― An EvilPurify ―緑の調べは赤の道

 エントランスを通り、外に出ると待機していたRose隊員に声を掛けられた。エトワルが用意してくれていたらしく、そのまま馬車に乗り込んで城下町へと向かった。
城下へ到着する頃には日も陰り、街灯がちらほらと辺りを照らし始める時刻だった
「では私は一旦支部へ戻ります。」
「おう!わざわざありがとうな!」
「このぐらいどうって事ありませんよ!…しかしアルバトロ隊長も隅に置けないですねー。浮ついた話無いと思っていたら、こんな素敵な美女をエスコート出来るなんて本当羨ましい…// あ、ですがレト副隊長が知ったら妬いたりしませんか?(笑)」
「あっはははー…;だ、大丈夫だって!そんなぐらいでは嫉妬しないって」

 アキの腕にしがみつく様にして立っている女性がリオン本人とは知らず、送ってくれた隊員は悪気無く少し茶化した風に尋ねたが、それが彼の神経を逆撫でしたらしく、僅かに顔の筋肉がピクリと動くが、今はどうしても反論が出来ない為。代わりに八つ当たりの意も含めて無言の怒りを込めてしがみつく。
ギリリッとアキの腕強めに爪を食い込ませて来るので、これ以上は勘弁してほしいと強く思いながら引きつった笑みで返答する
「では、後ほどまたご連絡下さい」
軽く一礼をしてから隊員は再び馬車を走らせて大きくUターンしてから支部の方に向けて走り去っていった。 馬車が完全に遠ざかるのを確認し、周囲に人が居ない事を確認してからアキから離れて溜まった鬱憤をぶつけた

「あの隊員…絶対に許さん 確かに今は女装させられているが自分は男だってのに赤くなりやがって…(怒)」
「落ち着けってー;何も知らない隊員が騙されるぐらいの完成度って事だよ。それより、俺が必ず守るから頑張ってくれよ リンコ! その首輪のとこにさ、盗聴器も念のため付けてあるから…何かあったらすぐに言ってくれよ?ちゃんと近くにはいるけどさ…」
「うるさい」
何度言わなくても解ってる。と言わんばかりに相変わらずのツンとした態度でそっぽを向くとそのままゆっくりとした足取りで歩き始めた。

 やれやれ…と頭を掻きながらそれを見送っていると、しばらく歩いた辺りでふとリオンが後ろへ視線を送り彼の方を少しだけ見ると小さく頷くと、それを合図に彼も行動を開始し一定の距離を空けながら共に一番連続殺人事件が起きている路地裏へと向かった。


 表通りの整備された石畳の道とは違い、あまり整備されていない石畳造りの地面に何度かよろめきながら重い足取りで路地を練り歩く
(街灯が少ないから足元もまともに見えない…ましてや肩が寒い…首輪と良いコルセットと言い……これを着ている女性は凄いな…)
内心で大きく溜息を吐きながら少しづつ慣れ始めた足取りで歩く事数十分。特に音沙汰も無いままに時刻だけが刻一刻と空しく過ぎ去って行った
(参ったな…)
困った様に眉間に皺を寄せながら仕方なく一旦路地裏から離れる事にし、表通りに戻り街灯の下で休憩した
このまま成果が無いと女装損だな…とぼんやりと空を眺めていると、ふと後ろから声がかけられた。振り向くと彼女の目の前には膝丈ほどある厚手の黒いコートを首元までしっかりと留めた長身の黒髪の青年が立っていた。 一瞬警戒はしたが、今は“一般女性”として彼へ笑みを返した

「こんばんわ。素敵なお嬢さん こんな夜におひとりでお散歩ですか?」
「こ、こんばんわ…ええ、ですが今少し人を待ってますの」(裏声)
「そうですか…それは残念だ。折角貴女の様な美しいお方をエスコートできれば…と思ったのですが ああ、失礼。申し遅れましたが私はドルディー=ルイン」
「うっふふふ。お世辞がお上手ですのね 自ぶ……私はリンコです」
 とりあえず怪しまれないようにとシルドラの仕草を思い出しながら素が出そうになるのを必死に堪えながらくすくすと微笑んで見せると、その様子に青年はまるで慈しむ様に目を細めながら口元を笑みの形に緩ませた。
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