― An EvilPurify ―緑の調べは赤の道

二人がイシュヴァリエ国から一旦離れ、隣国の貿易が盛んなヴァルハラ帝国郊外にある「フォールン・ソノラ」の酒場へ帰省して3日程経った頃
「終わらねぇよリオンー…なんで俺たち…お店の掃除手伝いさせられてるんだろ…?」
「ツッコミ入れるとキリが無いぞ…」
久しぶりに遊びに行ってみたい。と提案した事をアキは心底後悔していた。 店内の床の掃き掃除を終え、モップ掛けの途中で疲れた様にそうぼやくと、カウンターで永遠とグラス拭きをさせられていたリオンは遠い眼をしながら力無く返答した

「この私が貴様ら二人をタダで泊めるとでも思ったか?」

新聞片手に裏口から帰ってきた白髪交じりの紅い髪に切れの長い銀の瞳。茶色のファーが付いたローブを羽織ったこの店の主である初老の女性。「ヴァレンチノ=レト」は冷めた眼と声で二人に容赦なく言い放つ
「流石母上……容赦がないですね…」
「ふっ。当たり前だろう?突然私の所に連絡も手土産の一つもなく無く転がり込んて来ておいて快く受け入れて貰えると思うな。つべこべ言わずさっさと掃除を行え」
 相変わらずの厳しい言動に二人はげんなりとした様子で手を動かし始め、彼女は掃除が終わった席に腰掛け、持っていた新聞に目を通した。

「はぁぁぁ……ん?ヴァレンチノさんって新聞はジュナル派なんですね~。てっきり王道のフォルトゥレスとかだと」
「確かにフォルトゥレスの方が情報が早く知れると有名ではあるが……私はこっちのファンでな。週に二回。ペットたちの日常写真が載せてあって楽しいぞ」
「初耳ですね」
「一体お前たちは私の事をどう思っているんだ全く…ん?おい、この記事…」
一旦そこで言葉を切った彼女の元へ、手を止めて二人が駆け寄ると、そこにはあまり大きくはないもののイシュヴァリエ国で再び殺人事件が起こった。との内容で、現段階で6人目の被害者が出てしまった。と…
「リ…リオン……どうしよう…;」
「非常に…まずいな…」
「どうしよう…支部長にまともに合わせられる顔が無い……犯人捕まえるのにまた女装しろとかそういうのあるのかな…?」
「やめろ」
「女装…?調査の一環なのは分かるが何があったのだ?」
新聞記事の内容に戦慄しつつ、うっかり口を滑らしたアキの言葉にヴァレンチノが聞き返すと、それを思い出したリオンは真っ赤になってアキを張り倒し、襟首を掴んで急ぎ足で奥の部屋へと向かって行ってしまった。
(…大体何があったか分かったが……アイツがそんなことするとは…珍しい…)

あからさまな彼の態度の変化で簡単に悟ったヴァレンチノは、珍しいことが起きるもんだなぁ…と関心しながら表情を緩め静かに微笑みながら、再び新聞に目を通す

「ほぅ…このペットの寝顔。可愛いな……ふぅ…やはりこういうのを見ると独りが寂しく思う時もあるが…」


一人和やかな時間を過ごしていると、二人が泊まっていた奥の部屋が再び騒がしくなり、忙しない足音をたてながら荷物をまとめた二人は一旦彼女の元へ立ち寄った
「それでは戻ります。母上」
「ヴァレンチノさーんお邪魔しました~…」
「うむ気をつけてな」
視線はそのままで手だけで彼らに合図を送っていってらっしゃいと見送る。

慌ただしく列車へと飛び乗り、二人は重い表情のまま列車に揺られながら再びイシュヴァリエへと戻った。
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