第二章
裏路地を抜けてキロに向かっている最中、サウス通りに差し掛かったところでマチルダは不意に足を止めた
『ん?どうしたんじゃ? って!お、おい!』
突然足を止めたマチルダに何かあったのか?と尋ねようとしたが、それよりも早く彼は駆けだして行ってしまったので、慌てて追いかけていると彼は雑貨屋の前で買い物をしてる二人の青年の元に駆け寄っていた
「シーラさん!レーンさん!」
マチルダの呼びかけに名前を呼ばれた二人は少し驚いたように振り返ったが、彼の姿を見ると嬉しそうに応対してくれた。
「わぁ~マチルダくん。こんにちは、君もここに来ていたんだね~」
「おぉマチルダ。元気そうだな」
彼らは王都から離れた郊外で花屋を営んでいる兄弟で、サンの兄達
次男のシーラは青い髪に黒い目をしており、細身でニコニコとした人なつっこい表情と柔らかい口調をしているので全体的にふわっとした雰囲気をしている
長男のレーンは銀茶色の髪を後ろで三つ編みに結んでおり、シーラと比べるとツリ目気味なので一見すると怖そうな印象を受けがちだが、母親のレニが亡くなってからは二人のきょうだいの親代わりとして面倒を見ていたのだが…その分、責任が強いが故に心配性な面もある
サンと年が近かったことや、家が近所だったこともあり幼い頃から一緒に遊ぶこともあれば、レニの御霊流しを通じて彼の生業にも一定の理解を持ってくれているので、成人した今でも何かとマチルダのことは気にかけてくれていた。
そのこともあって彼も二人のことは実の兄の様に慕っているので、大好きな二人を偶然見かけたのが嬉しかったのだが笑顔が苦手なのでぎこちない笑顔を浮かべながら話しかけた
「…久しぶりにお二人に会えて嬉しいです…!あの、お二人がこちらにいらっしゃるということは…今日の店番はサンちゃんですか?」
「うん、今日は僕らが王都に用事があったから一人で任せてるんだ~。ついでに買い出しも兼ねてね」
「自分も王都に行きたい。って駄々をこねられたんだけどな…。でもアイツはほら…オッドアイで目立つだろ?仮に眼帯とかで隠してやっても、何かあったらと思っちまうから気が気がじゃなくてな」
レーンが困ったようにため息を吐きながら頭を掻くと、シーラも同意見だったのか肩を竦めながらうなずいた。 その様子に二人の言いたいことが伝わり小さく呟く
「…そうですよね…。俺はその、慣れてるので良いですがサンちゃんは…」
「おいおい、そこは慣れちゃダメな所だぞ…。 でもなぁ…俺らも過保護すぎるとは分かってるんだけどなぁ…母さんから任されてるし、その…やっぱ可愛いからなぁ」
「出来るだけ店番以外ではあんまり人前に出ないように。って言い聞かせちゃってるのは僕らもダメだなぁ…って理解はしてるんだけど…大事に思ってるからこそ余計にね~。 もちろんマチルダくんも、僕らにとって大事な弟なんだからムリはしてほしくないよ」
シーラの言葉にレーンも納得した様子で頷く。その言葉にマチルダは照れた様子で表情を緩めた。
彼らが談笑する様子を、少し離れた場所からぼんやりと眺めていたカナメは『…家族…か』と小さく呟いた。
今までは特に思い出すきっかけも無かったせいか感じたことも無かったが…「家族」というワードを通して、遥か昔の記憶だが、自分にも愛した旦那と子供がいた頃の記憶が蘇り胸がチクリと痛んだ
彼らと過ごした記憶はちゃんと自分の中に残っているので、いくらでも思い出すことは可能なのだが…
『……羨ましいのぅ……』
どれだけ鮮明に彼らとの記憶を思い出せたとしても所詮は記憶。自分の選んだ結果と言え、ずっと自分だけが思い出す側として残ったカナメは寂しさを感じてしまう。
……しかし、それは自分の選んだ道だ。今更後悔しても仕方ないのだが、今こうして何気なく彼らが会話している姿を見て、いつになく特別感傷的になってしまうのはきっと彼らの母親の記憶を引き継いでいるせいで余計に心が乱されているのだろう
所詮は引き継いだ数多の記憶の中の一つに過ぎないと言うのに…
『子孫は家族であって家族ではない…か…』
