第二章
カナメが素直にマチルダの願いを聞き入れてくれた事に驚いたのだが……恐らく、今の彼はサンと会話をしたいと願うこちらの心情を察して、最後の別れくらいは許してくれたのかもしれない。
マチルダは小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、彼女の前で目線を合わせるようにしてしゃがみ込みゆっくりと口を開く
「…サンちゃん。俺が…あんな無責任なことを言って君を追い詰めたせいで……本当にごめん。あんな暗くて寂しい物置部屋に閉じ込められちゃったのは、全部俺が…っ!!」
あの時自分が根拠の無い勇気を彼女に与えてしまったせいでこうなったのだ。亡くなる原因を作ったのは自分のせいだ。とマチルダは心から謝罪をしたのだが……サンは首を左右に振って彼の言葉を遮った。
「違うよ、マチ君は私の背中を押してくれただけ。 私が…兄さん達がどんな気持ちで居たかも考えず、ワガママ言っちゃったせいだから
……口ではちゃんとダメって言われたら諦めるとか言ってたけど、やっぱり…否定されて子供みたいにムキになっちゃって…。ちゃんと途中で、ごめんなさいって出来ていれば良かったよね…」
兄達は自分の事を本気で心配していたからこそ、強い言葉で叱ったのだと今ならわかる。
だがあの時の自分は……大好きな兄達の言うことなんか聞きたくなくて。つい反発をしてしまった……その結果が、最悪の結末を招いてしまったのだろう。
「暗くて心細くて…とても辛かった。だから、パニックになった時にナイフを見つけて…。自分でも、分からないままに手に取ってそれで……。ごめんね、最初から最後まで……迷惑かけちゃって……本当に……」
「……っ!迷惑なんて……っ!!違う…違うんだサンちゃんっ!俺が…俺があの時ちゃんと君に、「好きだ」って言えていたら良かったんだ…っ!でも俺は…臆病で卑怯者なんだ。そんなこと言ったって……君を困らせるだけだと思って……。
君はどんな時でもこんな俺に優しくて、明るくて…俺みたいな奴が触れたら壊れそうで…言い出せなかった……」
マチルダが心の奥底に抱えていた本当の想い。それは、幼い頃から彼女に恋をしていた事。しかし、彼女は自分の様な弱虫な人間よりももっと相応しい相手が居るはずで、こんな自分が想いを伝えた所で、サンを困らせてしまうだけだろうと思っていた。
だからマチルダはずっと心に蓋をして、サンへの恋慕を隠していたのだが……あの時。勇気を出して彼女に好きと言いたかったのに、どうしてもそれが出来なかった。
きっとその時に、心の奥に潜んでいた恐怖や怯えが無意識のうちに言葉に表れていたのかもしれない……
本当は、誰より彼女の事が大好きだったのに……怖くて仕方がなかった。伝えたことで、彼女の態度が変わってしまうのが……何よりも恐ろしくて仕方が無かった。
まるで懺悔するかのように吐き出した最初で最後の告白に、サンの目からも一筋の涙が流れ、また困ったように笑った
「もう遅いよ。マチ君…」
たった一言ではあったが、その言葉はマチルダの心を深く突き刺す。
ああ、そうだ。今更何を言ったところで、彼女が死んでしまった事実は変わらない。この手からすり抜けていってしまった幸せは戻って来ない。もう二度と、彼女に触れることは出来ない……
改めてそう認識すると、後悔の念が津波のように押し寄せ溢れ出した感情は涙となって頬を伝い、静かに地面へと滴り落ちた。
あの時自分が、悩みを打ち明けてくれた彼女の様に勇気を出せていたら…と思わずには居られなかった…
それならばいっそ、彼女の魂と共にこの狭間で永遠に過ごせたらどれほど幸せだろうか?お互いに何にも縛られないこの空間で…二人で共に在れたら、どれだけ幸せなんだろうか……?
