夢より現れしは紅き退魔の剣

各々が一通り手紙を読み終えた辺りでリークが真っ先に返事を書こうと提案したのをきっかけに、その場にいた皆がそれに賛同した。
丁度城内に用事があった水晶が先にリークと一緒に向ってくれる事になった

「残したままの用事があるので私は先に失礼させて貰う 行くぞリーク。あまりはしゃいで転ばぬようにな」

「うんー!オレっち気をつけるー!!」

「用事って…何かあったんですか~?」

「うむ、返事も後で書かきたいと思うのだが、今は先にメイドの者達に挨拶せねばならぬのだ…日課と言うか……彼女達から一日一回以上は顔が見たいと頼まれておってな」


 そう言って去って行った水晶を見送り、その場に残った彼らは各々決めていた作業へ戻る前に庭の点検を始めると、お土産が楽しみなエクも珍しく手伝いに立候補してくれた。

 従者でも無いエクにも手紙が来た事や彼らが和気藹々としている姿を離れた所から見ていた御幻は、自分が仮で居るだけの存在と言う事を改めて感じ、無意識的に湧き上がってきた寂しさを堪えようと強く唇を噛んだ。

皆が点検に入った中。一人で立ち尽くしたままだったので自分も手伝うべきだろうか?と思い、入り口に居たエクの近くに寄った時だった。 エクの感知の目が反すると同時に突然大きく地面が揺れ、その場にいた一同が動けずにいると整備されている石畳部分にヒビが入り、轟音を立てて目の前の噴水が粉々に破壊された。
 何が起こったのか理解する間もなく、破壊された噴水の下から無数の黒い荊がまるで一本の柱の様にまとまって現れ、空高くまで伸びた荊は四つに分かれそして花托部分に口がある巨大な黒薔薇が四輪咲き、甘い香りが辺りに充満した。

「ひゃわっ?!なな、何か変なのが生えてきちゃったよ??」

「何…これ?」

「こ、コイツまさかっ?!シェリ姉ちゃんにサン姉ちゃんにシー兄!レー兄!早く逃げ…」

突然の出来事に呆然と立ち尽くしていた彼らに、その存在を知っているエクが逃げる様に注意をしようとした所で、地面から生えた黒い荊によって鳥籠のような物が作られてエクと御幻が捕えられ、シェリルは地面から生えた荊が腰元に巻きついて吊り上げられてしまった。

「!?シェリルっ!シェリル大丈夫!?」

「エク?!御幻さん!大丈夫か?!」

「ひゃぅぅ…サンーっ!怖いよっ助けてーっ!」

「俺も何気に怖いから急いでーっ!!」

「さっきから色々何が起こってるんだろう…?あ…でも、折角留守をお任せして貰ってるのに庭が壊れちゃったな…」

 目の前にいる黒薔薇よりも壊された噴水の破片をシーラが拾い上げていると、彼らの頭上で甲高い笑い声が響き、上を見上げるとそこには手をしっかりと繋いで背中の羽を羽ばたかせて飛んでいる麗姫と魅芭紗の姿があった

「何…?あの二人。角っぽいものと羽が生えてる…」

「人?いや…浮いて…ええっと…??」

「わぁ~可愛いお嬢さんたちだね~ 庭を壊して新しいお花を植えて、エク達まで捕えて…何の御用かな?」

「愚問ですわね」
「今から四姉妹に食べられる奴なんかに教える気なんてありませんわ」

極めて冷静に問いかけてみたものの、嘲笑する様にして返されたが、彼は動揺する訳でも無く困った様に眉根を寄せただけだった。
 早く逃げた方が良いと促す御幻達を余所に、双子は無慈悲にも召喚していた黒薔薇たちに命じた

『目覚めよ黒薔薇四姉妹!!暴食、貪食、悪食、美食!』

双子の声に反応して、俯いたままだった黒薔薇は意思を持った様に動き始め、甲高く叫ぶような声を上げて花托部分の口を大きく開けた。

「薔薇が嫌いになりそう…だけど、シェリル達を早く助けなきゃ」

「同感だな…ついでに庭の修繕も忙しくなりそうだ」

「理由は色々あるんだろうけど、僕らにとっての大事な子を捕えたり、大事な帰る場所を壊されるのはこれ以上黙ってられないなぁ…?」

普段通りのニッコリと笑った表情を崩さなかったが、その声からはいつもの軽い調子は消え、背中に背負っていたヘルヴェイルを一気に鞘から引き抜いて彼女達に向けた。 それを合図にサンも腰に差していた刀を構え、レーンも腰に付けていたホルダーに仕舞っておいた鉤爪を付けた。
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