉっと!これは失礼致しましたぁ。ささっ、どうぞお通りくださいませ~」
含み笑いのまま門番は手に持っていた槍で地面を叩いて合図を送りながら「開門!」と声を張り上げると、歯車が稼働する鈍い音ともにゆっくりと城門の扉が開かれていき、ようやく入城できた。 たまにこうやってわざわざ城門を開けて貰う時は必要以上に絡まれるので余計な疲労が溜まってしまう…
王都は中心に大きな城があり、そこから四方に大通りが伸びており、大通りに沿って並ぶ建物はどれも背が高く迷路のような構造になっているのだが…こちらも先代王のジークから、御子息のナイトへ政権交代の際に一気に雰囲気が変わったこともあり何度訪れてもこの雰囲気は慣れる気がしない。
普段はどこの場所でも活気に溢れ、賑わった声や笑い声で満ちているのだが…今は王都の兵があわただしく走り回っており、あちこちで怒号のようなものも飛び交っていた。
そんな喧騒の中を通り抜けながら、マチルダが現場に向かうと…そこには石畳の地面に傷跡が残るほど馬車の車輪がスリップした跡があり、その先には横転した馬車が近くの店に突っ込んで停車したようで、周囲には馬車の破片や建物の瓦礫が多々転がっていた。 派遣された兵士たちが慌ただしく救助活動を行う中。マチルダは冷静に周囲を見回す
(俺の担当する奴はどこだ…?)
周囲を見回すが、怒号を上げる者。二人の幼い子を抱きしめながら泣く母親。呆然と立ち尽くす老夫婦など、誰もが今回の事故で混乱しているので、離れたところから探そうと移動したときだった。 救助活動に参観していた兵士の一人がマチルダの存在に気づき、彼のところへ駆け寄ってきた。
「あ、あの!!御霊流しを生業にされているマチルダさんですね!お待ちしていました!!」
本人に悪気はないのだろうが…こんな場所で、ましてや大声で肩書きを言われたせいで、周囲の人々からの視線が一気に集中してしまいマチルダは彼に対し若干の苛立ちを覚えたが今は仕事が最優先なのでグッと堪え現場へともに向かった。
案内された現場は周囲の視線から隠すようにシートで覆われた場所で、瓦礫の隙間から見つかったという青年が寝かされていた。
「横転した馬車から息子を庇って跳ねられたらしい。その拍子にそこの店まで叩き付けられたんだが、運悪くそのまま馬車が店にぶつかったせいで同時に上から瓦礫が落ちて…って訳だ
これだけの事故で幸いなのかどうなのか、犠牲者は彼一人だ。んで、あっちのご夫人が関係者だ」
兵士に言われ視線を向けた先には、青い髪をした女性が兵士の一人と喋っている姿と、小さい少年二人が彼女にしがみついているのが見えた。遠目でも彼女達が震えているのが伝わってくる
「……」
「あの二人もまだ幼いってのになぁ…それで?どーすんだい?処理は」
無言で遺体を確認すると、馬車に跳ねられた時に数メートルは地面を引き摺られた形跡もあり、服や背中、腕が特に損傷がひどく文字通りボロ雑巾のようにズタズタだった。 彼に近寄ると、特に血液特有の鉄っぽい臭いに顔をしかめそうになる。
しかし幸いなことに顔は比較的キレイだったのでそれだけは幸いだ…とそう思いながら、マチルダは無言のまま遺体の前で片膝をついたまま両手を組んで目を瞑りまずは黙祷を始める。
それから数十秒後。マチルダがそっと遺体に触れると、彼の身体から青白い一羽の蝶が現れた。
「今から空間を閉じ、貴方をあるべき場所へ案内します」
その言葉が終わると同時に両手を勢いよくパァンッ!と叩くと、マチルダと青白い蝶は瞬時に姿を消した。
