夢より現れしは紅き退魔の剣

中庭を通り、噴水のチェックや庭の手入れをしている人々に手を振って挨拶を交わしつつ、正面にある扉を開けてエントランスに到着すると、トレーの上にティーセットと小袋に入れたクッキーを乗せた水晶と丁度出会った。

「あ、水晶ちゃんおはよ~!」

「む?主か。うむ、おはよう 主は…どうやらその者と契約を果たしたのだな」

「うん。何かもうよくわかんねぇけど、もらえるならもらっておこうかな~なんてなっちゃって☆」

「幸先不安なのよ」

「…私もそう思う…」

 楽しそうにアハハ。と笑うエクの隣で、露骨に残念そうにして顔を伏せてしまった御幻に水晶は同情の意を込めて数回頷いた。

「なあ水晶ちゃん、他の皆って大広間?」

「リークは自室で昼寝中だが、他の者は今日は一度花屋に行くと言っておったな」

「それなら話が早いわね。なら水晶、何がどうあってアンタがここに居るのか合点が行くわね 話に付き合いなさい!」

「詮索する気は毛頭無いが…主がそう言うなら仕方無いのう」

 得意気に言ってみせるが、彼女は相変わらず表情を一切変えないので、関心があるのか無いのか分からない様子だったが、折角用意して貰ったお茶が冷めてしまうと思い、トレーから片手を少しだけ手を離して手招きし自室へと案内した。

 エントランスにあった階段を上り、いくつかの角を曲がった先にあった扉前で一旦立ち止まった。

「すまぬが手が空いておらぬので開けて貰えぬか?」

「まかせろー!」

言われたとおり扉を開けると、そこは絨毯やカーテンにおいても埃一つ見当たらず、家具の配置も全て丁寧に整えられた「無駄」と言う言葉が一切見当たらない部屋だった。 家具や掃除具合から見ても随分几帳面な性格なのだろう。
 ここまで全てを綺麗に整えられた室内に二人は驚いて部屋に入る事も恐縮していたが、気付いた様子も無く水晶は軽く礼を言ってから室内へ入り、ドレッサーの上に一旦トレーを置くとベッド脇に畳んであった簡易的な椅子二つとテーブルを用意してくれた。

「これで良かろう…?主ら。入らぬのか?」

「だって部屋があまりに綺麗に整い過ぎててっ!!」

「な、なんでこんなにきっちり全部配置してるのよっ!普通女の子なら服の一つや二つベットの上に放置したり、何か物が落ちててもおかしくない筈なのに…!」

「何をそんなに恐縮しておるのか分からぬが…この程度は普通であろう?カップが無いので紙コップですまぬがな」

トレーを机の上へ置き直し、紙コップの中に紅茶を注いでドレッサー場所にある椅子に腰かけると、ようやく二人が恐る恐る部屋に入った。

促されるようにして簡易的な椅子にお互い座るも、緊張して固まったままだった。

「お、俺…こんな整った部屋って苦手だ…っ凄すぎて」

「わ、私もよ。こんなに綺麗にしてる部屋って初めてよ スイお姉ちゃんの部屋だってこんなんじゃなかったもの…」

「主らが緊張している理由は一切伝わらぬが…ところで、剣姫。で良いのか?」

「名前でも通り名でも好きにしてよ!」

「では通り名にさせて貰おう。 剣姫は、私が此処にいる事に合点が行くとか言っておったのう?」

 先に話せ。と言いたげにわざと目を細めて口角を上げてニヤリと見つめると、悔しそうに渋る御幻を余所に、用意された紅茶やクッキーを早速頂いていたエクが簡単に話し始めた。
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