そんな叶いもしない願いを抱きながら、嗚咽と共に零れる声にならない声を上げていたが、教会の鐘がそろそろ時間だと知らせる様に無常に鳴り響く。
ここで彼女を送り出さなければ、彼女の魂は転生することすら出来ずに消滅してしまう。 それは御霊流しを行う者としてのタブーなので、マチルダは必死に笑顔を作る
「……っ。サンちゃん…、来世では…幸せに…」
彼女の身体を形だけ抱きしめると、それに応えるように彼女も背中に手を回し強く抱き返し囁くように返事を返す
「…大丈夫。きっとまた会えるよ… だって私達は幼馴染みで…大事な友達だから…ね?」
「うん…っ。うん……っ!!じゃあ……またね。サンちゃん」
これ以上はもう泣くわけには行かない。と必死に唇を噛みしめて涙を堪え、彼女の言葉を何度も頷いて強く肯定すると、持っていたロープを手放して船を出発させた。
舟が自然と漕ぎ出した後も、サンは振り返りながら手を振ってくれるのでマチルダも心配そうに手を振って見送り続けていた。
その様子を離れた場所からずっと見守っていたカナメはため息交じりに『やっと行ったか…』と呟くと、先程と同じように指をパチンッ!と鳴らして狭間の空間を閉じると、二人の意識はあの物置部屋へと帰ってきた。
マチルダは小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、彼女の前で目線を合わせるようにしてしゃがみ込みゆっくりと口を開く
「…サンちゃん。俺が…あんな無責任なことを言って君を追い詰めたせいで……本当にごめん。あんな暗くて寂しい物置部屋に閉じ込められちゃったのは、全部俺が…っ!!」
あの時自分が根拠の無い勇気を彼女に与えてしまったせいでこうなったのだ。亡くなる原因を作ったのは自分のせいだ。とマチルダは心から謝罪をしたのだが……サンは首を左右に振って彼の言葉を遮った。
「違うよ、マチ君は私の背中を押してくれただけ。 私が…兄さん達がどんな気持ちで居たかも考えず、ワガママ言っちゃったせいだから
……口ではちゃんとダメって言われたら諦めるとか言ってたけど、やっぱり…否定されて子供みたいにムキになっちゃって…。ちゃんと途中で、ごめんなさいって出来ていれば良かったよね…」
兄達は自分の事を本気で心配していたからこそ、強い言葉で叱ったのだと今ならわかる。
だがあの時の自分は……大好きな兄達の言うことなんか聞きたくなくて。つい反発をしてしまった……その結果が、最悪の結末を招いてしまったのだろう。
「暗くて心細くて…とても辛かった。だから、パニックになった時にナイフを見つけて…。自分でも、分からないままに手に取ってそれで……。ごめんね、最初から最後まで……迷惑かけちゃって……本当に……」
「……っ!迷惑なんて……っ!!違う…違うんだサンちゃんっ!俺が…俺があの時ちゃんと君に、「好きだ」って言えていたら良かったんだ…っ!でも俺は…臆病で卑怯者なんだ。そんなこと言ったって……君を困らせるだけだと思って……。
君はどんな時でもこんな俺に優しくて、明るくて…俺みたいな奴が触れたら壊れそうで…言い出せなかった……」
マチルダが心の奥底に抱えていた本当の想い。それは、幼い頃から彼女に恋をしていた事。しかし、彼女は自分の様な弱虫な人間よりももっと相応しい相手が居るはずで、こんな自分が想いを伝えた所で、サンを困らせてしまうだけだろうと思っていた。
だからマチルダはずっと心に蓋をして、サンへの恋慕を隠していたのだが……あの時。勇気を出して彼女に好きと言いたかったのに、どうしてもそれが出来なかった。
きっとその時に、心の奥に潜んでいた恐怖や怯えが無意識のうちに言葉に表れていたのかもしれない……
本当は、誰より彼女の事が大好きだったのに……怖くて仕方がなかった。伝えたことで、彼女の態度が変わってしまうのが……何よりも恐ろしくて仕方が無かった。
まるで懺悔するかのように吐き出した最初で最後の告白に、サンの目からも一筋の涙が流れ、また困ったように笑った
「もう遅いよ。マチ君…」
たった一言ではあったが、その言葉はマチルダの心を深く突き刺す。
ああ、そうだ。今更何を言ったところで、彼女が死んでしまった事実は変わらない。この手からすり抜けていってしまった幸せは戻って来ない。もう二度と、彼女に触れることは出来ない……
改めてそう認識すると、後悔の念が津波のように押し寄せ溢れ出した感情は涙となって頬を伝い、静かに地面へと滴り落ちた。
あの時自分が、悩みを打ち明けてくれた彼女の様に勇気を出せていたら…と思わずには居られなかった…
それならばいっそ、彼女の魂と共にこの狭間で永遠に過ごせたらどれほど幸せだろうか?お互いに何にも縛られないこの空間で…二人で共に在れたら、どれだけ幸せなんだろうか……?
そんな叶いもしない願いを抱きながら、嗚咽と共に零れる声にならない声を上げていたが、教会の鐘がそろそろ時間だと知らせる様に無常に鳴り響く。
ここで彼女を送り出さなければ、彼女の魂は転生することすら出来ずに消滅してしまう。 それは御霊流しを行う者としてのタブーなので、マチルダは必死に笑顔を作る
「……っ。サンちゃん…、来世では…幸せに…」
彼女の身体を形だけ抱きしめると、それに応えるように彼女も背中に手を回し強く抱き返し囁くように返事を返す
「…大丈夫。きっとまた会えるよ… だって私達は幼馴染みで…大事な友達だから…ね?」
「うん…っ。うん……っ!!じゃあ……またね。サンちゃん」
これ以上はもう泣くわけには行かない。と必死に唇を噛みしめて涙を堪え、彼女の言葉を何度も頷いて強く肯定すると、持っていたロープを手放して船を出発させた。
舟が自然と漕ぎ出した後も、サンは振り返りながら手を振ってくれるのでマチルダも心配そうに手を振って見送り続けていた。
その様子を離れた場所からずっと見守っていたカナメはため息交じりに『やっと行ったか…』と呟くと、先程と同じように指をパチンッ!と鳴らして狭間の空間を閉じると、二人の意識はあの物置部屋へと帰ってきた。
