第二章
カナメが推測したとおり、今の彼女の様子を見ていても彼女は家族からの愛情で不自由な思いをしている…。
そして恐らく無意識のうちにそれが当たり前なのだと思い始めているのかもしれないが、それと同時に自分を一人前として見て欲しいと願っていても…家族は、兄達は自分をいつまでも彼女を幼い頃の「妹」の姿でしか見てくれない、許してくれない事に苦悩しているのだと…。
「サンちゃん…あのさ…っ」
「?どうしたの?」
不思議そうな顔で首を傾げる彼女に、マチルダは決心して口を開く
「…えっと、その…す、少しぐらい!ワガママを言っても良いと思うんだ!サンちゃんはいつも…そうやって我慢してるんだしさ……」
「え…?」
「か、家族なんだからさ!二人にはその…遠慮しないでもっと…こう……自分のことを出しても良いと思うんだ。きっとお兄さん二人なら、サンちゃんの事分かってくれるよ」
本当に彼女へ伝えたい言葉は別にあったのだが…結局は勇気も出ず、それどころか自分の不甲斐なさを隠すかのように何も根拠もない無責任な言葉だけは、自分の意思に反してスラスラと吐き出されていく
その様子を見ていたカナメは、あからさまに大きなため息を吐いているのが視界の端で見えたし、サンも俯き黙り込んでしまっている…
「!ご、ごめん……俺、余計なこと言ったかも…サンちゃんの気持ちも考えないで…」
「……ううん。違うの…ただその……、そんな風に言ってくれる人って初めてだったから…まだ混乱してて」
視界の端ではカナメがマフィンを食べながら『好いておるならハッキリ言わんか愚か者』や『このヘタレ』等と自分の姿がサンには見えないのを良いことにグチグチと文句を言い続けているのが見え、正直耳が痛かったが今は気付かないふりをしておくことにした
…とはいえ、今更ながらに「本当は君が好きなんだ」と本来言いたかった言葉を訂正しようにも口下手なので言い返せないし、勢いに任せて言ってしまったことを深く後悔し、内心で頭を抱えたくなっているとようやくサンが困ったように笑いながらポツリと呟いた 。
「マチ君の言う通りだよね…。うん、私もちょっとぐらいワガママ言って兄さん達を困らせてみるのも案外良いかも」
誤ったマチルダの後押しにより決心がついたのか、サンは少し頬を赤くしながら改まったトーンでマチルダに話しかける
「じゃあ……少しだけ、私の話聞いてくれる?」
「う……うん…」
一体どんな事を言われるのか。と内心ドキドキしながらも何とか平常心を保とうと、なるべく落ち着いている素振りを見せると、サンは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべ、膝の上で指を絡めながらマチルダの方をじっと見つめてきた。
それはまるで告白をする前の少女のような仕草なので、もしかして?と淡い期待を抱き思わず胸を高鳴らせていると、やがて意を決した様に口を開く 。
だが、彼女の口から出てきたのはマチルダにとって意外すぎる一言だった
「実はね……。私、もう一度昨日会った行商人さんに会いたいの!
初めて兄さん達やマチ君以外の人に自分のオッドアイの事を見せたけど…気味悪がられることもなかったし、たくさんキレイだって褒めてくれた人だったから…もっとあの人を知りたい!」
「そ、そう…なんだ?」
「うん、それでね…もう一度会えるなら…今度はお友達にだってなりたいと思ってるの」
「と…ともだち…」
マチルダにとっては予想外の言葉だった。まさか彼女の口からあの行商人の事や友達になりたいという発言が飛び出してくるとは思いもよらず、思わず動揺して固まってしまう 。
昨日出会ったばかりの人間をどうしてそこまで信頼しているのかが分からなかったが、サンは真剣に考え、悩んで出した結論なのだろう。その表情は先程見せたような寂し気なものでもなければ、作り笑いでも無い。
その瞳には強い意志が宿っており、それだけ本気なのだと理解は出来たが…予想外の言葉に動揺が表に出ていたがこの際どうだっていい
「いきなりすぎるかもしれないけど…行商人さんって色々な場所に行って。沢山の事を見聞きしてるだろうから、それが私にとっては羨ましくて…
あ、勿論一緒に各地を回りたいとかそう言う大きな事じゃないの。只その……文通とかでも良いから、外の世界の感想とか聞きたくって」
サンは楽しそうに、今度アキに出会えたら何をしてみたいか。について語ってくれるのだが…その間、話を聞いている筈のマチルダの心はズキズキと痛む感覚の他に怒りのような…悔しさのような感情が湧き上がる。
誤魔化すように手にしたティーカップを持つ手にすら動揺が現れ、ソーサーの上でカタカタと小刻みに震えていた。
『見苦しいぞ愚か者。いい感じにお膳立てされても何も言えず、戦ってもおらぬ癖に望んだ結末と違う結果になったからと嫉妬するのは情けないと思わぬのか?』
「うぐ…っ」
カナメの痛烈な言葉に思わずマチルダは呻き声を漏らす。サンには聞こえていなかったのが幸いだが、今は何よりも胸の奥がざわめき鼓動も早まり…呼吸がしんどい。緊張で顔が紅潮してきているのが鏡を見なくても分かった。
さっき彼女が自分の悩みを打ち明けてくれたときに、ちゃんと自分も告白を出来ていれば…結果がどうであれこんなにも惨めな思いはしなくても済んだだろう…。
