HAZAMA―未来を映す水鏡―

「今回の仕立ては久しぶりに手こずったね~…。でも、ミクリアお兄さんの手に掛かればこの通り!生前と寸分違わぬ姿に元通り~」
ミクリアはそう言うと、棺桶の蓋を降ろして全体を見せてくれた。 そこには傷一つ無く、静かに眠っているかのような彼の姿があり、本当に彼の技術力は魔法のようだと尊敬していた。

「マチボーイが持ってきてくれたお花も飾ったから、きっと彼も喜んでくれるさ」
「………」
 自分がやっていることは所詮自己満足だと分かっているだが…それでもこうやってあえて言葉にされると、自分がやっている最後の手向けにも意味が見いだせて、無駄じゃないんだ。そう思えて嬉しかった。
…良くも悪くも…この人はこちらの心を見透かしたかのように的確な言葉を使ってこちらを揺さぶってくるのが上手いと思う。

「…用事も終わりましたので、これでお暇します」
「あ、、マチボーイ!少し用事があるからさ、さっきの席で待っててよ」
「?はい、分かりました…」
珍しく呼び止められた事に少し驚きながら、先程の応接室に戻り椅子に座って待機していたが…段々手持ち無沙汰になってきてので、貰ったクッキーを口に入れながらぼんやりと周囲の内装を見回しながら待っていると、しばらくして戻ってきたミクリアの手元には何故か赤い小箱が握られていた。
「はい、マチボーイにプレゼント!確か今日は成人した誕生日だろう?おめでとう!」
「………。いえ、違います。数年前に既に成人していますし、今日は誕生日でも何でもない日です」
 突然に何を言い出しているんだこの人は…。と完全に冷めた目でミクリアを見るが、彼は特に気にした様子も無く「いいから受け取って」と小箱を渡してきたので、渋々受け取ることにした。
……箱に施された装飾やサイズから見ても中身が指輪だと言うことは容易に想像できる。だが何故それを自分に渡してくるのかが全く理解できないので、そっと机の端に置いてからミクリアに視線を向ける。

「…何か怪しいので要らないです」
「まぁまぁそう言わずに。マチボーイが成人したら渡そうとお兄さんずっと思っていたんだよね~」

開けてご覧よ!と急かしてくるのだが、嫌な予感しかせず頑なに拒否するマチルダに彼は小さくため息を吐き、そして「マチルダ。コレは命令だ」と、いつもこちらを茶化しおちゃらけた高めの声とは違い、酷く緊張をしているような低く固い声に一瞬ビクッとしながらも、マチルダは言われた通り小箱を開けるとそこには古いカレッジリングが収められていた。

「っ!これは…!!」

リングの中央にはルビーの宝石がはめ込まれてあり、リングには蝶の模様が彫られた独特のデザインをしているこの指輪には見覚えがあった。 確か…そう。先々代の祖父が生前身につけていた指輪だ。
代々成人した子へ受け継がれてきた指輪で、御霊流しをする一族の証とも言える物だ。
 だがコレは…マチルダが成人する前に、アーネストが死別していたので指輪の存在などとっくの昔に失われていると思っていたのだが…

「…な…んで…ミクリアさんがその指輪を?!だってコレは…俺の…」
「あぁそうだ。代々君の一族に受け継がれてきていた証の指輪だ。」

一度そこで言葉を切ると、ミクリアは着けていたカラスマスクを外したのだが…露わになった素顔から覗く紺碧の瞳はいつになく真剣で…それでいて憂いも感じられマチルダは思わず息をのんだ。
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