夢より現れしは紅き退魔の剣

完全に消え去ってしまった二人の姿に彼は只々満足そうに笑んだ。

『ふっふふふ。いつも恋焦がれていた太陽に焼かれて彼女もさぞかし喜んでくれているだろうね どうせ僕の期待を叶えてくれそうにも無かったから、使えない駒はさっさと捨てるに限るね ああ、深時。さっきの続きを言ってごらん?』

「何をぬけぬけと…」

「…推測でしかないのだが…主はトレートルではなく「月薗 刹羅」ではないのか?と聞きたいのだ」

「つき…ぞの??って誰?」

「どっかで聞いた気がするようなないような…」

水晶の問いかけた名前に、二人は全く心当たりが無いらしく誰だろう?と首を傾げていると、肩を震わせて嗤った彼は纏っていたローブのフードをようやく取って見せた
 その姿にエク達は相変わらず誰だろうと首を傾げてはいたが、露わになったその姿に水晶は数歩後ろへ下がった

『流石だね。深時 大当たりだよ
そう、僕はトレートル基…月薗刹羅だ』

「水晶ちゃんと…知り合い??」

「上司…と言った方が妥当だろうが……だが何故貴方がこのような所にいるのだっ?! 貴方は確かセフィリアの処刑が行われそうになったあの日。奴らに斬られて死んだはず…」

『ああ…そう言えばそんな事もあったね。あっははは!君はとっても頭が良いと思っていたんだけど本当に信じていたなんて凄いなぁ!ははははっ!はぁーぁ。だけどこの僕の正体に気付けた事だけは褒めてあげるよ』

自嘲するような笑みを浮かべながら彼はくしゃりと髪を掻き上げた

『さて…深時。君達はもうここに用はないよね?早く戻るべきだ。剣姫達の手柄は君のモノにすると良い。僕が許そう』

「月薗殿…主は一体どちら側なのだ?目的も読めぬ事ばかりで…何をしようとしておるのだ??」

 頭の中ではリースの忠告に従った方が良いとは思っていても、目の前に立つ彼の姿に酷く動揺と混乱している彼女は尚も深く問いかけると、刹羅の表情から笑みが消えた

『僕は戻れ…と言ったよね?そうだなぁ…どちら側。と言う疑問には答えられないけど、目的だけは教えてあげよう とある一人の女の子を探している。それだけだよ
 そうそう深時。何も知らない振りして従うのも、逃げるのも自由だ…これ以上の事を知りたいと思って聞くのも自由だけど、その後どうなるかは……聡明な君ならもう解るよね?』

わざとらしく小首を傾げてみせると、その意味を理解した水晶はギュッと強く下唇を噛んだ

『うんうん、とてもいい子だね。
さて…僕は一足早く帰らせて貰うよ ここからヴァルハラまでは隣国と言っても結構距離があるからね』

 完全に興味を無くした様に淡々と説明すると、彼はもう一度フードをかぶり直して礼拝堂を去って行った。


 ようやく訪れた静寂に緊張の糸が完全に切れたエクは、糸の切れた人形の様にその場に倒れそうになり、寸前の所で御幻が受け止めた。
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