そして恐らく無意識のうちにそれが当たり前なのだと思い始めているのかもしれないが、それと同時に自分を一人前として見て欲しいと願っていても…家族は、兄達は自分をいつまでも彼女を幼い頃の「妹」の姿でしか見てくれない、許してくれない事に苦悩しているのだと…。
「サンちゃん…あのさ…っ」
「?どうしたの?」
不思議そうな顔で首を傾げる彼女に、マチルダは決心して口を開く
「…えっと、その…す、少しぐらい!ワガママを言っても良いと思うんだ!サンちゃんはいつも…そうやって我慢してるんだしさ……」
「え…?」
「か、家族なんだからさ!二人にはその…遠慮しないでもっと…こう……自分のことを出しても良いと思うんだ。きっとお兄さん二人なら、サンちゃんの事分かってくれるよ」
本当に彼女へ伝えたい言葉は別にあったのだが…結局は勇気も出ず、それどころか自分の不甲斐なさを隠すかのように何も根拠もない無責任な言葉だけは、自分の意思に反してスラスラと吐き出されていく
その様子を見ていたカナメは、あからさまに大きなため息を吐いているのが視界の端で見えたし、サンも俯き黙り込んでしまっている…
「!ご、ごめん……俺、余計なこと言ったかも…サンちゃんの気持ちも考えないで…」
「……ううん。違うの…ただその……、そんな風に言ってくれる人って初めてだったから…まだ混乱してて」
視界の端ではカナメがマフィンを食べながら『好いておるならハッキリ言わんか愚か者』や『このヘタレ』等と自分の姿がサンには見えないのを良いことにグチグチと文句を言い続けているのが見え、正直耳が痛かったが今は気付かないふりをしておくことにした
…とはいえ、今更ながらに「本当は君が好きなんだ」と本来言いたかった言葉を訂正しようにも口下手なので言い返せないし、勢いに任せて言ってしまったことを深く後悔し、内心で頭を抱えたくなっているとようやくサンが困ったように笑いながらポツリと呟いた 。
「マチ君の言う通りだよね…。うん、私もちょっとぐらいワガママ言って兄さん達を困らせてみるのも案外良いかも」
誤ったマチルダの後押しにより決心がついたのか、サンは少し頬を赤くしながら改まったトーンでマチルダに話しかける
「じゃあ……少しだけ、私の話聞いてくれる?」
「う……うん…」
一体どんな事を言われるのか。と内心ドキドキしながらも何とか平常心を保とうと、なるべく落ち着いている素振りを見せると、サンは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべ、膝の上で指を絡めながらマチルダの方をじっと見つめてきた。
それはまるで告白をする前の少女のような仕草なので、もしかして?と淡い期待を抱き思わず胸を高鳴らせていると、やがて意を決した様に口を開く 。
だが、彼女の口から出てきたのはマチルダにとって意外すぎる一言だった
「実はね……。私、もう一度昨日会った行商人さんに会いたいの!
初めて兄さん達やマチ君以外の人に自分のオッドアイの事を見せたけど…気味悪がられることもなかったし、たくさんキレイだって褒めてくれた人だったから…もっとあの人を知りたい!」
「そ、そう…なんだ?」
「うん、それでね…もう一度会えるなら…今度はお友達にだってなりたいと思ってるの」
「と…ともだち…」
マチルダにとっては予想外の言葉だった。まさか彼女の口からあの行商人の事や友達になりたいという発言が飛び出してくるとは思いもよらず、思わず動揺して固まってしまう 。
昨日出会ったばかりの人間をどうしてそこまで信頼しているのかが分からなかったが、サンは真剣に考え、悩んで出した結論なのだろう。その表情は先程見せたような寂し気なものでもなければ、作り笑いでも無い。
その瞳には強い意志が宿っており、それだけ本気なのだと理解は出来たが…予想外の言葉に動揺が表に出ていたがこの際どうだっていい
「いきなりすぎるかもしれないけど…行商人さんって色々な場所に行って。沢山の事を見聞きしてるだろうから、それが私にとっては羨ましくて…
あ、勿論一緒に各地を回りたいとかそう言う大きな事じゃないの。只その……文通とかでも良いから、外の世界の感想とか聞きたくって」
サンは楽しそうに、今度アキに出会えたら何をしてみたいか。について語ってくれるのだが…その間、話を聞いている筈のマチルダの心はズキズキと痛む感覚の他に怒りのような…悔しさのような感情が湧き上がる。
誤魔化すように手にしたティーカップを持つ手にすら動揺が現れ、ソーサーの上でカタカタと小刻みに震えていた。
『見苦しいぞ愚か者。いい感じにお膳立てされても何も言えず、戦ってもおらぬ癖に望んだ結末と違う結果になったからと嫉妬するのは情けないと思わぬのか?』
「うぐ…っ」
カナメの痛烈な言葉に思わずマチルダは呻き声を漏らす。サンには聞こえていなかったのが幸いだが、今は何よりも胸の奥がざわめき鼓動も早まり…呼吸がしんどい。緊張で顔が紅潮してきているのが鏡を見なくても分かった。
さっき彼女が自分の悩みを打ち明けてくれたときに、ちゃんと自分も告白を出来ていれば…結果がどうであれこんなにも惨めな思いはしなくても済んだだろう…。
