HAZAMA―未来を映す水鏡―


「あ、あの!!御霊流しを生業にされているマチルダ=フェイトさんですね!お待ちしていました!!」
 本人に悪気はないのだろうが…こんな場所で、ましてや大声で肩書きを言われたせいで、周囲の人々からの視線が一気に集中してしまいマチルダは彼に対し若干の苛立ちを覚えたが今は仕事が最優先なのでグッと堪え現場へともに向かった。

案内された現場は周囲の視線から隠すようにシートで覆われた場所で、瓦礫の隙間から見つかったという青年が寝かされていた。
「横転した馬車から息子を庇って跳ねられたらしい。その拍子にそこの店まで叩き付けられたんだが、運悪くそのまま馬車が店にぶつかったせいで同時に上から瓦礫が落ちて…って訳だ
これだけの事故で幸いなのかどうなのか、犠牲者は彼一人だ。んで、あっちのご夫人が関係者だ」
兵士に言われ視線を向けた先には、青い髪をした女性が兵士の一人と喋っている姿と、小さい少年二人が彼女にしがみついているのが見えた。遠目でも彼女達が震えているのが伝わってくる
「……」
「あの二人もまだ幼いってのになぁ…それで?どーすんだい?処理は」
無言で遺体を確認すると、馬車に跳ねられた時に数メートルは地面を引き摺られた形跡もあり、服や背中、腕が特に損傷がひどく文字通りボロ雑巾のようにズタズタだった。 彼に近寄ると、特に血液特有の鉄っぽい臭いに顔をしかめそうになる。
 しかし幸いなことに顔は比較的キレイだったのでそれだけは幸いだ…とそう思いながら、マチルダは無言のまま遺体の前で片膝をついたまま両手を組んで目を瞑りまずは黙祷を始める。

それから数十秒後。マチルダがそっと遺体に触れると、彼の身体から青白い一羽の蝶が現れた。

「今から空間を閉じ、貴方をあるべき場所へ案内します」

その言葉が終わると同時に両手を勢いよくパァンッ!と叩くと、マチルダと青白い蝶は瞬時に姿を消した。
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