ボソッと呟かれた彼女の言葉は、誰にも拾われる事なく虚空へと消えていった。
『ん?どうしたんじゃ? って!お、おい!』
突然足を止めたマチルダに何かあったのか?と尋ねようとしたが、それよりも早く彼は駆けだして行ってしまったので、慌てて追いかけていると彼は雑貨屋の前で買い物をしてる二人の青年の元に駆け寄っていた
「シーラさん!レーンさん!」
マチルダの呼びかけに名前を呼ばれた二人は少し驚いたように振り返ったが、彼の姿を見ると嬉しそうに応対してくれた。
「わぁ~マチルダくん。こんにちは、君もここに来ていたんだね~」
「おぉマチルダ。元気そうだな」
彼らは王都から離れた郊外で花屋を営んでいる兄弟で、サンの兄達
次男のシーラは青い髪に黒い目をしており、細身でニコニコとした人なつっこい表情と柔らかい口調をしているので全体的にふわっとした雰囲気をしている
長男のレーンは銀茶色の髪を後ろで三つ編みに結んでおり、シーラと比べるとツリ目気味なので一見すると怖そうな印象を受けがちだが、母親のレニが亡くなってからは二人のきょうだいの親代わりとして面倒を見ていたのだが…その分、責任が強いが故に心配性な面もある
サンと年が近かったことや、家が近所だったこともあり幼い頃から一緒に遊ぶこともあれば、レニの御霊流しを通じて彼の生業にも一定の理解を持ってくれているので、成人した今でも何かとマチルダのことは気にかけてくれていた。
そのこともあって彼も二人のことは実の兄の様に慕っているので、大好きな二人を偶然見かけたのが嬉しかったのだが笑顔が苦手なのでぎこちない笑顔を浮かべながら話しかけた
「…久しぶりにお二人に会えて嬉しいです…!あの、お二人がこちらにいらっしゃるということは…今日の店番はサンちゃんですか?」
「うん、今日は僕らが王都に用事があったから一人で任せてるんだ~。ついでに買い出しも兼ねてね」
「自分も王都に行きたい。って駄々をこねられたんだけどな…。でもアイツはほら…オッドアイで目立つだろ?仮に眼帯とかで隠してやっても、何かあったらと思っちまうから気が気がじゃなくてな」
レーンが困ったようにため息を吐きながら頭を掻くと、シーラも同意見だったのか肩を竦めながらうなずいた。 その様子に二人の言いたいことが伝わり小さく呟く
「…そうですよね…。俺はその、慣れてるので良いですがサンちゃんは…」
「おいおい、そこは慣れちゃダメな所だぞ…。 でもなぁ…俺らも過保護すぎるとは分かってるんだけどなぁ…母さんから任されてるし、その…やっぱ可愛いからなぁ」
「出来るだけ店番以外ではあんまり人前に出ないように。って言い聞かせちゃってるのは僕らもダメだなぁ…って理解はしてるんだけど…大事に思ってるからこそ余計にね~。 もちろんマチルダくんも、僕らにとって大事な弟なんだからムリはしてほしくないよ」
シーラの言葉にレーンも納得した様子で頷く。その言葉にマチルダは照れた様子で表情を緩めた。
彼らが談笑する様子を、少し離れた場所からぼんやりと眺めていたカナメは『…家族…か』と小さく呟いた。
今までは特に思い出すきっかけも無かったせいか感じたことも無かったが…「家族」というワードを通して、遥か昔の記憶だが、自分にも愛した旦那と子供がいた頃の記憶が蘇り胸がチクリと痛んだ
彼らと過ごした記憶はちゃんと自分の中に残っているので、いくらでも思い出すことは可能なのだが…
『……羨ましいのぅ……』
どれだけ鮮明に彼らとの記憶を思い出せたとしても所詮は記憶。自分の選んだ結果と言え、ずっと自分だけが思い出す側として残ったカナメは寂しさを感じてしまう。
……しかし、それは自分の選んだ道だ。今更後悔しても仕方ないのだが、今こうして何気なく彼らが会話している姿を見て、いつになく特別感傷的になってしまうのはきっと彼らの母親の記憶を引き継いでいるせいで余計に心が乱されているのだろう
所詮は引き継いだ数多の記憶の中の一つに過ぎないと言うのに…
『子孫は家族であって家族ではない…か…』
ボソッと呟かれた彼女の言葉は、誰にも拾われる事なく虚空へと消えていった。
