第二章

「俺らは用事も終わったからそろそろ帰るけど、マチルダは?」
「…俺も用事を終えて帰る途中だったんです。あ、えっと…よろしければ一緒に帰ってもいいですか?」
「うん、もちろんだよ〜行こうか」
「!ありがとうございます。あ、では僕も荷物持ちますよ」
「ん、いいよ大丈夫〜僕らの方が力あるんだからさ」

最初は気にしないで。と遠慮していた二人だったが、しょんぼりするマチルダを見かねてレーンが荷物の一部を分けてくれたので、それを一緒に運ぶことにした。三人が共に歩き出したので、カナメも少し離れた距離から一緒に歩き始めた。

 徒歩で帰宅する最中。三人は他愛無い話でしばらく盛り上がっていたが、やがて話題は今朝の演説で言われていたイベントの話になった
「今朝の言ってたイベント、数年ぶりの開催なんだってね〜。僕らがまだ王都に住んでた頃に参加して以来だね」
「懐かしいな。あの時は小さい規模で小さいお祭り感覚で参加してたが、今回は流通ルートがどうとか言っていっていたな…。上が変わってから一気に発展したお陰なんだろうが…俺としては不安だな」
「え?どうしてですか?近衛兵も警備に当たるそうですし…何も問題とかなさそうに思うのですが」

レーンの言葉に、マチルダが不思議そうに尋ねるとシーラは困ったように眉根を下げる

「何もない方が一番良いんだけどね〜…昔に比べて治安が良くないでしょ?規模が大きくなって色々便利になるのは良いと思うけど、例え警備してても目が届かない事だってあるだろうから万が一とか思っちゃうんだよね〜」
「まぁそう言う事だ。特にこう言うイベントの時は特に……な。お前もだけどサンも見た目が少し一般と比べて特別だろ?だからその…人さらいとか、そう言うのを連想してしまうんだ」
二人の意見を聞きマチルダも表情を曇らせる。別の国や地域では場所によっては、未だに奴隷制度が根強く残っているところがあるというのは仕事柄、噂を耳にしたこともあるので改めて言われるとやはり不安になってしまう。…だがそれでも…

「…でも…俺も、お兄さん達が居てくれるから安心ですよ」

不意な彼の言葉に二人はきょとんとする
「ん?どうしたマチルダ、急に」
「いえ、お兄さん達って俺のこともずっと気にかけて下さってるじゃないですか。だからその…安心できるなぁ…って」
自然な流れで思った事を口にしてみたのだが、言い終わってから自分が結構恥ずかしい事を口走っている事に気づき、顔を赤くして俯いてしまった。 そんな彼を二人はポカンとした様子で見つめていたが、やがて笑い合いながら彼の頭を撫で回してやる

「あっははは!ほんっとうお前は可愛いやつだなぁ〜」
「ふっふふふ〜その素直さが君の良いところだねぇ〜」
「わぁぁっ!?ちょ、ちょっと!髪がボサボサになりますってー!」
慌てるマチルダだったが、彼らとのやりとりが何よりも楽しいのか、釣られて笑みをみせた


 やがて花屋の近くまで帰ってくると花屋の前には荷馬車が停まっており、入り口で店番をしていたサンが誰かと話をしている姿が見えた。
緑の髪に赤い目をした青年だが、この近辺では見かけない風貌をしているので恐らくだが王都で行うイベントの参加者なのだろう。 二人は会話に夢中になっているようで、まだこちらの事には気づいていないようだが…随分と親しげに談笑している
「そう言えばさ、さっきから気になってたんだけど…サンちゃんのその眼帯って病気?怪我?」
「!えっ…えっと…、これはその…」

会話の最中に青年がふと思い出したかのように、彼女の眼帯について尋ねてきたのだが…不意打ちだったこともあり彼女は言葉を詰まらせる。母親のレニや兄のシーラやレーンからは常日頃からも『知らない人の前で眼帯は取っちゃダメ』と言い聞かされてきていたが…
「あ、あぁごめん!いきなり過ぎたね…。もし病気とか怪我ならさ、俺って行商人やってるから何か力になれるかな?と思ってさ」
 流石に悪い事を聞いてしまった…と思い、アキが慌ててフォローを入れてくるのだが、サンはしばらく困った様子で彼の事を見つめた

自分と同じ赤い目をした人。

自分と違って目を隠してない人。

この人になら打ち明けてもいい。何も隠していない自分を打ち明けても彼はきっと大丈夫。と直感的に感じたサンは、意を決して眼帯を外した。
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