― An EvilPurify ―緑の調べは赤の道


「俺さ…あの時断られても一緒に付いていってあげるべきだったよな…」
そうポツリと呟く彼の言葉に視線だけをアキの方へ向けた
「そうすればさっきの事件も防げたんじゃないかな?って思うんだ…怖い思いさせちゃったの本当に申し訳なくってさ」
 微かに震える手を強く握り締め、悔しそうに下唇を噛み締める。 彼の独り言を一通り聞き終えると自分の方へ視線を戻し眼を伏せる
「君が悪いんじゃない…」
同じ様に独り言のようにして返すと、その室内は空気が張り詰めたように静まりかえり、静寂がその場を覆い尽くす。

何分。あるいは何十分そうしていたかは分からないが、お互いに背中合わせになるようにして座っていると、その静寂をくかき消す様に通信機に連絡が入った。
番号を確認するとエトワルからで、出るのを一瞬躊躇ったがとりあえず応答すると即座に自分の部屋に来い。と用件だけが伝えられ通信は切れた
今の状態で気乗りはしなかったが、行かないと何をされるかは分からないので向かうことにした

ノックし支部長室へ入室する
「お呼びでしょうか?」
「来たか。…単刀直入に言うとさっき保護した奴の治療は終えて今は寝てる」
「!じゃあサンちゃんは大丈夫なんですね!」
「傷はそこまで深くなかったからな…だがまぁ、寝かしていると言ったほうが正しいな それで本題だ。記憶と心の中読んでみると面白いことが分かった」
 そこで一旦言葉を切るとエトワルは愉快そうに口元をニヤリと歪めた

「まず犯人の顔が薄暗い景色ではあったが判った。…といえ、そのせいで狙われたんだろうが それに犯人の方にも随分と焦りがあるみたいだったな」
「…一連の事件の犯人がそうであるならば、と確かに…当初の手口に比べて随分と荒っぽくなっていますからね」
リオンの返答に同意なのか再び愉快気に笑って頷く
「相手がどう言う心理なのかは気にするつもりはないが、次の囮捜査は自分も向かう …ついでにだが…お前らが保護した時には異常に怯えていたとか言っていたな」
 
 その言葉にアキがパッと顔を上げる

「そうなんですよ やっぱり怖いし痛い思いさせちゃったからそのせいで…?」
「半分正解…ってところだな。
見た光景は育ての親ときょうだい関係でもある奴らの日常だったが…その育ての親が病死する時に見た大量の吐血と、傍できょうだいも赤く染まる姿。そこで途切れているんだがそのきょうだいが育ての親を殺したとでも思いこんだのが強烈な記憶 まぁトラウマになっているんだろうな 勿論勘違いだった訳だが
今回は大量の血液を見て、意図的に消していた部分が一気に蘇ったんだろうな」
「それであんなに…」
(この人の前では油断してるとプライベートも丸見えか…恐ろしい……念のため家通いにしておいて正解だったな)
 淡々とした口調で説明してはいるものの、その表情には同情の色は一切無く、寧ろ面白いモノを見せて貰い、いつになくテンションが高い様子でついでの様に続ける
「ちなみに今はイシュヴァリエの第二王女の従者をしているようだ。……フリーなら俺が飼いならしてやろうと思っていたんだが」

至極残念そうに最後の言葉を付け足すと、素手のままだった手に革製の手袋をつけ直す
「城の方には俺の方から連絡しておいたから、明日には送り届ける」
「じゃあ俺ちょっとサンちゃんの所行ってくる!!」
「だから今は薬も打って寝かしてある。…って聞いていないな」
エトワルの言葉を途中までしか聞かずその場を飛び出していった。
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