夢より現れしは紅き退魔の剣

 礼拝堂から何とか脱出を果たしたエク達だったが、途中で水晶が怪我の事もあって当分共に行動は出来そうに無いから身を隠す。とだけ告げて分かれて行動する事になり、二人だけで道場に帰って来た。

命からがら脱出を果たせた事を今になって実感した二人は部屋に入った途端大きく息を吐いた。

「お、俺達…助かってるんだよな…?」

「うん…一応ね」

「あー…本当にびっくりした…水晶ちゃん大丈夫かな…?結構痛そうだったけど…」

「アイツならきっと平気よ。それよりエク…」
言いにくそうに息を呑み、視線を彷徨わせながらも彼女はエクに問いかけた

「アンタがあの時ね…レルクに聞かれて言い切った言葉…あったでしょ? アレ…凄く嬉しかった。そんな事言える立場じゃないけど嬉しかったの」

「お、おう」

「レルクが言ってた事は本当よ。私の力は退魔師の力を強制的に使わせているから負担も大きいし寿命も削られる 期限までは分からないけどエクも本当に半年かもしれないし…短いかもしれない。あの時言ったのが今になって後悔したから解除するとか…言ってくれても良いのよ?」

拳を強く握りしめ、絞り出すような声でエクにそう問いかけると、彼は無言のまま御幻の前に歩み寄りそして背伸びしながら躊躇いがちにぺちっ。と軽い音を立てて頬に一撃が入った

「え??」

「Σ!!」(咄嗟に防御態勢)
「あ、平気か…」

咄嗟に防御態勢に入るエクに対し御幻は意図が解らないと言った様に呆然とエクを見返していたので、反撃の心配はないと十分に確認してから話をつづけた

「あの姉ちゃんがどう言おうが御幻は目的があるんだろ?!そんなもんで迷うなんてらしくもねぇ…確かにさ、そのー…御幻の影響で短命とか聞いて最初はびっくりしたし迷ったけど、もし俺が破棄したらどうすんだよ?」

「それは…その…」

「いっつも傲慢で暴君の御幻がそんな表情するなんて見たくもねぇし…何よりあんな汚い手を使う事自体許せねぇよ! めっちゃ綺麗であんなに優しく抱擁してくれた姉ちゃんがあんな目に遭わすなんてっ!!!人生最大のモテ気だとか思ったのにっ!!」

「エク…??」

「…あーえっと…とにかく!!俺は後悔したくないって事だよ!!良いか?!例え御幻がどんなに破棄したいと思っても一応ご主人は俺だから破棄なんて絶対に許可しないからな!!勝手にしたら夢の中探し回ってでも見つけてやるから…だからその…いつもの様に怒ったり泣いたり笑えよ…へこんだままの御幻なんて俺の知ってる御幻じゃないし…」

 声を張り上げて言ったものの、自分が言いたいのはこう言うのじゃなくて…と頭を抱えて悩んでしまったが、エクの言葉に彼女はその場に座り込んで一筋の涙を流したが、その表情は晴れやかだった。

「夢の中まで探し回られるのはさすがに困るわよ…ばか…」

「俺…ぜってぇ強くなるよ。いつまた襲撃されるか分からねぇけど…」

頭をがしがしと掻きながら告げると、御幻は静かにニコリと微笑んでくれた

「…うん、期待してる あのさ、エク…今度稽古する時から提案があるんだけど」

御幻から出された提案にエクは自信なさそうに頷いた。
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