第二章

同時刻、物置部屋に一人残されたサンは、時間の感覚も曖昧になりながら部屋の隅で膝を抱えたまま膝を抱えてずっと泣き続けていた。

 あれからどれぐらい経ったのか…時間の感覚さえも曖昧で、室内を照らす照明も時々接触が悪いせいで明滅を繰り返しており、それが余計に不安感を煽る。

「うっ……うぅ……っ。ぐすっ……ひっく」

今までここまで二人を怒らせる事も、ましてやお互いにあんなにも感情を出して喧嘩したこともなかった為。サンの思考は戸惑いと悲しみ、そして恐怖が支配しており、それは静かに…そして着実に彼女の心を蝕んでいく
 あの後も何度か扉を叩いて二人へ呼びかけてみたのだが…既に二人の姿は近くにはなかったので、返事が返ってくることが無かった。

「兄さん…っ。ぐす……ぅぅ…うぇ……っ私は只、自由になりたかっただけだったのに…」
サンは一人孤独に堪え続けていたのだが…既に感情が負の方向へ傾いていたこともあり、次第に思考が闇に支配されていく。


―兄さん達は自分が嫌いなんだ。自分が邪魔になったからこうして物置部屋に閉じ込めたんだ…。もしかして私がいなくなったほうが、皆幸せになれるんじゃないのか?―


そんな考えに至ってしまったらもうダメだった。一度考えてしまったら、そのネガティブな想像を止める事が出来ず、サンの心はズキズキと痛み出す。

そろそろ日付が変わる時刻に差し掛かった辺りだった。既にサンの精神状態は限界を迎えていた
「暗い…怖い…寂しいよぉ……っ。レーン兄さん、シーラ兄さん許して…助け、てよぉ…」
普段ならどちらかの兄が近くに必ず一緒に居たので、そこまで感じたことの無かった孤独。それが今の彼女には耐えがたい苦痛と化してしまい、それが余計に彼女の不安を煽る

「う……っ……ぅあ……。うわぁぁああんっ!!!」

 まるで彼女の中で何かが壊れたかのように、サンは突然大声を上げて泣き始める。こんな事をしても無駄だと、無意味だと頭では分かっていたが……それでも叫ばずにはいられなかった。 だがいくら叫んだとしても、その声は物置部屋にむなしく響くだけだった…。

「ひぐ…っ。ぅ、ぇっ…うぇぇぇえんっ!!開けて…あけて、よぉ…っ!出してよぉ……っ!!」

虚しい叫びは更に続いたが、やがて体力も底を尽きかけたのかサンは叫ぶ気力も無くしたのか、不意にふらふらとした足取りで戸棚に視線を向けたかと思うと、何を思ったか棚にある物を乱雑に払い落とす。

 ガシャン。ドサッと床に散乱した物が音をたてるが、サンはそれを気にする事無く木箱の中をひっくり返したり、床に落ちた本や食器類に手を掛けたりと、無我夢中で部屋の中にある物を手当り次第破壊していく。

パニック状態に陥っているせいで理由も分からぬ内に、ただひたすら破壊衝動に駆られた彼女は、ついに戸棚の中からナイフを見つけてしまう。
「……」
震える手でナイフを拾い上げると、サンは無表情のままそれを見つめる。
(……あぁ……そうだ……。私なんか居なくなっても誰も困らない……迷惑にならない…兄さん達だってその方が幸せに決まってる…)

サンは既に正常ではない精神状態で、思考回路がまともに働いていないのか、ぼんやりとした眼差しで手にしたナイフを眺めていたが、そのまま自分の首元へと向けようとした。…だがその手が小刻みに震えていることに気付き、一度は手を放そうとしたが…

「…兄さん達ごめんなさい…。もうワガママ言わない……言うこと聞く…から…」

その言葉を最期に、サンは持っていたナイフを自らの喉に向けると、そのまま勢いよく真一文字に引き裂いた。
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