HAZAMA―未来を映す水鏡―

一体さっきから何なんだこの人は!と口に出したくなるのをグッと堪えていると、一旦落ち着きを取り戻した女性は軽い咳ばらいをしてからこちらに向き直った
『あぁもう良いわ。トクベツにワシが最初から説明してやろう…
我が名はカナメ。貴様らフェイト家では代々御霊流しをするのが生業であろう?ワシはそれを始めた者…。言わば始祖。要するに貴様らのご先祖様じゃ!!』
得意気に話して貰ったところ完全に悪いのだが…あまりの情報量に再び頭が思考を放棄してしまう。
「…は…はぁ…」
『なんじゃその気の抜けた反応は?!もっと驚くなりせぬか!』
「…いや…だって…。急に現れてそんな突拍子もない事を説明されても…」
マチルダの反応が気に入らなかったのか、カナメは『ワシが嘘を言って何になる!!全く…最近の若い奴はこれだから…』とブツブツ文句を言って拗ねてしまった。 お陰で冷静になれたので改めて彼女を見ると、確かに言われてみれば肌の色や目の色といい…祖父の代でも同じ色をしていたので、似ている…というか先祖と言われると信憑せいはあるのだが…。 でも誓って言うが自分は彼女みたいにこんな愚痴っぽくないと自負してる。

「…それでその…始祖サマ?が一体何のご用事なのですか?」
『用も何も、貴様がその一族の指輪を継承したからワシの封印が解かれて現代に蘇った。それだけじゃ 子孫の貴様らが受け継いだ記憶は、ワシの目覚めと共に全て共有されたからのぅ…夜の間に色々確認してやったが、どれも面白き宝であったわ』
「…はぁ…それは良かったですね」
『だからさっきからその気の抜けた反応はなんじゃ!』
「…いや、その…そう言われましても…」
 何というか指輪を継承したらオマケ……基。彼女の封印が解かれて一緒に行動する事になるとか教えて欲しかったとマチルダは内心で嘆いた。
『全く嘆かわしい奴じゃ…ワシの孫やひ孫の時はもっと「カナメ様ー!」「始祖様ー!」と喜んでおったと言うのに…末端の子孫がこうでは先が思いやられるわ』
「…。だって顔も知らないおばあちゃんにいきなり訪問されても、どう反応したら良いのか分からないんで…」
『だ、誰がおばあちゃんじゃ!!!ワシは見ての通りまだまだピチピチの乙女じゃぞ!』
「……」
 おばあちゃんと言われた時が一番反応が良いとちょっと楽しくなったが、自身をまだまだピチピチの乙女と言う持論に関しては流石にムリがあるだろうとツッコミを入れたくなったが、これ以上刺激してまた起源を損ねられても困るので黙っておくことにした。

それからしばらくの間。始祖様による一族の歴史に関する授業に付き合わさせられてしまい、ようやく解放された頃には既に夕方になっていた。…今日は依頼が無くて良かったと心の底からマチルダは思うのだった…

 祖父からも一族の歴史に関してはそれほど詳しく教えられて無かったので、ある意味では新鮮な気持ちでもあったが…ミクリアから祖父の苦悩について先に色々教えられていた事もあったので、これは推測に過ぎないが…祖父はあえて教えなかった。そう思うのは考えすぎだろうか?


そんなことを考えながら何気なく時間を見ると、短針が5時を指していた。そろそろ出発しないと王都に入ることすら出来なくなってしまうので、まずは身支度を調えた。
「…あの…カナメさ…おばあちゃん」
『おい、今ワシのことをおばあちゃんと呼び直しおったな!?……まぁ良い、なんじゃ?』
「…こんな時間ですが、王都のミクリアさんのところに報告に行きたいので、留守番を…お願いできますか?」
このまま彼女のありがたい説教を聞いて時間をロスするのは惜しかったので、留守番をお願いしたのだが…

『こんな質素なところにワシ一人置いておくつもりか!?』

案の定駄々をこねられてしまった。
「あ、はい。お願いします」
『ぐっ!こ、この始祖不幸者が!!そこは「始祖様もご同行お願い致します。」とか「直々に同行頂けて光栄の至りです」等の言葉の一つでも言わぬかこの小僧がぁああっ!!!』
「…あ、えっと…はい」
『全く嘆かわしい…何故我が末端の子孫はこうも物分かりが悪いのか…』などと再びブツブツ言って拗ねてしまった…。このまま放置しても良いのだが、その選択をしようとする前に余計拗ねて騒ぎそうな気もしたので渋々彼女を連れて行くことにした。

『最初からそうすれば良いと言うのに…全く融通の利かぬ童じゃ』
「…はい…」
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