HAZAMA―未来を映す水鏡―
マチルダの一族の生業に対し、彼女たちも以前に母親の御霊流しを経験しているので、一定の理解を持ち尚且つ偏見なく接してくれる数少ない相手でもある。
「…おはよう。サンちゃん…」
今までの経験上。対人関係が苦手でどうしてもボソッとしか喋らないせいで随分と不愛想な返事になってしまったが、彼女は特に気にしていない様子だ。
「その恰好…もしかして朝からお仕事?」
「…王都で…事故、あったらしいんだ…」
「そうなんだ…あ、お仕事だしいつもの必要だよね。少し待ってて」
彼女は手慣れた動作で花を選ぶと、簡易的な花束を作り始めた。
仕事の時は必ずここで花を買ってから向かうのは一種のルーティーンみたいになっている。死神と呼ばれて忌み嫌われる自分なんかが花を持つなど気味悪いと言われることもあるが…それでも自分なりに譲れない思いだってある。
「はい。お待たせ」
作ってくれた花束を受け取り、料金を払ってから再び王都に向けて歩くこと数十分。目的地である王都が見え始めてきた。
他の侵入を拒むような石造りの城壁は、遠目から見ても圧巻の光景だ。
出入り口の門の前には当然のように門番が立っているのだが、マチルダの姿を見ると、彼らは警戒と嘲笑を混ぜたような口調で話しかけてきた
「おいおい、こんな真昼間から死神サマのお出ましとはな!!」
「あーっはっはっはっは!!さすが先輩!ジョークも輝いているっスね!」
「………」
二人の軽口に対しマチルダは視線を伏せ、嘲笑がやむのを待つ。下手にここで口を挟んだり逆上した所で余計に時間が掛かり、かえって面倒事になるのは大体予想がつく
「…王都で事故があり、自分の出番だと依頼を頂きました。通して下さい」
「おぉっと!これは失礼致しましたぁ。ささっ、どうぞお通りくださいませ~」
含み笑いのまま門番は手に持っていた槍で地面を叩いて合図を送りながら「開門!」と声を張り上げると、歯車が稼働する鈍い音ともにゆっくりと城門の扉が開かれていき、ようやく入城できた。 たまにこうやってわざわざ城門を開けて貰う時は必要以上に絡まれるので余計な疲労が溜まってしまう…
王都は中心に大きな城があり、そこから四方に大通りが伸びており、大通りに沿って並ぶ建物はどれも背が高く迷路のような構造になっているのだが…こちらも先代王のジークから、御子息のナイトへ政権交代の際に一気に雰囲気が変わったこともあり何度訪れてもこの雰囲気は慣れる気がしない。
普段はどこの場所でも活気に溢れ、賑わった声や笑い声で満ちているのだが…今は王都の兵があわただしく走り回っており、あちこちで怒号のようなものも飛び交っていた。
そんな喧騒の中を通り抜けながら、マチルダが現場に向かうと…そこには石畳の地面に傷跡が残るほど馬車の車輪がスリップした跡があり、その先には横転した馬車が近くの店に突っ込んで停車したようで、周囲には馬車の破片や建物の瓦礫が多々転がっていた。 派遣された兵士たちが慌ただしく救助活動を行う中。マチルダは冷静に周囲を見回す
(俺の担当する奴はどこだ…?)
周囲を見回すが、怒号を上げる者。二人の幼い子を抱きしめながら泣く母親。呆然と立ち尽くす老夫婦など、誰もが今回の事故で混乱しているので、離れたところから探そうと移動したときだった。 救助活動に参観していた兵士の一人がマチルダの存在に気づき、彼のところへ駆け寄ってきた。
「…おはよう。サンちゃん…」
今までの経験上。対人関係が苦手でどうしてもボソッとしか喋らないせいで随分と不愛想な返事になってしまったが、彼女は特に気にしていない様子だ。
「その恰好…もしかして朝からお仕事?」
「…王都で…事故、あったらしいんだ…」
「そうなんだ…あ、お仕事だしいつもの必要だよね。少し待ってて」
彼女は手慣れた動作で花を選ぶと、簡易的な花束を作り始めた。
仕事の時は必ずここで花を買ってから向かうのは一種のルーティーンみたいになっている。死神と呼ばれて忌み嫌われる自分なんかが花を持つなど気味悪いと言われることもあるが…それでも自分なりに譲れない思いだってある。
「はい。お待たせ」
作ってくれた花束を受け取り、料金を払ってから再び王都に向けて歩くこと数十分。目的地である王都が見え始めてきた。
他の侵入を拒むような石造りの城壁は、遠目から見ても圧巻の光景だ。
出入り口の門の前には当然のように門番が立っているのだが、マチルダの姿を見ると、彼らは警戒と嘲笑を混ぜたような口調で話しかけてきた
「おいおい、こんな真昼間から死神サマのお出ましとはな!!」
「あーっはっはっはっは!!さすが先輩!ジョークも輝いているっスね!」
「………」
二人の軽口に対しマチルダは視線を伏せ、嘲笑がやむのを待つ。下手にここで口を挟んだり逆上した所で余計に時間が掛かり、かえって面倒事になるのは大体予想がつく
「…王都で事故があり、自分の出番だと依頼を頂きました。通して下さい」
「おぉっと!これは失礼致しましたぁ。ささっ、どうぞお通りくださいませ~」
含み笑いのまま門番は手に持っていた槍で地面を叩いて合図を送りながら「開門!」と声を張り上げると、歯車が稼働する鈍い音ともにゆっくりと城門の扉が開かれていき、ようやく入城できた。 たまにこうやってわざわざ城門を開けて貰う時は必要以上に絡まれるので余計な疲労が溜まってしまう…
王都は中心に大きな城があり、そこから四方に大通りが伸びており、大通りに沿って並ぶ建物はどれも背が高く迷路のような構造になっているのだが…こちらも先代王のジークから、御子息のナイトへ政権交代の際に一気に雰囲気が変わったこともあり何度訪れてもこの雰囲気は慣れる気がしない。
普段はどこの場所でも活気に溢れ、賑わった声や笑い声で満ちているのだが…今は王都の兵があわただしく走り回っており、あちこちで怒号のようなものも飛び交っていた。
そんな喧騒の中を通り抜けながら、マチルダが現場に向かうと…そこには石畳の地面に傷跡が残るほど馬車の車輪がスリップした跡があり、その先には横転した馬車が近くの店に突っ込んで停車したようで、周囲には馬車の破片や建物の瓦礫が多々転がっていた。 派遣された兵士たちが慌ただしく救助活動を行う中。マチルダは冷静に周囲を見回す
(俺の担当する奴はどこだ…?)
周囲を見回すが、怒号を上げる者。二人の幼い子を抱きしめながら泣く母親。呆然と立ち尽くす老夫婦など、誰もが今回の事故で混乱しているので、離れたところから探そうと移動したときだった。 救助活動に参観していた兵士の一人がマチルダの存在に気づき、彼のところへ駆け寄ってきた。