夢より現れしは紅き退魔の剣

 急速に失われていった彼女の感覚にセフィリアは重ねた手をしっかりと握りしめていたが、背中から浸蝕していた石化がそのまま全てを覆った直ぐ後に跡形もなく崩れ去ってしまった。 トレートルはその光景を只静かに見下ろしていた。

微かに手の上に残った物を強く握りしめたまま俯く彼女へも視線を向け、トレートルはもう一度銃を向けた。
 セフィリア達とは仲間同士だと思っていた三人にとって、トレートルが行った行動は理解しがたいものであり、堪えきれずエクは声を上げた

もうやめろよアンタっ!!そんな事しなくったって…この姉ちゃんはもう反撃できる気力も無い筈なんだぞ!なのに…

『おや?随分君はおかしなことを言うんだね。君はレルクやセフィリアに痛い目を見ている筈なのに庇おうとするなんて』

『止めなさい…っ…彼に意見するのは……』

「こんなこと目の前で起こってて黙ってられるかよっ!!」

『あっはははは!!見た所随分満身創痍だと言うのにとっても君は威勢がいいんだね。あははっははは。 そうだなぁ…ああ、そう言えばセフィリア君は覚えているかい?あの日…聖仙界のお嬢様。魅録が言った言葉を』

「魅禄…?」

トレートルが発した「魅禄」と言う名に、水晶は僅かに反応した。
そこで一旦彼は言葉を切ると、懐に入れていた金の懐中時計で時間を調べた。

『魅録は言っていたね。処刑する日は清々しい夜明けに限ると ましてや君の様な夜にしか生きられない存在の君達を処刑するには絶好の日だと…』

「その言葉……主はもしや…」

 言葉の意味がまだ理解できていないセフィリアは微かに首を傾げていたが、ローブの隙間から見える口元はニコニコと笑っていたが、ようやく彼の正体に気付いてしまった水晶はハッとした様に言葉を発しようとしたが、それに気付いた彼は口元に指を当てて黙る様に指示した。

『そろそろ時間か…さぁセフィリア。喜ぶと言い 君のような存在が恋焦がれても一生手に入る事も出来ないこの光を!!』

『何を…』

言い終ると同時に、彼は玉座の方へと視線を向けて銃段を撃ち、背後にあったステンドグラス部分を撃ち砕いた。 大きく広がったそこには薄紫色の夜空と森の景色が広がり、流れる様に吹いた風によって動いた木々の隙間からは、徐々に昇り始めている淡い橙色をした朝陽が見え、その光は少しづつながらも礼拝堂の中を照らしていたが、突然突風にも似た風が木々を揺らしたと同時に、木々の隙間から辺りを照らしていた朝陽は遮るものが無くなった為。礼拝堂の中全体を照らした

「うわっ?!眩し…」

 急激に照らされた光にエク達は眩しそうに目を眩ませたり、閉じたりと様々な反応をしていたがセフィリアだけはその光に対し苦しそうに叫んだ

くっ…ぁあああ!!

全身に光を浴びてしまった事で彼女のまだ石化が進んでいなかった手や顔に無数のヒビが入り、そしてレルクの時同様に跡形も無く崩れ去ってしまった。
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