HAZAMA―未来を映す水鏡―

こうしてマチルダは(不本意ながら)一族の始祖様。基カナメを連れて王都に向かうことになった。…一旦は同行しているので機嫌も少しは直っただろうと思っていたのもつかの間。道中でずっと「始祖様をもう少し敬え」だの「子孫はこうあるべき」等と再び説教が開始されてしまった。

道中はあえて人目に付かない道をわざと選んでいたことと、時間も夕刻だったので幸い誰ともすれ違うこと無く王都の城門付近まで到着したのだが…
 ここから先は嫌でも人目につく。…出来ることなら気が変わってやっぱ帰るとか言ってくれないかと内心で思いながらチラッとカナメを見ると、そんなこちらの心情を見透かしたかの様に、カナメは口を開く
『童よ。貴様今、ワシに帰って欲しいと思っておったな?』
「!えっ?あ、いや…その…」
『ふんっ!図星じゃのぅ。ウソが下手くそじゃのぅ』
「うぐ……っ」

 あえて言葉にして指摘されたせいで、余計に言葉に詰まってしまうのを見て、カナメは勝ち誇ったように鼻を鳴らして得意げに笑っている姿を見て余計に悔しくなる…。
(この人苦手だ…)内心でそう思っていると、いつもの嫌みったらしい門番達が見えてしまったので慌てて彼女を引き留めようとしたが、カナメは一層得意げに笑った。
『そうやっていちいち身構えるでないわ。なぁにワシのこの高貴な姿はその辺の凡人どもには視認すら出来ぬ。 まぁ仮に見えたとて、ワシの中にある数多の記憶から適当な姿を借りて誤魔化せばよかろうて』
「は…はぁ…」

『ワシのことは任せておけば良い』とカナメは自信満々に言うのだが…正直不安しか無い。

(本当に大丈夫かな…)
 そんなマチルダの心配を余所に先に歩き出したカナメは、退屈そうに周囲を見回したりする門番の間を悠々と通り過ぎていく。  確かにやる気が無い仕草をしているといえあんなにも目立つ姿をした人物が間を通り過ぎたというのに…彼らは一切反応を見せていない。
例えるなら、彼女の存在そのものが二人には認識されていないかの様で…。その光景に呆然としていたが、ハッと我に返り慌てて彼女を追いかけようとしたが案の定。彼だけは面倒な絡み方で門番に止められてしまった。

「おぉっと~!死神サマがそんなに急いでどこに行くんだぁ~?」
「んん~?オカシイなぁ?今日は死神サマの出番はここには無かったはずだが??困るなぁ。あんまり出入りされたら大いなる王都が汚れちまうよ」
ゲラゲラと嗤って無意味に絡んでくるだけで、一向に通してくれないので「…用事があるだけです。直ぐに帰りますから通して下さい」と説明はするのだが、淡々とする彼の態度が気にくわなかったのか門番の一人は声を荒げだした。

「死神のくせに生意気なこと言ってんじゃねぇよ!!」
「っ!!」
普段なら自分が何を言っても嘲笑だけで済んでいたのだが…今日は門番の機嫌が悪かったのか、激高した門番の男は突然拳を振り上げて殴りかかって来た。だが咄嗟にカナメがマチルダの腕を掴んで引っ張ってくれたので、回避は出来たのだが…殴りかかって来た兵士は勢いそのままに隣の兵士へとぶつかり二人とも転倒してしまった。
 その光景を呆然として見るマチルダとは対照的にカナメは「いい気味じゃ」と得意げに笑っていたが、直ぐに立ち上がった門番二人は、鋭い眼光を向けながらマチルダを睨み付ける
「てめぇ…っ!舐めた態度取ってんじゃねぇぞ!!」
「死神風情が…!!調子乗んなよコラァ!!!」

怒号をまき散らしながら彼に因縁をつけてくるのだが、これ以上彼らを刺激して一層事を大きくするわけには行かないと判断したので、カナメを制してから彼は頭を下げる

「………。すみません、直ぐに帰りますので…通して頂けませんか?」
「はぁ?!!死神の分際で人間様に楯突いてんじゃねぇよ!!とっとと失せろ!」
「そうだぞ!お前みたいな奴がいると俺らまでケガレるんだよ!!」
「………」

心ない門番達からの罵声にマチルダは唇を噛みしめ俯く。
 今までもずっと数え切れない程に周囲から忌み嫌う言葉を受けていたと言え…過去にこんなにも全否定されたのは無かったので、プライベートで来る事すら自分には許されないのかと思うと悔しくて涙が流れそうになったが、必死に堪えて頭を下げ続けた
17/21ページ