HAZAMA―未来を映す水鏡―
「こちらに乗った後は、勝手にあるべき場所へあなたを運んでくださいます。…どうか安らかに…」
『あぁ…ありがとう。感謝する』
込み上げる感情を押し殺すように唇を噛みしめながらマチルダは小舟を停めていた紐を解く。すると小舟は静かに夕日が照らす海へと漕ぎ出し、その姿を見送っていると、急かすように空間内の教会の鐘が制限時間だと再び鳴り出した。
(そろそろ俺も戻らないと)
彼は再びパァン!と合掌するように手を強く叩くと、マチルダの創り出した空間は閉ざされ彼の意識も現実世界へと引き戻された。
意識が戻ったのはいいが、空間内の時間は現実世界とは違う流れなので全く時間が経っていないのは良いのだが…なにより静かな場所から一気にこの喧騒に戻ったせいで必要以上に騒がしく感じてしまう
(……っ)
まだ気を抜いてはいけない。そう自分に言い聞かせながら深呼吸をしてから立ち上がり「これにて、御霊流しの儀式を終わります」と締めの言葉と共に深々とリオンへ頭を下げた。
「…俺の仕事はここまでなので、後は葬儀屋へご案内お願いします」
一応離れた場所で待機してくれていた兵士に声をかけたが、返ってくるのは分かり切った侮蔑の言葉。
「はっ!言われなくても分かってる!! だが死神さんよぉ。御霊流しとか言うからどれだけ大層な儀式をするのかとか思って身構えてたけどよ、ただ手を強めに叩いてちょっと喋ってただけじゃねぇかよ!!」
「あんな手を叩いて儀式とかいうなら誰でも出来るんだよねぇ?あーあー…無駄に警戒して損したよ」
「………。」
大声で茶化してくる兵士を無視して彼は周囲を見回し、リオンの記憶にいるクロアを探す。すると少し離れたところで泣いている幼い子供二人を宥めている青い髪をした母親の姿を見つけ、彼女のもとへ歩み寄った。
(引き継いだ記憶では確かこの人が…)
「…あなたが、クロア。さんでよろしかったですよね?」
「!え、えぇ…はい…」
「申し遅れました。私はマチルダ=フェイト。王都からの依頼で先ほどあなたの旦那であるリオンさんの魂を御霊流しさせて頂きました」
「!!……っ」
マチルダの言葉を聞いた途端。クロアは一度治まっていた涙が再び溢れてしまい、口元をハンカチで押さえながら泣き崩れてしまった…それを見た息子たちは、母親を守るように震えながらも彼女の前に立つと精一杯小さな両手を広げて彼を半べそのまま睨みつける
「お…おかーさんをイジメるなぁっ!」
「おまえなんかっ!コワく…ないぞ!」
未だ目からはぼろぼろと涙が零れ、足も震わせながらも小さく必死に威嚇してくる二人に、マチルダは表情こそ変わらないが視線をそらして堪えていると、クロアが何とか持ち直すと「私はもう大丈夫だから…ね?」と優しく諭して自分の後ろに移動させると、軽く身なりを整えてからマチルダのほうへ向き直った。
「…すみません…。辛いことを思い出させてしまって…」
「いえ、こちらこそ取り乱してしまい…それに息子たちまでご迷惑をお掛けして申し訳ございません…。それで夫は…リオンさんはっ!その…何か仰っていたのでしょうか?御霊流しをされる方は…魂となった相手と会話が出来ると聞いた事がありますので」
「…「…愛している。そして、すまない。」と伝えてほしいと…
自分は…口下手で感情表現が苦手だったから気の利いた言葉が全く見つからないと困った様子でしたが、最期までご夫人とご子息のことを案じていらっしゃいました」
「そぅ…そう、なんですね。あっさりした言葉が本当にあの人らしいですわ」
そう言って無理に笑顔を作る彼女の瞳からは、未だにボロボロと涙が流れていたのだが、クロアの後ろで話を聞いていたバノンとノアの二人は慌てて目元を拭った後。彼女を心配させまいと無理に笑って見せた。
これ以上ここに居ても、先ほど引き継いだ記憶に引っ張られ自分の意志とは違う感情が勝手に芽生えてしまいそうだったので、マチルダは彼女たちへ一礼してから静かにその場を離れ教会へと足を運んだ。
