HAZAMA―未来を映す水鏡―

精一杯の誠意を込めて頭を下げてお願いしたマチルダに降ってくるのは侮蔑と嘲笑の言葉…
 こんな時少しでも反論したり出直すのも一種の手なのかもしれないが、悔しさと悲しみで足が鉛のように重くなってしまっていた
『おい童』
「っ?!」

突然背後からカナメに声を掛けられ、驚いて顔を上げると彼女はマチルダの肩をポンッと軽く叩くとそのまま耳元に顔を寄せた。そして囁くように言う。『少し見ておれ』と
 その言葉と共にカナメは、彼へ嘲笑を向ける門番の背後に回ると彼の後頭部を掴み、そのまま勢いよく門番の顔面を壁に叩き付けた。

「がっ?!…あ…」

ゴシャッと鈍く重い音と共に壁に顔面を叩き付ける相方の光景に、もう一人の門番は状況が飲み込めず目を白黒させて立ちすくんでいた。  
 壁に叩き付けられた門番は、鼻と口唇から血を流しながら呻き声を上げて倒れた
「お、おい…大丈夫か?な…なぁお前…っ」
一応呼びかけてはみるのだが、案の定反応は見られなかったので彼が様子を確認しようと恐る恐るしゃがんだ隙に彼の頭も掴むと、そのまま勢いよく地面へ叩き付けた。

「ぐ……ぇぇ…っ」

カナメの手によって二人とも顔面を叩き付けられる姿を見ていたマチルダは、その光景に呆然と立ちすくんでいたが、『ほれ、さっさと行くぞ』と彼の手を掴んで門を通り抜けると、騒ぎになる前に慌てて路地裏へ逃げ込んだ。

二人はしばらく息を切らしながら路地裏に潜んで様子を伺っていたが、幸いなことに大きな騒ぎにならなかったのでマチルダはホッと息を漏らす。

『しばらくあの辺一帯は騒がしくなるじゃろうが…まぁよかろうて』
「あ、あの…!」
『ん?なんじゃ。はよう目的地に案内せぬか』
「…そ、その…さっきは、ありがとうございました」

さっきの行動に礼を言うのはお門違いなのかもしれないが…不意に頭を下げてお礼を言われたカナメは最初目を丸くしていたが、照れ隠しなのかフンッと鼻で笑って口角を上げる。
『別に童のためにやったのではないわ ただ純粋に…アイツらの顔がムカついただけじゃ。だからちょっと撫でてやったまでよ』
「……。それでも…ありがとうございます。 あ、でも…何故さっきの人達には姿が見えなかったのですか?」
『簡単な話よ。他人を貶める言葉しか言えぬ奴らにワシの姿は見えぬ。………ってのはまぁウソじゃ。強いて言うなればワシが肉体を捨てて魂だけの存在だからじゃ。じゃがまぁ意図的に姿を消しておるそれでも限界はあるのでな、その時はー…』
「…あの…違いが分からないんですが……」
『あーもぅ!信仰心。信仰心の問題じゃ!!四季族がまだ神として信仰されていた頃はこの姿になったワシも皆に視認されておったんじゃ!』

 途中から説明が面倒になったのか、雑に話を切り上げてしまったので、少し残念ではあったが…何よりも今まで散々嫌味を言っては面倒に絡んでくる門番達を(物理的に)黙らせることが出来た事にマチルダは内心感謝していた。

だが言葉にして伝えると、また彼女が照れ隠しにありがたい説教をされそうな気がしたのでそこは黙っておくことにした
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