『あぁ…ありがとう。感謝する』
込み上げる感情を押し殺すように唇を噛みしめながらマチルダは小舟を停めていた紐を解く。すると小舟は静かに夕日が照らす海へと漕ぎ出し、その姿を見送っていると、急かすように空間内の教会の鐘が制限時間だと再び鳴り出した。
(そろそろ俺も戻らないと)
彼は再びパァン!と合掌するように手を強く叩くと、マチルダの創り出した空間は閉ざされ彼の意識も現実世界へと引き戻された。
意識が戻ったのはいいが、空間内の時間は現実世界とは違う流れなので全く時間が経っていないのは良いのだが…なにより静かな場所から一気にこの喧騒に戻ったせいで必要以上に騒がしく感じてしまう
(……っ)
まだ気を抜いてはいけない。そう自分に言い聞かせながら深呼吸をしてから立ち上がり「これにて、御霊流しの儀式を終わります」と締めの言葉と共に深々とリオンへ頭を下げた。
「…俺の仕事はここまでなので、後は葬儀屋へご案内お願いします」
一応離れた場所で待機してくれていた兵士に声をかけたが、返ってくるのは分かり切った侮蔑の言葉。
「はっ!言われなくても分かってる!! だが死神さんよぉ。御霊流しとか言うからどれだけ大層な儀式をするのかとか思って身構えてたけどよ、ただ手を強めに叩いてちょっと喋ってただけじゃねぇかよ!!」
「あんな手を叩いて儀式とかいうなら誰でも出来るんだよねぇ?あーあー…無駄に警戒して損したよ」
「………。」
大声で茶化してくる兵士を無視して彼は周囲を見回し、リオンの記憶にいるクロアを探す。すると少し離れたところで泣いている幼い子供二人を宥めている青い髪をした母親の姿を見つけ、彼女のもとへ歩み寄った。
(引き継いだ記憶では確かこの人が…)
「…あなたが、クロア。さんでよろしかったですよね?」
「!え、えぇ…はい…」
「申し遅れました。私はマチルダ=フェイト。王都からの依頼で先ほどあなたの旦那であるリオンさんの魂を御霊流しさせて頂きました」
「!!……っ」
マチルダの言葉を聞いた途端。クロアは一度治まっていた涙が再び溢れてしまい、口元をハンカチで押さえながら泣き崩れてしまった…それを見た息子たちは、母親を守るように震えながらも彼女の前に立つと精一杯小さな両手を広げて彼を半べそのまま睨みつける
「お…おかーさんをイジメるなぁっ!」
「おまえなんかっ!コワく…ないぞ!」
未だ目からはぼろぼろと涙が零れ、足も震わせながらも小さく必死に威嚇してくる二人に、マチルダは表情こそ変わらないが視線をそらして堪えていると、クロアが何とか持ち直すと「私はもう大丈夫だから…ね?」と優しく諭して自分の後ろに移動させると、軽く身なりを整えてからマチルダのほうへ向き直った。
「…すみません…。辛いことを思い出させてしまって…」
「いえ、こちらこそ取り乱してしまい…それに息子たちまでご迷惑をお掛けして申し訳ございません…。それで夫は…リオンさんはっ!その…何か仰っていたのでしょうか?御霊流しをされる方は…魂となった相手と会話が出来ると聞いた事がありますので」
「…「…愛している。そして、すまない。」と伝えてほしいと…
自分は…口下手で感情表現が苦手だったから気の利いた言葉が全く見つからないと困った様子でしたが、最期までご夫人とご子息のことを案じていらっしゃいました」
「そぅ…そう、なんですね。あっさりした言葉が本当にあの人らしいですわ」
そう言って無理に笑顔を作る彼女の瞳からは、未だにボロボロと涙が流れていたのだが、クロアの後ろで話を聞いていたバノンとノアの二人は慌てて目元を拭った後。彼女を心配させまいと無理に笑って見せた。
これ以上ここに居ても、先ほど引き継いだ記憶に引っ張られ自分の意志とは違う感情が勝手に芽生えてしまいそうだったので、マチルダは彼女たちへ一礼してから静かにその場を離れ教会へと足を運んだ。